【週刊ハンガンネット通信】第182号 (2016年3月7日発行)

濃音と清音と濁音

伊藤 耕一

日本人にとって、韓国語の濃音化はとても難しいものだと思います。
逆に、日本人にとっては何でもないのに、韓国人にはとても難しいと話してくれた友人の話にこんな話があります。
それは、人の名前なのですが。

小田さん、中田さん、大田さん
小川さん、中川さん、大川さん
小島さん、中島さん、大島さん

この9人の方の名前、皆さんは適切に読めるでしょうか?
実は、適切な読みがふたつ出てくるものがあります。

おださん、なかたさん(なかださん)、おおたさん
おがわさん、なかがわさん、おおかわさん
こじまさん、なかしまさん(なかじまさん)、おおしまさん(おおじまさん)

よく観察すると、次のようなことに気づきます。
1.小は「お」と読んだり「こ」と読んだりする。
2.中は「なか」大は「おお」としか読まない。
3.「田、川、島」は「小」の後では濁音になり、「大」の後では清音になる。「中」の後では清音で読んだり濁音で読んだりする。
4.「島」は「中、大」の後では清音で読んだり濁音で読んだりする。

9人の名前だけ見ても、読み方にこのようなバリエーションがあります。そして、読み方を規則的に説明できません。

日本語母語話者なら、まるでラグビーのタックルをスルスルとかわすように読み分けられると思いますが、「韓国人の私はタックルに倒されまくって苦労した」というような話をしてくれたことがあります。

その時に自分は濃音化で同じように苦労したという話をしました。
でも「人の名前を間違えて呼んでしまわないかと、慣れるまではとてもナーバスになっていた」とも、その方はおっしゃっていました。

こしまさん とか おかわさん は、日本語の発音としてあり得ないことが明確なのですが、なぜあり得ないのかと考えると、私にはそのなぜについて説明することができません。

翻って、韓国語を教える時「この単語は濃音化しますが、その単語は濃音化しません。」というような説明をしてしまいがちなのですが、「どういう時に濃音化して、どういう時に濃音化しないのか?」というような、包括的に説明しづらく答えに窮する質問があった時、

「母国語でもこんなケースがあるのですが、なぜそうなるのか説明できますか?」と切り返してあげると、質問した生徒さんも答えに窮し、追い詰め過ぎないようには気をつけますが、言語の奥深さや言語を学ぶことの楽しさが伝わるきっかけになるのではないかと思っています。

それにしても、わかるのに説明できないのは、何とももどかしいものです。