通信349 「子どものころから暮らせばバイリンガル?」寄田晴代

【週刊ハンガンネット通信】第349号 (2021年2月27日発行)
子どものころから暮らせばバイリンガル?
寄田晴代
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毎年春が巡ってくるたびに「帰国して○年目」と数えてしまいます。
来月で韓国から日本に戻って6年。そして、うちの末っ子が韓国で暮らした年月と日本で暮らした年月がちょうど同じ長さになります。
2歳で韓国に渡り8年住んでいた、というと、ネイティブスピーカー並みの「日韓バイリンガル」に成長したと思われるかもしれません。
今回はそのことについて書きたいと思います。

私たち家族が韓国へ引っ越すことになったとき、彼は2歳になったところでした。2度目の韓国生活に浮かれる私とは対照的に、さぞ苦労が多かっただろうと想像します。
なにしろ、やっと言葉が少し話せるようになったと思ったら、いきなりそれが通じない世界に連れて行かれたのですから。

息子は、小学校へ上がるまでは近所の保育園(어린이집)で朝から夕方まで過ごしていました。
ピアノ教室でも、もちろん全部韓国語です。
帰国する頃には私の息子は韓国語ペラペラ間違いなし、、、母(私です)は夢想したのでした。

ところがです。
これがいっこうにペラペラにならない。話すには話すのですが流暢ではなく、母のイメージとちょっと違う。
「친구がお膳の上に上って선생님が怒らはってん」というように、話の中に韓国語の単語が混じったりもしました。
面白いと思ったのは、家で私とお店屋さんごっこをして遊ぶ時は、私が日本語を使うと「엄마,한국말 해~!」と怒ることでした。
日本語を使うと어린이집のような楽しい気分にならないのでしょう。

男の子は女の子より言葉が遅く発達すると、子育て中の親の間でよく言われるのですが、それにしても遅すぎる。
そこで、어린이집では韓国語を話しているのか?と担任の先生に聞いてみたところ「お友達が助けてくれるので、あまり話さなくても困らない」と
おっしゃるではありませんか。
気の利く女子たちが「선생님!この子だけ牛乳がありません!」とか「工作の材料がほしいみたいです!」とか、息子が全部言う前に、もしくは何か言う前に代わりに言ってくれてお世話(?)してくれると言うのです。
(「あー、こういう時に챙겨 주다って使うのね」と思いながら先生の話を聞いていた覚えがあります。)

小学校は日本人学校に入学しました。
日本の学校と同じカリキュラムで日本から来た先生に授業を受け、学校生活はすべて日本語でしたが、サッカー教室、水泳教室、ピアノ학원、教会学校など、その他の活動はすべて韓国語の世界でした。
しかし、彼のそばにはいつも韓国語が話せるお友達がいて自分ががんばって話さなければいけない状況にはありませんでした。
そのせいか、いつまでたっても韓国語を流暢に話す姿は見られません。
単語は日常生活で使うものくらいしか知らないようなので、どれくらい聞き取れているのか定かではありません。
ハングル文字は어린이집で習ったので少し書けました。学校でも週1回韓国語の授業があったので、そのときに書く機会があったようですが、作文を書くレベルではありませんでした。

学校のお友達の中には、両親とも日本人でも、家庭教師に韓国語を習い2年くらいで韓国語の本を読んで楽しめるようになった子もいました。
日本語も韓国語も流暢に話せる子どももいるのに、なんであんなふうにならないのか、と残念に思っていました。
いくら若くたって必要がなければ言葉はマスターしないんだ、と痛感。恥ずかしがりなキャラクターも災いしたようです。
毎日テレビのアニメ(「アンパンマン」や「とっとこハム太郎」の韓国語版)を見る時、一時子どもたちに乞われるままに同時通訳してあげていたのですが、あれもまずかったか?と後悔したり。

ある日、韓国人のママ友に「うちの子、なかなか韓国語が話せるようにならなくて」と話すと「え?엄마がいないときはフツ―に話していますけれど」と聞いてあんぐり。どうやら必要なことは話せるらしい、と知りました。
確かに、口数は少ないが、話す韓国語の発音や抑揚は自然な感じです。
今でも、7歳年上の姉が話す日本人的韓国語を聞いて「ぷぷっ」と笑う不敵な態度を見せることもあります。
しかし、韓国語の語彙数や表現は同年齢の韓国人ほどではありません。
そして小学生になってから、日本語の方も頼りないことに気づき始めました。

日本にいるときよりも耳や目から入る日本がが少ないので、より熱心に毎日本の読み聞かせをしていたのですが、どうも息子の言葉には韓国語チックな日本語が混じるとか、日本語の語彙が少ないのでは、と思うようになりました。
二つの言葉に触れれば1+1=2のバイリンガルになると思われますが、どちらも中途半端な1+1=1もありうるようです。
(ちなみに、母語と同レベルで外国語を使いこなせなくても「バイリンガル」と言う、と読んだことがありますが。)

考えてみれば、ある人が2種類の言語を使っていても、それぞれお言語をを年齢に相応しく社会的にも不自由なく使いこなしているかどうかは、同じくらい二つの言語が使える人にしかわからないものです。
小さい時から外国にいるからといって、必ずしもその国の言葉をネイティブのようにマスターできるわけではないのだと体験したわけです。
(うちの子は特別に外国語の才能がないのかと思ったのですが、学校の英語は普通に学べているようです。)

一方、姉の方は意識的に韓国語を学習していますので語彙力や文法の知識は弟と比べ物になりません。TOPIKやハングル検定にも意欲的に挑戦中です。
これは、日本語の力が安定してきた小学校中学年から韓国語に触れ始めたことも関係あるかもしれません。芯になる母語がしっかりしている方が外国語習得も早いと思うのです。稼ぐに追いつく貧乏なし。学ぶに追いつくペラペラなし、です。

「留学でもしないと自由に話せるようになれない」と嘆く学習者に出会うたびに息子の話をして励ましているのですが、似たような経験をされた方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

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