通信431 「韓国の子供向け教材」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第431号 (2023年3月6日発行)

韓国の子供向け教材
加藤慧
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授業で韓国の教材を使用するとなると、多くが外国人学習者向けのものになると思いますが、私は個人レッスンで、韓国の子供向けの教材を利用しています。
小説やエッセイなどを読むにはまだちょっと早いくらいのレベルの受講生の方から大変好評です。

慣用句レッスンにはこちらの本を使用しています。

□문향숙 <국어 실력에 날개를 달아주는 우리말 관용구>(계림북스)

他にも、最近見つけて面白かった慣用句の教材をご紹介します。

□박수미 <초등 선생님이 뽑은 남다른 관용어>(다락원)
□곽영미 <도대체 뭐라고 말하지? 알쏭달쏭 관용 표현>(한솔수북)
□이규희 <오지랖과 시치미와 도루묵을 찾아라! 전통문화 속에 숨어 있는 재미난 우리말>(그린북)

韓国史レッスンでは、こちらの教材を一緒に読んでいます。

□황은희 <그림으로 보는 한국사 1~5>(계림북스)

絵も豊富ですし、比較的平易な韓国語で書かれているので、中級以上であれば十分読むことができます。

上記の本はいずれも電子書籍で日本からも簡単に入手できます。

子供向けとはいえ、検定試験上級レベルの単語も出てきますし、韓国の生のテキストを読めているという達成感を味わいながら、興味を持って読んでいただくことができるので、生きた韓国語が身につきやすいと感じています。

今後も面白そうな教材があれば、積極的に取り入れていきたいと思っています。
先生方のおすすめも、もしありましたら教えていただけるとうれしいです。

通信423 「日本語の良さ、韓国語の良さ」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第423号 (2023年1月9日発行)

日本語の良さ、韓国語の良さ
加藤慧
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昨年、韓ドラファンの方々の間で人気だった日本のドラマの脚本家の発言が、SNSで話題になりました。
ざっくり言うと「日本語の良さは他の言語に翻訳されたら意味が伝わらないから、自分の作品は日本人、日本語がわかる人に観てほしい」という趣旨の発言でした。
いろいろな意味で聞き捨てのならない排他的な発言だと思うと同時に、ことばを学び、教え、翻訳する身として、この「日本語の良さ」という部分について非常に考えさせられました。

日本語に限らず、すべての言語にはその国の言語でしか表現できないものや、その文化の人にしかわからない情緒というものがたしかにあると思います。
でもそのときに、その言語にしかないから「伝わらない」と切り捨ててしまうのではなく、ないからこそ歩み寄り、踏み込んでいきたいし、学習者の皆さんにもそうあってほしいです。

その言語にしかない〝なにか〟を少しでも理解したいからこそ、私たちは外国語を学ぶのだと思うのです。
このことは、韓国ドラマを字幕なしで直に聞き取りたい、推しのことばを通訳なしで聞き取りたいという動機で韓国語を学んでいる人が多いことを見ても明らかでしょう。
例え100%はわからなくても「この国ではこういう言い方をするのか」という味わい方をするのが、本当の意味で海外のコンテンツを楽しむということではないでしょうか。

それぞれの言語にはスペクトラムがあり、その違いが面白くもあり、翻訳するときの難しさでもあります。
韓国語にしかない表現、韓国語の良さ、美しさ——そしてそれを作っている韓国の方々の情緒まで、伝えられるような授業をしていきたいなと思いました。

通信415 「’맵다’ と〝辛い〟」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第415号 (2022年11月7日発行)

‘맵다’ と〝辛い〟
加藤慧
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日本語と韓国語の単語の意味が一対一で対応するとは限らないというのは、授業をする上でも翻訳をする上でも重要な点です。

今回約3年8か月ぶりにソウルに行ってきたのですが、改めてそれを実感する出来事がありました。

등갈비찜 のお店で、辛さを’매운 맛 / 덜 매운 맛 / 안 매운 맛’ の3段階から選ぶことができました。
皆さんはどのレベルの辛さを想像しますか?
店員さんが ‘안 매운 맛이 신라면정도예요.’ と説明してくれました。
辛ラーメンレベルを「辛くない」と表現する日本語話者はおそらくいないでしょう。
韓国人の’안 맵다’ を信用してはいけないことは知っていたつもりでしたが、ここまでとは思いませんでした。

(ちなみに’아예 안 매운 맛’ の ‘간장 맛’ もあるとのことでした)

単純に、韓国人と日本人の辛さの基準の違いととらえることもできると思います。
でも私にはそれだけではなく、「辛い」と’맵다’ の感覚には微妙な違いがあるように思えるのです。
例えば韓国語話者と同じ料理を食べていて’매워?’ と聞かれるとき、味が辛いかどうかはわかっているはずなので、それはとても主観的な質問で、「あなたにとって辛いか」を聞いていると思っています。
また、友人が香辛料の匂いを嗅いで’맵다’ と言っていたのも印象的でした。
日本語の「辛い」は、匂いにはあまり使わないのではないでしょうか。
(これは個人的な感覚かもしれないので、先生方のご意見を伺いたいです)
同じ日本語の「辛い」でも、関西地方では’짜다’ の意味になりますね。
また、ワサビの辛さは’코가 맵다’ や ‘코가 찡하다’ などと表現されます。
このように考え出すと、なかなか奥が深いです。

特に初級の授業ではどうしても、単語の持つ感覚の違いまで一緒に教えることは難しいとはいえ、常に意識しておきたいところだなと改めて感じました。

ちなみに’안 매운 맛’ の 등갈비찜 はお肉がほろほろで本当に美味しかったです!そして普通に辛かったです。

通信407 「初のZOOM単発グループレッスン」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第407号 (2022年9月12日発行)

初のZOOM単発グループレッスン
加藤慧
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ちょうど一ヶ月前となる8月12日に、コリ文語学堂さんの「夏のコリフェス」にて講座を担当させていただきました。
私は、意外と知らずに通り過ぎてしまう方も多い印象の「漢字語法則」をテーマに、初中級レベルの生徒さんを対象とした講座を行いました。

大学の遠隔授業はオンデマンドで行っていたため、恥ずかしながらZOOMでのグループレッスンは初めての経験でした。
普段は長期的なカリキュラムで行うことが多いので、単発のレッスンも初めてです。
「次回」があるわけではないので、うまくいかなかった場合の挽回は難しく、終わらなかった分を次回に回して調整する、といったことも通用しません。

大学の講義がドラマのようなシリーズものの長期戦だとすれば、単発レッスンは映画のように、時間内にポイントを凝縮して盛り込まなければならないな、とプレッシャーを感じました。
例え授業はその場かぎりでも、生徒さんたちが自ら学びを広げていける、入り口となれるような授業を目指そうと思い取り組みました。

受講生の方から承諾を得て、いただいたご感想の一部をご紹介します。

◆漢字語は単語を覚える際によく出てくるものはなんとなく覚えて役に立つなあという印象でしたが、初声中声、終声でも判別できることは全然知りませんでした。先生の講座を受講できて本当に良かったです。資料も送っていただいたのでしっかり復習して語彙力アップ頑張りたいと思います。またご縁がありましたらよろしくお願いします。

◆とてもとても楽しく、あー、なるほど!と気がつく事ばかりで、あっという間でした。やはり、ネイティブの先生から習うのも、同じ日本語を母国語としている先生に習うのも、それぞれの良さがあり、必要である事も実感です。ありがとうございました。ぜひぜひまた、機会がありますように、願っております。

◆漢字語すごく面白かったです。探せば色々な言葉が見えてきそうなヒントをたくさん頂きました。ありがとうございます!あれから勉強の際に、新しく出てきた単語を見て、漢字語で教えてもらったことをヒントに意味を考えるようになりました。自分で考えるきっかけを頂いたように思えます。

このようなご感想をいただいて、お伝えしたかったことが概ね伝わったのかなと手応えを感じ、大変うれしく思いました。

一方で、普段個人のオンラインレッスンでは使用しないパワーポイントでの画面共有では、動作が重いのか、スライドショー画面だとカーソルが見えなくなってしまい、編集画面での画面共有となってしまうという反省点もありました。
もしものときのために、PDFも用意しておくなどの準備が必要だなと思いました。

また、(これは以前カルチャースクールで授業をしていた時にも感じていたことなのですが)グループレッスンの場合、対象を設定したとしても、個人のレベルにどうしてもばらつきが出るため、そうした難しさも感じました。
今回のような外部レッスンの場合は、事前にアンケートをとるなどして、レベルをしっかり把握することも必要かなと思います。

中には今回の講座をきっかけに、個人レッスンにも興味を示してくださった方もいらっしゃいました。
現在空き枠がなく、レッスンを提供できないことが大変心苦しいのですが、また受けたいと言っていただけたことは本当にうれしかったです。

今回のコリフェスを通して、大学の講義とも個人レッスンとも違った体験ができ、大変勉強になるありがたい機会でした。
学んだことを、今後の活動に活かしていきたいと思います。

通信399 「ポストコロナの授業運営(後編)」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第399号(2022年7月18日発行)

ポストコロナの授業運営(後編)
加藤慧
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コロナ禍でどのように授業運営をしてきたか、今後の展望についてなど、最近考えていることを前回から二回に分けて書いています。

前回はプライベートレッスンについて書きましたが、今回は大学の授業についてです。コロナ禍では遠隔授業としてオンデマンド授業を行ってきました。授業資料を配信し、学生が課題をオンラインで提出する形式です。動画は編集作業に時間と労力がかかりすぎると考え、教科書に解説を細かく書き込んだ資料を作成しました。この資料の評判がよく、学生の理解度・満足度ともに高いものでした。もちろんこれも大変な労力がかかりましたが、教材として自分の財産になったと感じています。

今年度より対面授業に戻りましたが、一部オンラインの形式を維持しています。解説や発音練習など、対面での効果が大きいと考えられるもののみ行い、残りの時間はオンデマンド用の資料を活用し問題演習をして、オンラインで提出してもらうかたちです。提出時にフィードバックを入力してもらうことで、コメントペーパーに記入してもらっていた頃より管理もしやすくなりました。

また、小テストもGoogle formを使って、教室でオンライン形式のまま行っています。採点と集計の手間が省けて、その分の時間を授業準備に回せるようになりました。

今後取り入れたいと考えているのは、同様の形式での期末試験の実施です。筆記試験の代わりにキーボードの入力で回答してもらうことを念頭に置き、課題提出の際に練習しています。スマホやPCでの韓国語入力ができるようになれば、今後いろいろな場面で役に立つと考えるためです。もし導入することになれば、またこちらでご報告させていただきます。

語学学習におけるオンラインの有効性はすでに様々なところで言われていますし、私のような地方在住者にとっては、いままで考えられなかったほど多くのイベントや講座に参加できるようになったという(翻訳講座を受講中です)良い面もありました。再び感染が拡大しつつあるとはいえ、ポストコロナの時代を迎えつつある今、オンラインの良さは残したままオフラインとうまく組み合わせて、最善のかたちで良い授業が提供できればと思っています。

通信394 「ポストコロナの授業運営(前編)」加藤 慧

【週刊ハンガンネット通信】第394号 (2022年6月13日発行)

ポストコロナの授業運営(前編)
加藤 慧
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アンニョンハセヨ! 韓国語講師の加藤慧です。今年度の「ハンガンネット通信」執筆メンバーに加わらせていただきました。一年間よろしくお願いいたします。

仰々しいタイトルになってしまいましたが、自己紹介も兼ねて、普段の授業の進め方、特にコロナ禍でどのように授業運営をしてきたか、今後の展望についてなど、最近考えていることを二回に分けて書いてみたいと思います。

私はオンラインでプライベートレッスンを行う傍ら、仙台市内の二つの大学で非常勤講師を務めています。最近は出版翻訳にも挑戦中です。(訳書に『僕の狂ったフェミ彼女』、共訳書に『なかなかな今日 ほどほどに生きても、それなりに素敵な毎日だから。』があります)

コロナ前にはカフェやレンタルスペースでプライベートレッスンを行っていましたが、仙台以外の学習者さんとも出会いたいという思いで、2018年からオンラインでのレッスンもスタートしました。そのおかげでコロナ禍でもスムーズにオンラインへの移行ができたと思っています。

個人的な感触として、プライベートレッスンに関しては、オンラインの方がむしろメリットは多いと言えるのではないかと感じています。ZOOMの画面共有や音声共有などの機能を駆使することで工夫した授業ができますし、ご自宅から受講できることによる受講生の満足度も高いです。お仕事の都合で他県に引越された方にもレッスンを継続していただくことができました。このような理由で、今後もオンラインのみで運営する予定です。

授業にもよりますが、基本的には教材を画面共有して書き込みをしていき、それを保存した画像を授業後に送っています。教材への直接の書き込みは文法はもちろん、イントネーションが特に伝えやすく、メモし忘れた部分なども後から確認でき、復習もしやすいと好評です。

プライベートレッスンでは受講生同士の横のつながりを作りにくいことが課題ですが、最近ではSNSで受講生同士の情報交換や、刺激を受け合う様子をうかがうことができます。学習者のニーズを把握するために、交流や勉強の様子、感想のチェックなどは今後も欠かさずに行っていきたいところです。

以前は交流会として定期的にみんなで韓国料理を食べに行ったりしていました。感染状況がもう少し落ち着いたら再開したいと考えています。また、現在は日本全国、そして世界各地から受講してくださっているので、オンラインでの交流の場を設けてみるのも楽しいのではないかなと思ったりもしています。

次回は大学での講義について書きたいと思います。