通信074 音声学との出会い

【週刊ハンガンネット通信】《第75号》(2013年3月25日発行)

音声学との出会い

伊藤耕一

韓国語ジャーナルの休刊は、とても残念ですね。私より生徒さんたちの方がもっとショックを受けていました。

春はお別れの季節ですが、出会いの季節でもあります。3月も下旬になり、大学入試に合格した皆さんは、学生生活を心待ちにしている頃でしょう。

20数年前の今頃、私は大阪に住めることが嬉しくて嬉しくて仕方なかったことを思い出します。
昔のことを少し思い出したので、今回は学生時代のことを書いてみたいと思います。

私が大学に入ったころ、外大は1年次から専攻科目があるのですが、朝鮮語の先生がこんな質問をしたことがありました。
「これを読んでみてください。『しょうがっこう』、いかがですか?」

一人一人「しょうがっこう」と順番に読んで、ひととおり読み終わったあと、先生はこんなことをおっしゃいました。
「読んでもらうだけで東日本出身の人か西日本出身の人か、だいたい分かるんですよ。」

私が音声学に強く興味を持った瞬間でもありました。
先生は「しょうがっこう」の「が」を濁音で発音するのか、鼻濁音で発音するのか、聞いていたのです。

一般的に、東日本出身の人は「が」を鼻濁音で読み、西日本出身の人は「が」を濁音で読むそうです。
韓国語で書くと「쇼옹악고오」「쇼오각고오」といった感じでしょうか。

私は韓国語の文字を教える時、この話をして生徒さんの発音を確かめるようにしています。

面白いことに、「が」を鼻濁音で読む人は「ㅇパッチムと母音」を最初から上手に発音することができますが、「화가」を「황아」みたいな音で読むことが多く、母音の後の「가」をうまく発音できません。

反対に、「が」を濁音で読む人は「강아지」を「가가지」みたいな音で読むことが多く、「ㅇパッチムと母音」を上手に発音することができません。「화가」は上手に発音できるのですが。

日本人は「がぎぐげご」を濁音で発音しても鼻濁音で発音しても同じ音と認識してしまうので、自分の発音を客観的に捉えることができるようになるまで、こんな感じになるのだろうと思っています。

スペイン語を勉強した時には、こんなことがありました。
最初の授業で自己紹介をしたのですが、隣に「矢島さん」という方が座っていました。

自己紹介では「メジャーモ ヤジマ」と言うのですが、それを聞いたとたん、「あなたの名前はスペイン人には難しすぎます!」みたいなことを先生はおっしゃいました。
スペイン語は「や行の音」と「じゃ行の音」を区別しないので、そうなるのだそうです。

なので「メヤーモ ジャジマ」と発音してもOK、というかスペイン語話者には全く気にならないんですね。
個人的には 「や」と「じゃ」の中間くらいの音が美しいのではないかと思っています。

発音は理屈で教えてもなかなか身につかないように私は思うのですが、結果として私の発音指導はかなり甘くなっていると思います。

英語でいうと「f」と「h」の音の違い、「t」と「th」の音の違いのようなもので、英語を勉強する中学1年生と同じくらいのレベルの生徒さんに厳しく発音指導しても、発音が嫌になって韓国語を嫌いになってしまうのではないかと、つい考えてしまうのです。

スペイン語の「や」と「じゃ」の発音のことを知ってから、私の発音指導は一層甘くなったような気がします。

皆さんはどのように発音を指導されているでしょうか?

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