【週刊ハンガンネット通信】第177号 (2016年1月18日発行)
湯布院での光景から
松﨑真日
アンニョンハセヨ? 福岡大学で韓国語を教えております松﨑真日です。1月も早いもので後半に入りつつあります。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
私が福岡に来て、そろそろ3年になります。福岡がある九州には有名な温泉がたくさんあります。別府、黒川、嬉野、霧島、雲仙など有名な温泉から、それほど有名ではないところまでたくさんの温泉があります。そんな中でも、全国的にも名をはせる温泉地として湯布院があります。
先日、家族でその湯布院に行く機会に恵まれました。福岡に来て3年、ようやく念願がかなったといったところでしょうか。福岡からは湯布院までは、よく知られた観光列車「ゆふいんの森」が運行されています。私たちもこの列車に乗っていくことにしました。
当日、博多駅ホームで列車を待っていて気づいたのですが、乗客のほとんどは外国人です。印象としては、外国人観光客の比率が8割~9割といったところでしょうか。欧米の人もいますが、圧倒的に多いのはアジアの方々。韓国、中国、台湾の人びとです。
なかには乗車券のみで乗車できると思っているひともいるようでした。私の近くでは、韓国からの観光客がそのことを指摘されていました。乗れないことを知り、下車していくときの落胆した表情は忘れられません。
日本の列車予約方法は難しいですね。外国からの観光客がすぐに理解できるとは思えません。なお、当日の車内アナウンスで知ったのですが、全席指定のこの列車、満席だったようです。
博多から2時間ほど車窓の景色を眺めると終点の湯布院に到着です。湯布院駅前は観光地特有のにぎやかさがあり、旅のスタートにはぴったりです。ここから金鱗湖という小さな湖というか池まで散策するのが一般的なコースのようです。
私たちもこのコースを歩くことにしました。街を歩く人びとのおよそ半分は外国人という印象です。とりわけ韓国からの人びとの比率は高いように感じました。
列車の数も少ない湯布院で、どうしてこんなに外国人観光客が多いのだろうと考えたのですが、よく分かりません。まさか全員がレンタカー利用というわけでもないでしょうし。
しばらく行くと大きな駐車場がありました。そこで疑問がとけました。大型バスがたくさん止まってたのです。
バスを見ると、どれも韓国の旅行会社が手配したもののようです。하나 투어, 모두 투어, 여행박사など聞き覚えのある旅行会社の名前が見えます。北部九州をめぐる3日~4日のコースで立ち寄っているようです。
近年、韓国からの旅行客が増えているということはよくニュースになっています。
JTB総合研究所がホームページで公表しているデータ(2016年1月18日現在で2015年11月までの統計がまとめられています)によると、2015年9月が前年比38.6%増、同10月が48.6%増、同11月が50.5%増と月を追うごとに前年比で増加幅が拡大しています。
同様に中国や台湾、香港からの旅行客も増加しており、アジアからの旅行客は文字通り「急増」といえる状況にあるようです。
福岡の街で観察していると、ちょっと前まで話題になった「爆買い」は過ぎ去りつつある印象を受けていましたが、まだまだ観光客はたくさん来ているのですね。
湯布院のような交通がさほど便利とはいえないような場所にこれほど多くの人が来ていること、そして韓国をはじめアジア諸国からもたくさんの人が訪れていることは、ちょっとした驚きでした。現在は大型バスでの観光中心かもしれませんが、ここでの体験が評判になり、個人旅行へとシフトしていくだろうことは充分に予想できます。
福岡は日本にとってアジアへの表玄関といえますが、玄関の先には湯布院や、別府といった茶の間や応接室があったようです。玄関先での対応ではなく、家の中にまで迎え入れ、もてなすことは、日本のあちこちで交流がおきることを意味します。
経済的な面で結びつくこともあるでしょうし、文化的な交流、教育的な交流など様々レベル、様々な側面でのつながりができていくことでしょう。それが日本のあちこちで起きていく、そんな未来が垣間見えました。ドラマや映画、歌手をきっかけとした韓流の先には、やはり人がいるのではないか、そんなことを考えました。
今回の湯布院での様子を見て、これから韓国語をはじめアジア諸言語の存在感は高まっていくと確信しました。これだけ多くの人がお客さんとして来ているのですから、もてなす側が外国語を学ぶのは必然といえましょうし、人の往来が人のつながりに発展するのは自然なことです。
そんなことを感じた湯布院での光景でした。