【週刊ハンガンネット通信】第288号 (2018年12月3日発行)
私の韓国語講師奮闘記21: 言語干渉について考えてみた
宮本千恵美
=============
12月に入ったものの、本来の冬が到来していない・・・まだ秋のような気配を感じております。
前号の寄田先生の記事を読み、自分も同じような体験や考えを書きたかったのですが、書き溜めていた記事を追記して書こうと思います。
以前、発音の記事を書いた際、ある先生の外来語の干渉を受けている現代の韓国語のことで、日本語でもその傾向が強く、本来持っているその言語の良さや美しさが失われているように感じます。
11月の後半にバルト3国に旅行に行きました。エストニア・ラトヴィア・リトアニア、この3国がバルト海に面していることからこう呼ばれています。
また3カ国どの国にも公用語があり、簡単な挨拶などはどれをとっても全く重なることなく独立しています。
ただエストニアはロシアに近いことから影響を強く受けており、ロシア語での呼び込みやロシアのお土産も多数売っていました。
3カ国とも英語も非常に通じるので便利ではあったものの、どのお店に行っても英語で同じことを言われるのです。
「Have a nice day!」
私がアジア人で英語しか通じないことがわかっての挨拶ですが、そのときふとある本の一文を思い出しました。
ラジオなどやテレビなどで最後の挨拶に
「良い週末をお過ごし下さい(Have a nice weekend)。」
この言葉、英語からの言語干渉がもたらした言葉だったという事実です。
週休5日制になった日本でも週末の過ごし方が大きく変化し、今まで日本人が言わなかったような週末の挨拶までもが欧米諸国の影響を受け、私たちが知らずに受け入れた言語変化なのだそうです。
どうしてこのように心に強く残ったのか、それは他国では英語で話してもこの挨拶をこんなに沢山言われた事がなかったからです。
と考えると、バルトの国々では英語と同じような習慣や言葉が存在するのか、または旅行者のための挨拶なのか、それはこの3カ国の言語を知らないと分からないことですが。
またその本には韓国での日本語の影響も書かれていました。日本語の言語干渉を食い止めるための言語政策がとられ、その結果韓国の町中の看板、商店の標示などはハングル一色のため、多少ハングルを読む必要性があるのだとか。
そしてまた言語干渉の一環の問題ではないかと思うのですが、日本語と韓国語が似ているばかりに、韓国語での日記を添削している際も、どうしても母語である日本語の影響は否めないところも多々あります。
例えば韓国人でさえもFacebookなどに「좋은 아침」など書いてあるのをよく見るようになりましたが、ある講習では連体形の苦手な韓国人ということを学び、実際は「아침이 참 좋다」のように動詞や形容詞で閉めるほうが韓国語らしい表現だそうです。
私と同じ韓国語を学習した知人はそのことを知らずに普通に「좋은아침」を使っていたと言い、それは知らなかったと言います。決して通じない表現でもないですし、それで通じればなんら問題がなかったからでしょう。
韓国語を勉強する日本語母語話者は、どの言語よりも自国の母語の干渉を強く受けやすいと思います。似ているからこそ、その微妙な違いを理解しがたいと思うのです。
しかしながら言葉は生き物、多様な言語政策がとられても干渉を受けることも多いですし、何よりも若い世代が新しい言葉を作り、それが当たり前のように使用されるのです。
干渉を食い止めることは難しいと思いますが、それでも私はその言語特有の独自性などは後世にも残していかなくてはいけないと思います。
「翻訳できない 世界の言葉」「翻訳できない 世界のことわざ」 創元社
この2冊の本には諸外国の訳せない言葉が掲載され、韓国語や日本語も美しい挿絵に説明付きで紹介されています。
訳せないからこそ、その国の言葉ならではの表現をより濃く感じられる1冊だと思います。
韓国語講師になってからこのように諸外国の国の言葉にも興味を持つようになり、その違いや今回書き綴ったような言語干渉などにも私自身が干渉するようになっている今日この頃です。