通信095 文法と理屈

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【週刊ハンガンネット通信】 第95号 2012年11月25日発行

文法と理屈

伊藤耕一

 

入門クラスを終え、初級クラスが中盤に差し掛かるとこんな質問が出ることがあります。
「どうして動詞の後ろに母音が来ると文字がなくなったり、文字が変わったりするんですか?」

変格活用を少しずつ教え始めた時に出る質問です。皆さんにもこんなご経験があるのではないでしょうか?

「どうして?」と言われても本当の理由はよく知らないので、まずは「そういうことになっているんですよね。」と言い、「日本語の活用も結構難しいんですよ。」と日本語の話題に振ってしまいます。

「次の用言を原形に戻してみましょう。」
・読んで
・噛んで
・挟んで
・死んで

日本人なら考えなくても「読む」「噛む」「挟む」「死ぬ」と戻すことができるんですが、ここで「どうして『死んで』だけは原形の語末が『ぬ』になるのか説明できますか?」と聞いてみます。これに答えることができた生徒さんはいませんが、みなさん「???」という表情になります。

「もし説明できたら、さっきの質問の答えを教えてあげます。」と言うと、だいたいの方は私の意図を理解してくださいます。「分からなくてもいいんです。使えればいいんですから。なので韓国語もあまり難しく考えずに、『そうなるものなんだ』と覚えてください。」と言って、次に進むことにしています。

ほかにも「さらさら」と「ざらざら」は何がどう違うんでしょうか?丁寧な言葉に変えるときに「お」をつけるのか、「ご」をつけるのか、使い分けの方法は分かりますか?
といった答えにくい質問を用意してあって、なるべく文法のややこしい分野に入り込まないように注意しています。

先日文化庁の「敬語の指針」というテキストを読みましたが、この中に「お」を付けるのか、「ご」をつけるのかについて分かりやすい解説があり、納得したことがありました。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/keigo_tousin.pdf

・「一般に,動詞が和語の場合は「読む→お読みになる 「出掛ける→お出掛けに」なる」のように「お……になる」となり,漢語サ変動詞の場合は「利用する→御利用になる 「出席する→御出席になる」のように「ご……になる」となる。
・慣習上 「お(ご)」と組み合わせることがなじまず 「お(ご)……になる」の形が作れない動詞もあるので,注意を要する。 例:×お死にになる(→お亡くなりになる,亡くなられる)  ×御失敗になる(→失敗なさる,失敗される) ×御運転になる(→運転なさる,運転される)
・「お」あるいは「御」を付けて敬語にする場合の「お」と「御」の使い分けは「お+和語」 「御+漢語」が原則である。
・ただし,美化語の場合は 「お料理」「お化粧」など,漢語の前でも「お」が好まれる。また,美化語の場合以外にも 「お加減」 「お元気」 (いずれも尊敬語で 「お+漢語」の例)など,変則的な場合もあるので,注意を要する。

原理原則が分かると、「そいうことだったのか!」と思いますが、日本語母語話者が「感覚」で理解していることを理屈で説明するのは難しいものだなと改めて思いました。ただ、このテキストでも「一般に」「慣習上〜なじまず」「原則」「ただし~好まれる。」「注意を要する。」などとあって、原理原則だけでは説明しきれないのがよく分かりました。

言葉は理屈で正しく話すのではなくて、感覚で適切に話すのが王道かなと私は考えています。私の場合は市民講座なので、「理屈はよく分からなくても、使えればいいんです。」と、文法にはあまり踏み込まずに教えていますが、皆様はどのようになさっているでしょうか?