通信277 語族について 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第277号 (2018年7月16日発行) 語族について 伊藤 耕一 ———- 先日、このような記事を目にして、思わずブックマークしてしまいました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180609-00224181-toyo-soci 語族がどのように広がったり滅んだりしてきたのか、学生時代の私にはとても興味深い話で、「インド・ヨーロッパ語族は、どう拡散したのか」は是非読んでみたいと思いました。 教室を運営していて数回を経ると、受講生の集中力が段々と低くなったり、やる気の個人差が顕著になったりすることがあると思います。 そのような表情や仕草が見えた時には、その時に授業で扱っている内容からなるべく自然に逸脱して、間接的に雑談に移るようにして、受講生の集中力を取り戻す試みをしたことがあります。 例えば、「語族」に関連した話として、こんな話をしたことがあります。 日本語と韓国語はよく似ているが、学問的には、いつ枝分かれしたのかがはっきりと分かっていない。 日本語と韓国語のほかに似ている言語はモンゴル語、トルコ語、ハンガリー語、フィンランド語と言われている。(モンゴル人力士が上手に日本語を話すのはその証左) ハンガリーやフィンランドの言葉がアジアの言葉と似ているのは、昔のモンゴル帝国の版図拡大と関係がある。 ハンガリー人の赤ちゃんには蒙古斑があり、実は人種的にもアジア系である。 もし話せる外国語を増やしたいなら、モンゴル語やトルコ語を勧める。(モンゴル人力士みたいに話せるはず) インドの言葉とパキスタンの言葉はとても似ていて、大阪弁と神戸弁くらいの違いしかない。(学生時代の先輩の話によると) でも、インド人はデーヴァナーガリー文字を使い、パキスタン人はアラビア文字を使う。(宗教の影響) インド人に道を尋ねると必ず答えてくれるが、正しいとは限らない。(インド人は質問に答えられないことをとても恥ずかしいと感じる人たち。日本人が悲しい時でも笑顔を見せようとする気持ちに似ている。全く悪気はないんだけど結果的に嘘をついてしまう。) 韓国人に道を尋ねると親切に教えてくれる。だから韓国で道に迷ったら、迷うことなく近くの人に尋ねましょう。 学生時代、宿泊先がどうしても分からなくて、近くにいた初老の紳士に道を聞いたら、親切にもホテルまで連れて行ってくれた。 話をしていくと、たいがい思いつくままに話してしまうので、最後は語族と関係のない話になってしまうことが多いのですが、話しているうちに受講生の目がこちらに向き、集中力がよみがえってくるので、頃合いを見て授業に戻るようにしていました。 自分の学生時代を思い出してみると、こういう雑談の多かった先生のことはよく覚えていて、雑談を思い出すと、それを引き出しに当時教えてもらったレベルの高い授業内容を思い出したりすることがあります。 この本からも、今後に使える何らかの新しいネタを見つけられるのではないかと思っています。 受講生の集中力が低くなってしまったような時、雑談以外にも何らかの手段があると思いますが、皆様はどんな対応をされているでしょうか。 是非お伺いしてみたいと思いました。 最後に、7月29日(日)には、東京でハンセミが行われます。Twitterを使った韓国語短作文から会話レッスンへとつながる、ライブ授業とハンコンが予定されています。 ライブ授業の講師は世話人のキムスノク先生、ハンコンの司会進行は世話人の幡野泉先生です。 皆様のご参加をお待ちしています。

通信270 濁る濁らない 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第270号 (2018年5月14日発行) 濁る濁らない 伊藤耕一 ———- 5月になりました。 4月に韓国語を勉強し始めた学生さんも多いことと思います。 今回は、私のあの頃のことを思い出してみたいと思います。 韓国語を勉強し始めて、1ヶ月目くらいだったと思います。 ある先生が授業でこんなことを言いました。 「韓国語は単語の先頭の音は濁りません。」 そして、教科書のコラムにはこんなことが書いてありました。 「韓国人は『金閣寺』と『銀閣寺』を発音すると、同じ音になってしまう。」「何だそれ?」というのが最初の正直な感想でした。 「『キ』と『ギ』は明らかに違うでしょう!」とその時は思いました。以前の通信でも書いたと思いますが、先生に「しょうがっこう」の発音をさせられて、その後「なるほど! そうなのか!」と納得したのを覚えています。最初は「濁る濁らない」と教えられて、そうなんだと思っていたのですが、韓国に行って韓国人と話をしてみて「清音と濁音を同じ音と認識しているのだ」と認識を改めました。その後、いろいろな国の人や言語に接するにつれ、このようは現象は結構たくさんあることが分かりました。 日本人は「H」と「F」の音を同じ音と認識している。 フィリピン人は「F」と「P」の音を同じ音と認識ている。 スペイン人は「J」と「Y」の音を同じ音と認識している。 ドイツ人は「T」と「TH」の音を同じ音と認識している。 外国語を勉強する時、どうしても母語を基準に発音しようとしたり、母語の発音を絶対的なものと考えたり、そんな傾向があると思います。 でも、それは世界中の言語の多数派側から考えると実は少数派なのかも知れないことに気付いた時、母語の発音を客観的に見ることができ、より良い発音に対する気付きにつながるように思います。

通信262 ピョンチャンオリンピック 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第262号 (2018年3月5日発行) ピョンチャンオリンピック 伊藤 耕一 ———- ピョンチャンオリンピックが閉幕しました。私は20年前の長野オリンピックでは、ボランティア要員としてIBC(国際放送センター)に詰めていました。 多くの人はテレビやラジオを通じてオリンピックを観ることになるのですが、その舞台裏はどのようになっているのか、ご存じでしょうか。 今回の通信は韓国語とは離れてしまいますが、そんな私の経験から見たオリンピックの舞台裏のことを、半分想像しながら書いてみたいと思います。 まず、IBCとは何かというと、各国のメディアが共同で使用する場所のことで、ここにスタジオを構えることでオリンピックの公式映像や音声を自分の国に配信することができます。 公式映像は特定の国や選手にフォーカスすることなく、淡々と公平に記録されて配信されるものなのですが、それでは物足りないと考える放送局は独自の映像を撮ることになります。 独自の映像と言っても、放送局ごとにカメラを構えると現場が大変なことになってしまうので、ある程度の모임ごとに団体を作って映像を撮ります。 日本の場合はNHKと民放各社がJC(Japan Consortium)という모임を作り、共同で映像を撮るようなことをします。 IBC内のスタジオは、お金さえ出せばスペースを確保できるので、日本の放送局は各局ごとにスタジオを構えることが多いです。 オリンピックの映像は、このような経緯で公式映像と独自映像の良いとこどりをしながら配信され、私たちが観ることになります。 IBCの特徴のひとつは24時間運営される点です。 当然ながら、常に朝を迎える国が続きますので、自分の国の人が起きている時間にIBCで働く人は起きていることになり、今回は日本との時差はありませんでしたが、場合によっては選手のインタビューをライブで配信する時など、現地の選手はとんでもない時間にインタビューに呼び出されることもあるわけです。 今回のオリンピックでは、競技自体がとんでもない時間に行われたことに批判が集まりましたが、ちょっと行き過ぎではなかったかと、個人的にも思いました。 長野オリンピックの時には、アルゼンチンの放送局の青年と仲良くなったのですが、いつも眠そうにしていて可哀想だなと思い、協力的にしてあげたことを覚えています。 競技の生放送で、選手の属性や経歴や記録のことなど、アナウンサーが瞬時に話すことに驚いたことのある方はいらっしゃるでしょうか? 「〇〇選手が金メダル! 〇〇国の選手としては、〇年ぶりの金メダルです!」みたいな実況です。 自分は「こんなに詳しく知っているなんて、アナウンサーはすごいな。」と思っていたのですが、この裏には実はシステムの支援があります。 アナウンサーの手元のモニターには、目の前の選手個人や国に関する諸情報が表示される機材があり、 システムによりその情報を見ながら実況するということが広く行われています。 開会式や閉会式のパフォーマンスは、前日くらいまで秘密になっていて、そのスケジュールと内容の詳細が公開されます。 そのスケジュールを見ながら、独自映像を撮る皆さんはカメラのポイントを決めたりするわけです。 長野オリンピックの時には「紙の時代」だったので、そのスケジュールが印刷された冊子を各メディアに配るのが私たちボランティアの重要な仕事でした。 公開許可の時間まではその秘密を守らなけれはならないのですが、私たちは事前にこっそりそれを読んだりしていました。もちろん口外はしませんでしたが。 その冊子を放送局に持って行くと、待ってましたとばかりに受け取っていた放送局の皆さんの姿が印象に残っています。もしかしたら、今はその情報が電子媒体で配信されているかも知れません。 その冊子も適度に秘密になっているので、実況しているアナウンサーも驚くことがあります。 リオオリンピックで安倍首相がマリオの格好で出てきたときも、おそらく「ここで日本の首相が登場する」としか書かれておらず、マリオの格好にまでは言及がなかったのではないかと思います。 今回のピョンチャンでは、想像ですが、金妍児さんにトーチを手渡した2人の選手が「韓国と北朝鮮の選手の2人」という情報までは公開されていなかっただろうと思います。 これからパラリンピックが始まりますが、そんな裏舞台に想像を巡らせながら映像をご覧いただければ、より楽しめるのではないかと思います。 私が韓国語を志すきっかけを与えてくれたのが、ソウルオリンピックだったのですが、今回のピョンチャンオリンピックやピョンチャンパラリンピックを契機に韓国語を勉強してみたいと思う人が一人でも出てくれたら嬉しいと思っています。

通信254 言語干渉 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第254号 (2017年12月11日発行) 言語干渉 伊藤耕一 ———- 言語干渉のこと、私も書いてみたいと思います。 私が言語の発音について体系的に認識できるようになったのは、大学3年の頃だったと思います。 それまでは、日本語の音韻体系に英語や韓国語の音韻を当てはめて発音していたように思います。 どのようにそれを認識したかというと、ニュージーランド渡航に備えてNHKラジオの英語講座を聞いていた時、「phonetic corner」という発音に着目した数分の時間があり、これを聞いた時でした。 どんな内容だったか、思い出せる範囲でいくつか書いてみます。 ①摩擦音と破擦音の違い pleasure の “su” と joke の “jo” の発音は異なり、前者は摩擦音、後者は破擦音である。 ②”L” の音は側音と呼び半母音に近い “L” の音は、舌を上あごにつけてその側面から空気が出てくる音で、子音というよりも半母音に近い。 ③単語の最後にくる”L”はほとんど発音されない “beautiful” “fall” など、単語の最後にくる ”L” の音は “dark L” と呼ばれ、ほとんど発音されない。だから “unbelievable” を「アンビリーバボー」と表記するのは合理的である。 ④”T”と”D”、”T”と”T”、”K”と”G”、”K”と”K”、”P”と”B”、”P”と”P”、の音が続く時、前の音は後の音に飲み込まれてほぼ一緒に発音される “It depends.” は「イッディペンズ」、”Hepburn” は「ヘボン」のような音になる。 ⑤単語と単語のつなぎ目が子音と母音の並びになっているとき、その子音と母音は同じ音節で発音される。 “half an hour” は「ハフェンナウア」のような音になる。 これは英語の発音のコツなのですが、このような内容を聞くたびに目から鱗が落ちる思いを何度もして、日本語訛りがかなり改善した実感があります。 摩擦音と破擦音の違いが分かるようになって、ようやく濃音の発音ができるようになりましたし、韓国語の”ㄹ”の発音は②と③の知識を得てから、飛躍的にうまくなった自覚があります。 ④と⑤の前の音が後の音に飲み込まれたり一緒に発音されたりする現象はパッチムの発音に応用できるようになり、聞き取り能力が驚異的に高まりました。 私の場合、このラジオ講座のおかげで、日本語の音韻体系から脱出でき、私自身の言語干渉のかなりの部分を払拭してくれたと思っています。 このような細かな技能を身に付けて、自分の中で積み重ねると、言語干渉の一定の対策になるのではないかというのが私の経験に基づく仮説です。 そして異なる言語にも相互に良い影響をもたらすものと信じています。 話は変わって、私の趣味のひとつは将棋なのですが、将棋もこれに似た細かな技能(手筋)がたくさんあります。 「垂れ歩」「継ぎ歩」「底歩」「ダンスの歩」「頭金」「腹銀」「桂馬のふんどし」「田楽刺し」「十字飛車」「遠見の角」「玉の早逃げ」などなどたくさんあるのですが、発音や文法と同じで手筋を覚えれば覚えるほど、複数の手筋の組み合わせを考え付けば考え付くほど将棋に強くなれます。 藤井4段や羽生永世七冠はおそらく全ての手筋を身に付けているはずです。 発音に限らず文法も単語もこのようなコツや技をパーツとして教え、例文に混ぜて身に付けさせる、そんな方法もあるのではないかと思います。

通信251-300 [17年11月-19年6月]

251. 「聞き取る」ということ  寄田晴代 2017.11.20 252. 私の韓国語講師奮闘記16: 先週の通信を読んで思わず笑ってしまった  宮本千恵美  2017.11.27 253. 日本語訛りの韓国語  吉川寿子  2017.12.04 254. 言語干渉  伊藤耕一  2017.12.11 255. 韓国訪日学生団と市民の交流会  阪堂千津子  2017.12.20 256. 次のスピーチコンテストのヒント  前田真彦  2017.12.25 257. スピーチ大会の評価ポイントや講評  幡野泉  2018.01.08 258. Windows10新機能でSkypeレッスン   金英う  2018.01.29 259. 「学習者に伝える」ということ  寄田晴代 2018.02.05 260. 私の韓国語講師奮闘記17: 独りよがりな教え方  宮本千恵美  2018.02.12 261. 学習者の不安感   吉川寿子  2018.02.28 262. ピョンチャンオリンピック  伊藤耕一  2018.03.05 263. 大学生との交流会: 韓国語学習者の感想   阪堂千津子  2018.03.12 264. 講師研修のシステム確立が大事 前田真彦  2018.03.20 265. AIの発達に備えつつも、変わらない地道な努力 幡野泉  2018.03.27 266. 翻訳講座で学んでみた 寄田晴代  2018.04.13 267. 私の韓国語講師奮闘記18: 独りよがりな教え方2  宮本千恵美  2018.04.16 268. 成人学習者の効果的なインプット 吉川寿子  2018.04.26 […]

通信247 パンダの名前は香香 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第247号 (2017年10月2日発行) パンダの名前は香香 伊藤耕一 ———- 上野動物園生まれのパンダの赤ちゃんは、香香(シャンシャン)と名付けられました。 愛らしい名前を聞いて、その音に興味を引かれたのは私だけでしょうか? 香の字を見て、まず私の頭に浮かんだのは、香港でした。 香港は、日本では普通「ホンコン」と読みますが、香の字は「ホン」と広東語で発音します。 ならば香港では、上野動物園生まれのパンダの赤ちゃんの名前は「ホンホン」と名付けられたと報道されたはずですが、「ホンホン」ではあまり愛らしく聞こえないと感じてしまいました。 皆さんは、いかがでしょうか? 香の字は韓国語では「향」と発音しますが、韓国の報道ではどのようにパンダの赤ちゃんが呼ばれたのか? こちらも興味深いところです。 漢字は文字通り、中国から韓国と日本に伝わってきたものですが、大きく分けて3種類の音(3つの地域の音)が伝えられたと私は大学で教えてもらいました。 ひとつは「漢音」で主に大陸の北の地方の音が遣隋使や遣唐使の時代に伝えられ、ひとつは「呉音」で主に大陸の南の地方の音がそれよりも以前に伝えられ、もうひとつは「唐音」で主に鎌倉時代に禅宗の僧侶によって伝えられたと聞きました。 香の字では、シャンは漢音、ホンは呉音となります。 韓国語の「향」はシャンとホンが混じったみたいで、さらに興味深いとも思いました。 韓国語の漢字語由来の単語を覚えるとき、漢音、呉音、唐音をバックグラウンドにして日本語音と比較するととても覚えやすく、また、知らない単語を聞いた時にも漢音、呉音、唐音のバックグラウンドから類推すると、その正体が分かったりと、私は随分とこれに助けられた覚えがあります。 私の場合は、経験によって身に付けたこの音の関連をベースに新出単語を教えることが多いのですが、もしこれが体系的に整理されたテキストなどがあればいいなと思ったりするのですが、そのようなテキストをご存知の方はいらっしゃるでしょうか? あと、シャンシャンの「ン」の発音を、多くの日本人は「ㄴ」と発音しそうですが、教室でそんな音を耳にしたら、「ㅇ」であることを指摘してあげなければならないとも思いました。 ピンインでは「xiāng xiāng」で、「シィァンシィァン」に近い音だそうですね。 パンダの赤ちゃんの名前から、そんなことを考えた今週でした。  

通信239 AIの音声認識と文字認識 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第239号 (2017年7月31日発行) AIの音声認識と文字認識 伊藤耕一 ———- アップルのiPhoneに搭載されている「Siri」に代表される音声認識システム、この性能の高さはスゴイと思っています。 また、マイクロソフトのWORDに代表される文書作成ソフトの文字認識システムも、同じ助詞が続いた時の注意喚起や、スペルミスの指摘など、こちらの性能も素晴らしいと思っています。 AI(artificial intelligence 人工知能)の音声認識と文字認識を比べると、どちらの性能が高いか? 皆さんはそんなことを考えたことがあるでしょうか? 個人的には「文字認識の性能の方が高い」と思い込んでいましたが、先日ある事象に出くわし、その認識が覆されてしまいました。今では「音声認識の性能の方が高い」と考えるようになりました。 どうしてそのように考えるようになったのか、今回の通信では書いてみたいと思います。 先日、仕事中に、ある文書をWORDで作成していました。内容は自分の業務を他の人に引き継ぐための説明です。 当初はこんな形で書き始めました。 ○○資料作成業務について ・これは月例△△会議のために必要であり、会議の3日前までに作成し、上司に原案を提出すること。 ・様式は□□ファイルに保存してあり、これを参照のこと。 ・これまで作成したエクセルファイルのファイル名の先頭には20170807のように作成日を表示している。(後日の検索が容易になる) ・会議には同席し議事録を取ること。 こんな感じで「~である」体で書き始めました。箇条書きが多かったので、こちらの方が良いと思ったわけです。 数ページ書き進めて読み返してみると、「~である」体特有の「上から目線」「硬さ」「不親切さ」を強く感じたため、やっぱり「~です、~ます」体にしようと思いました。 こんな時に便利なのがWORDの文字置換機能で、次のように条件を指定して変換してみました。 「ること」⇒「てください」「のこと」⇒「してください」「なる」⇒「なります」「いる」⇒「います」「あり」⇒「あるので」 日本語の文法を考えながら、このように変換すればうまく行くはずと思ったわけです。 ところが、変換結果にとても驚くこととなりました。どんな文章になったと思いますか? ○○資料作成業務について ・これは月例△△会議のために必要であるので、会議の3日前までに作成し、上司に原案を提出すてください。 ・様式は□□ファいますに保存してあるので、これを参照してください。 ・これまで作成したエクセルファいますのファいます名の先頭には20170807のように作成日を表示しています。(後日の検索が容易になります。) ・会議には同席し議事録を取てください。 驚きの結果のひとつめは「提出すること」が「提出すてください」となったことです。私の置換指示に忠実に従ってはくれましたが「サ行変格活用」までは分からなかったようでした。 ふたつめは「ファイル」が「ファいます」となったことです。これには思わず笑ってしまいましたが、これも私の置換指示にある程度忠実に従ってくれた結果でした。 ひらがなの「いる」を「います」に変換したかっただけだったのですが、カタカナの「イル」まで「います」に変換してくれたのです。 これは、文字変換でありながらも「実は音声変換がAIの中で行われている」のだという発見につながりました。 みっつめっは「取ること」が「取てください」となったことです。こちらも私の置換指示に忠実に従った結果ですが、「撥音便の活用」にまでは置き換えることができなかったようです。 文字認識機能の開発の歴史の方が長いと思っていたので「こんなことが起こってしまうのか!」という驚きが大きかったのですが、これに比べると音声認識機能の方がはるかに優秀だなと私は思いました。 文字認識機能を持つ「電子辞書」、音声認識機能を持つ「スマートフォンのアプリケーション」、どちらも学習者が使うものですが、このような道具の利点と欠点を知っておくと、より効果的な学習と指導につながるのではないかと今回の体験から感じたわけです。 電子辞書をどのように使えば調べたい単語にたどり着くことができ、適切な活用方法の参考例を導き出せるか、このようなことは指導する私たちが踏まえておいた方が良いのではないかと感じました。 一方、音声認識の精度はかなり向上したとはいうものの、元々の音声の文法が正しくないと正しい翻訳結果が出なかったり、微妙な発音の違いで意図した翻訳結果が出なかったりすることがあります。 もしかしたら、今の学習者はこのような道具を駆使して宿題をこなしているのかも知れませんが、間違った翻訳結果がどのような経緯で生み出されたのか、紙の辞書で勉強した世代の私には想像も及ばない経緯があるような気がしてきました。 今回は偶然にもこのようなことを考える機会に出会いましたが、作文指導の際には答えの裏側にある経緯にも注意を払うようにしよう、そんな気持ちになる出来事でした。

6/18 ハンコン&ハンセミ

2017年度の第1回ハンガンネットセミナーと懇談会を以下のとおり開催します。 日時 6月18日(日) 13時~17時 場所 東京外国語大学本郷サテライト    4階会議室 内容 ①ライブ授業 寄田晴代先生の授業 -(으)ㄴ/는지 알다 を教える 伊藤耕一先生の授業 日本語母語話者が間違えやすい韓国語作文の指導 ②講師による話し合い(ハンコン) ライブ授業についての質疑応答、 韓国語教室の現状・展望など 17時から別会場で懇親会(参加費別途) ③参加申し込み  氏名、連絡先、教室名、懇親会の参加有無をメールでご連絡ください。授業や教室運営にたいする一言(現状や悩みなど)もお願いします。 ④参加費 講師・講師志望の方、ハンガンネット会員  3,000円 非会員  4,000円 学習者の方  500円  (ライブ授業のみ) *参加申し込み・お問い合わせ ハンガンネット事務局 samuguk@gmail.com

通信230 聞き取りやすい韓国語

【週刊ハンガンネット通信】第230号 (2017年5月8日発行) 聞き取りやすい韓国語 伊藤耕一 個人指導 ニュースなどで候補者の主張を耳にして、少し驚きつつ聞いていることがあります。 それは、各候補者の韓国語がとても聞き取りやすいことです。 朴槿恵前大統領の韓国語は、ものすごく聞き取りやすく、私でも音声だけで95%は理解できたほどで、個人的には朴槿恵前大統領に良いイメージを持っていました。 明日の選挙結果の成り行きはさておき、「聞き取りやすさ」は言葉の何がもたらす影響なのか、個人的に思うことを書いてみたいと思います。 私が最初に体験した外国生活は、ニュージーランドでの生活でした。 渡航前にある程度の英語を勉強し、TOEICでもCレベルの結果(日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる。通常会話であれば、要点を理解し、応答にも支障はない。複雑な場面における的確な対応や意思疎通になると、巧拙の差がみられる。基本的な文法・構文は身についており、表現力の不足はあっても、ともかく自己の意思を伝える語彙を備えている。)が出たので、ある程度自信を持って行きました。 英語を話してみると、なるほど、自分の言いたいことや求めることは伝えられても、それに対して返ってくる言葉は半分くらいしか分からないといった感じでした。 ですが、いろいろな人と話をしていくと、この人の英語は聞き取りやすい、あの人の英語はさっぱり分からない、このような差があることに気付きました。 最初に「聞き取りやすい」と私が感じたのは英語学校の先生の英語でした。 これはきっと、接する時間が長かったからその人独特の発音や言い回しに耳が慣れたのだろうと思います。 そのほかにも、耳にした英語の地域性も大きな影響を与えるようにも思います。 私はニュージーランドで英語を学んだので、英国やオーストラリアや南アフリカの人たちの話す英語を聞き取りやすいと感じます。 その一方でアメリカ人の英語は聞き取りにくいと感じてしまいます。 英語母語話者でない人の英語は、相手が一生懸命に伝えようとする気持ちに寄り添おうと思うせいか、よく分かります。 ところが、同じニュージーランド人なのに、さっぱり聞き取れない英語を話す人も何人かいました。 そのような人に出会った時には、今思い返せば申し訳なかったのですが、ごく少数だったので、適当に相手をしてあまり話をしないようにしていました。 その次に渡航したのは韓国だったのですが、やはり同じように私が一言一句聞き取れる韓国語を話してくれる人と、さっぱり聞き取れない韓国語を話す人がいました。 私は韓国で生活した経験がなく、英語ほどの運用能力を持ち合わせておらず、地域性による違いがよく分かりませんが、きっとどんな言語でもこのような現象があるのだろうなと思いました。 前回の通信にも少し書きましたが、ネイティブでない人が話す言葉の聞き取りやすさは子音と母音の発音の安定性に起因するように思います。 私の韓国語はソウルの人から最も多くの音を聞いてきたので、韓国語を教える時には、できるだけソウルの音に近いように気を付けて発音してきました。 個人的にも地域的にも特定の音が安定して同じように発音されていれば、生徒さんに分かりやすいだろうと思うからです。 明日の選挙の結果、誰が勝利演説を行うことになるのか、聞き取りやすい韓国語を話してくれることを期待しつつ注目したいと思っています。