【週刊ハンガンネット通信】第124号 (2014年10月6日発行)
「方言で韓国語訳を考える」
伊藤耕一
何年か前の教室での出来事です。
韓国語作文で「あ~、疲れた。」というしゃべり言葉の日本語を訳してもらいました。
できあがった韓国語は、”어~ 피곤했어.” というようなものでした。
一見、良さそうに思えるのですが、おかしいので、「日本語の『疲れた。』と『疲れていた。』は、どのように違いますか?」と尋ねてみました。
すると、「『疲れた。』は『今、疲れて』いて、『疲れていた。』は『過去に、疲れて』いた、ですよね。」と正しい答えが返ってきました。
「ということは、『疲れた。』は韓国語では現在形で “피곤해.” と表現しなければなりませんね。」と言いましたが、今ひとつ納得がいかないようでした。
「疲れた」は日本語では過去形のように見えますが、これにつられて韓国語も過去形にしてしまったようです。
日本語の「た」については、こんな解説があり、この通信を書きながら納得している自分がいます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1115878266
日本語の「疲れる」は動詞で、韓国語の “피곤하다” は形容詞であることも、納得できなかった原因かも知れません。
そこで、咄嗟に「標準語は分かりにくいので、方言で考えてみましょう。」と言ってみました。
私の地域では「疲れた」を「ごしたい」と言います。
「『ごしたい』を現在形と過去形で書いてみましょう。」と言って、ホワイトボードに書いてもらいました。
すると、現在形は「あ~、ごしたい。」、過去形は「あ~、ごしたかった。」となり、時制が明確になりました。
「これからは、『疲れた』を言う時には、『ごしたい』を活用させて韓国語に直しましょう。」と言ったところ、理解してもらえました。
大阪方言では「しんどい」と言いますが、これも「しんどー。」、「しんどかった。」と韓国語と同じ時制になります。
「疲れた」のほかにも、時制が分かりにくいような場合、方言で説明すると分かりやすいのではないかと思っています。検証したわけではありませんが。
リンク先のウェブサイトには、日本語の「た」は、「過去」、「行為の完了」、「動詞を並べて例示」、「助言」、「状態の継続・放置」、「条件」を表すとして、それぞれの例文がありますが、こんなにもいろいろなことを「た」で表現できることに、改めて驚きました。
本当は方言という説明で逃げるのでなく、日本語のこのような文法事項を理解したうえで説明しなければならないなと、この通信を書きながら反省したところです。
私は方言を好んで使っていますが、私の地域で話す方言で、私が気に入ってよく使う方言のいくつかをご紹介します。
「乱極(らんごく)」
「みやましい」
「えらい」
それぞれ、こんな風に使います。
「乱極にしてますが、ゆっくりとくつろいでください。」
「(久しぶりに会った人に)いつの間にかこんなにみやましくなって!」
「今日の仕事はえらかった。」
どんな意味か分かりますか?