【週刊ハンガンネット通信】第262号 (2018年3月5日発行)
ピョンチャンオリンピック
伊藤 耕一
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ピョンチャンオリンピックが閉幕しました。私は20年前の長野オリンピックでは、ボランティア要員としてIBC(国際放送センター)に詰めていました。
多くの人はテレビやラジオを通じてオリンピックを観ることになるのですが、その舞台裏はどのようになっているのか、ご存じでしょうか。
今回の通信は韓国語とは離れてしまいますが、そんな私の経験から見たオリンピックの舞台裏のことを、半分想像しながら書いてみたいと思います。
まず、IBCとは何かというと、各国のメディアが共同で使用する場所のことで、ここにスタジオを構えることでオリンピックの公式映像や音声を自分の国に配信することができます。
公式映像は特定の国や選手にフォーカスすることなく、淡々と公平に記録されて配信されるものなのですが、それでは物足りないと考える放送局は独自の映像を撮ることになります。
独自の映像と言っても、放送局ごとにカメラを構えると現場が大変なことになってしまうので、ある程度の모임ごとに団体を作って映像を撮ります。
日本の場合はNHKと民放各社がJC(Japan Consortium)という모임を作り、共同で映像を撮るようなことをします。
IBC内のスタジオは、お金さえ出せばスペースを確保できるので、日本の放送局は各局ごとにスタジオを構えることが多いです。
オリンピックの映像は、このような経緯で公式映像と独自映像の良いとこどりをしながら配信され、私たちが観ることになります。
IBCの特徴のひとつは24時間運営される点です。
当然ながら、常に朝を迎える国が続きますので、自分の国の人が起きている時間にIBCで働く人は起きていることになり、今回は日本との時差はありませんでしたが、場合によっては選手のインタビューをライブで配信する時など、現地の選手はとんでもない時間にインタビューに呼び出されることもあるわけです。
今回のオリンピックでは、競技自体がとんでもない時間に行われたことに批判が集まりましたが、ちょっと行き過ぎではなかったかと、個人的にも思いました。
長野オリンピックの時には、アルゼンチンの放送局の青年と仲良くなったのですが、いつも眠そうにしていて可哀想だなと思い、協力的にしてあげたことを覚えています。
競技の生放送で、選手の属性や経歴や記録のことなど、アナウンサーが瞬時に話すことに驚いたことのある方はいらっしゃるでしょうか?
「〇〇選手が金メダル! 〇〇国の選手としては、〇年ぶりの金メダルです!」みたいな実況です。
自分は「こんなに詳しく知っているなんて、アナウンサーはすごいな。」と思っていたのですが、この裏には実はシステムの支援があります。
アナウンサーの手元のモニターには、目の前の選手個人や国に関する諸情報が表示される機材があり、 システムによりその情報を見ながら実況するということが広く行われています。
開会式や閉会式のパフォーマンスは、前日くらいまで秘密になっていて、そのスケジュールと内容の詳細が公開されます。
そのスケジュールを見ながら、独自映像を撮る皆さんはカメラのポイントを決めたりするわけです。
長野オリンピックの時には「紙の時代」だったので、そのスケジュールが印刷された冊子を各メディアに配るのが私たちボランティアの重要な仕事でした。
公開許可の時間まではその秘密を守らなけれはならないのですが、私たちは事前にこっそりそれを読んだりしていました。もちろん口外はしませんでしたが。
その冊子を放送局に持って行くと、待ってましたとばかりに受け取っていた放送局の皆さんの姿が印象に残っています。もしかしたら、今はその情報が電子媒体で配信されているかも知れません。
その冊子も適度に秘密になっているので、実況しているアナウンサーも驚くことがあります。
リオオリンピックで安倍首相がマリオの格好で出てきたときも、おそらく「ここで日本の首相が登場する」としか書かれておらず、マリオの格好にまでは言及がなかったのではないかと思います。
今回のピョンチャンでは、想像ですが、金妍児さんにトーチを手渡した2人の選手が「韓国と北朝鮮の選手の2人」という情報までは公開されていなかっただろうと思います。
これからパラリンピックが始まりますが、そんな裏舞台に想像を巡らせながら映像をご覧いただければ、より楽しめるのではないかと思います。
私が韓国語を志すきっかけを与えてくれたのが、ソウルオリンピックだったのですが、今回のピョンチャンオリンピックやピョンチャンパラリンピックを契機に韓国語を勉強してみたいと思う人が一人でも出てくれたら嬉しいと思っています。