【週刊ハンガンネット通信】《第86号》(2013年7月15日発行)
日本語と漢字
伊藤耕一
今回も、韓国語を一緒に教えている先生に気付かされた日本語の不思議について書いてみたいと思います。
ハングル文字の読み方を教え終わる頃、「皆さん、日本語で『日』という漢字には何種類の読み方があるか、知っていますか?」という質問をその先生は生徒に投げかけます。皆さんはすぐに答えることができますか?
読み方は4種類あるのですが、4つの読み方が分かったら、続きを読んでみてください。
韓国語では、漢字の読み方は「一字につき一種類」が原則ですから、漢字を何通りにも読み分けなければならない日本語はものすごく難しいようですが、そうなのでしょうか?
さて、「日」の読み方は、音読みだと「ジツ」「ニチ」、訓読みは「ひ」「か」です。
全部わかりましたか?
もう少し読み方を探すと「一日」を「いっぴ」と読んだり「朔日」を「ついたち」と読んだり「日々」を「ひび」と読んだりしますから、覚えようとすると大変そうです。
私が大学で漢文の授業を取ったとき、この先生はとても面白い先生でしたが、漢字は文字と読み方を遣隋使や遣唐使が日本に持ち帰ったのだと教えてくれました。
遣隋使や遣唐使の頃は、主に中国北部の人たちから漢字とその読みを教えてもらったそうで、日本ではそれが「ジツ」という漢音になり、それより前に中国南部の人たちから教えてもらった漢字の読みが「ニチ」という呉音で、日本人は何故か両方の読み方を取り入れてしまったのだそうです。
さらに大和言葉と同じ意味の漢字に固有語の読みをつけてしまったので、こんなに読み方が多くなってしまったということです。
七福神に通じるものがありそうですね。
中には大昔の留学生が音を聞き間違えて日本に持ち込んでしまった漢字もあって、「較」は本来「コウ」と読ませるべきところ、間違いがまかり通って「カク」になってしまったのだとも。
そうとは知らずに漢字を勉強してきた私たち日本人はいつの間にか膨大な漢字の読みを覚えてしまっていますが、私たちの先輩はどうしてこんな面倒くさいことをしたのでしょうか?
「日本語を勉強するには、ひらがなを覚え、カタカナを覚え、漢字を覚え、漢字の読み方を覚え、文字の使い分けも覚えなければならないんですよ。ハングルだけ覚えれば良い韓国語は簡単でしょ!」と文字でくじけそうな生徒さんを私は励まします。
3種類の文字を使いこなさなければならない日本人は、世界で一番たいへんな国に生まれてしまったのでしょうか?