【週刊ハンガンネット通信】第201号 (2016年9月12日発行)
「東京ハンセミの報告」
伊藤耕一
9月4日(日)に「一緒に考えよう! 学習者の語彙力向上のために、いま教師ができること」というテーマでハンセミが開催され、14名の方にご参加いただきました。
今回は、第1部、第2部、第3部に分け、第1部では語彙教育の最新研究に基づいた講義を受け、第2部では最新研究の成果を実際の授業設計に活かす試みをグループに分かれて行い、第3部で各グループの発表を聞いて共有するという流れで行われました。
一口に語彙といっても、様々な切り口がありますが、今回、講師の丹羽先生は「誤用」に焦点を当てて講義してくださいました。生徒に対しては分かりやすい説明によって理解を深めさせることを目標とし、教師に対しては想定される生徒の誤用に対して先回りして準備しておき、誤用の場面が見られた時に即座に効果的な指導ができたり、誤用が起きやすい語を教える時にあらかじめ指導できたりするようになることを目標としました。
簡単なサマリーとなりますが、どんな講義や活動であったかを書いてみたいと思います。
第1部では語彙教育の留意点として次の3つの要素があることを学びました。
①自然な使われ方を提示すること
②類義語(多義語)、連語などで語彙を増やすこと
③日韓の語彙使用の相違を明らかにすること
まず、「自然な使われ方」と言っても、話し方や書き方は同じ母語を話す人でも使う語彙や言い回しが異なり、「自然」に対する見解が異なることを学びました。
同じ質問をしてもA先生とB先生では返ってくる答えが随分と違うといったことがよくありますが、自分の常識だけにとらわれず「言語資料」に基づいた自然さを根拠に説明できれば、見解の相違を小さくできるのではないかと思いました。
例えば、新聞記事で「〇〇だと〇日に明らかにした 〇〇고 〇일 밝혔다」と「〇日に〇〇だと明らかにした 〇일 〇〇고 밝혔다 」という表現のどちらが多く出てくるかを数えてみると、韓国語では前者の表現が多いのに対し、日本語では後者の表現が多いという傾向があることを学びました。韓国語を教える際にはこういった事実に基づいて、自然さを教えることが大切だということです。
二番目に、ひとつの単語から生徒の学習水準に応じて類義語や多義語を提示することが効果的であることを学びました。
例えば「좋다」という単語を教える時には、類義語を次のように順序を決めて教えるといった方法があります。
初級:괜찮다, 마음 들다
中級:훌륭하다, 적당하다
上級:뛰어나다, 원만하다, 마땅하다
三番目に、韓国語と日本語には相互に訳せない語彙が存在し、このような語彙を教える時には効果的な方法があることを学びました。
例えば「怖じける」という日本語を韓国語に訳すとき、次のように例文と一緒に提示する方法です。
(日)しかし老練なインタビュアーは怖じけることはない。
(한)하지만 노련한 인터뷰어는 주눅 들지 않는다.
このように連語構成として例文を提示することで、誤用を減らすことができるのではないかということです。
第2部ではこの研究成果を活かした授業設計をグループに分かれて実践してみました。
私が属したグループでは「旅行」をテーマにした授業を考えてみました。
メンバーと意見交換する中で、次のような新たな発見がありました。
旅行の予約をするとき、韓国語ではその手段によって使う助詞が異なる。
インターネットで予約する。
(○)인터넷으로 예약하다.
(○)인터넷에서 예약하다.
電話で予約する。
(○)전화로 예약하다.
(×)전화에서 예약하다.
旅行会社で予約する。
(×)여행사로 예약하다.
(○)여행사에서 예약하다.
自分が教える場面を想像してみると、無意識に○印の表現だけを教えていると思いますが、生徒にやらせて×印の表現を誘導し、そんな表現を使わないことを教えてあげたら効果的なのではないかと思ったりしました。
今回のハンセミは「語彙教育の最新研究」を「教育現場に応用」する試みをやってみるという内容でした。
研究内容を先に読んでしまうと難しいのですが、現場で起きたことを起点に研究内容を読んでみると、少し理解が進んだような気がしました。
また、自分一人では決して思いつかないであろうことが、グループのメンバーと話すことで新たな発見となって目の前に現れたりして、改めて仲間の存在の大きさに気付いた時間でもありました。
今年度はこの後名古屋と大阪でハンセミ開催を予定しています。
多くの会員の皆様にご参加いただきたいと思っています。