通信369 「生徒力」日下隆博

【週刊ハンガンネット通信】第369号 (2021年10月18日発行)

生徒力
日下隆博(くさかたかひろ)
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わたしは学生時代から数年間、音楽バンドのボーカルとしてライブステージに立っていたことから、ノリの良い観客の力を感じてきました。
ひるがえって、自分が観客の際にもステージ上のアーティストを盛り上げたい気持ちで声を出したりすることがあります。

そして現在、韓国語の授業でも生徒さんが場を盛り上げてくれることを意識し、それを実践することを促しています。

普段から「わたしは勉強が嫌い」と話す生徒さん。
-ㅂ니다/습니다 を学び終えた後の -아/어요 の学習時に、
「先生これでもう습니다 は忘れてもいいですよね!」
「ダメダメだめ~~!!」といった感じで盛り上がります。

数字はスーパーでの買い物など日常生活で使うことを授業で強調していますが、最近病院通いが増えた生徒さんは
「先生、血圧数値だけは韓国語で言えるようになりました。」
「素晴らしい~~!!」といった感じで盛り上がります。

生徒さんが場を盛り上げる方法のひとつとしては、教材の音声CDのオーバーアクション的発音をそのまま真似て発音した生徒さんには「主演女優賞!」などと言って大絶賛しています。

そうした効果もあってか究極の盛り上げ上手に、
私(日下)「잘생겼어요.は、どういう意味ですか?」
生徒「日下先生という意味です!」
私「大正解!!!!!」
といったものもありました。
韓国語単語を知っている人だけが大爆笑を共有できる回答で、
おおいに場が盛り上がります。

今回タイトルは「生徒力」と、わたしが勝手に作った一言ワードにしてみましたが、
現在放送中のNHK「テレビでハングル」の生徒役、満島真之介さんは
まさに生徒力を発揮して番組を大いに盛り上げている代表例と言えます。
先生でミュージシャンでもあるKさんがそれを引き出している部分もあり、
先生と生徒の学習する上での盛り上げ相乗効果がうまく発揮されている例に思います。

おもしろ発言を生徒側が楽しんでやってくれると、
授業というライブステージはさらに盛り上がり、そしてそれが、
脳を刺激し、語彙記憶にもつながっていく一助になればと思っています。

通信360「相手の立場」日下隆博

【週刊ハンガンネット通信】第360号 (2021年8月16日発行)
相手の立場
日下隆博(くさか たかひろ)
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今回、ハンガンネット通信の担当となりました日下隆博(くさか たかひろ)と申します。
簡単に自己紹介をしますと「韓国ミュージカル<パルレ 빨래>」の楽曲や「NHKワールドラジオ日本」の音声を素材とした教材などを執筆している韓国語講師です。
どうぞよろしくお願いいたします。

どんな仕事もそうですが、外国語を教える仕事も、生徒側、相手の立場に立った思考は大切かと思います。

オンライン授業が一挙に広まっておよそ1年半。
オンライン授業移行期での話です。
わたしが運営しているワカンドウ韓国語教室では昨年の全国一斉休校宣言前、
まだ対面授業が可能だった時期に、主婦層の生徒さんにZOOMの接続の仕方などの練習を授業中に行っていました。
いつオンラインのみに変わるかもしれないこともその時にみなさんに認識してもらっていました。
そんな日々のとあるクラスで、説明が始まるやいなや「わたしは絶対にオンラインはしません!」と声を荒げた方がいらっしゃいました。
「とにかく嫌なものは嫌」というトーンで、時期的にも「それでは来週よりこのクラスは休講としましょう」という結論を出すことになりました。

普段iPodも使いこなすような方がどうしてオンライン授業を烈火のごとく拒否したのでしょうか。しばらくして「あの方は旦那さんがとても厳しいんですよね」ということを聞かされました。
そこではたと思いつくことがありました。この方は授業中に「わたしは韓国旅行には絶対行かない」とも言っていました。

ここからはわたしの想像のみです。
「配偶者が心の底から韓国を嫌っている家庭もあるだろう、この方は外に出てこそ韓国語を使えるのであって、家の中では決して韓国語など使える状況ではないのかもしれない。」
昨年オンライン学習が一挙に一般化するころ、「主婦層は機械に弱いのでオンラインについてこられない」といった話も多く聞きましたが、ZOOM接続はLINE連絡ができる人ならそれほど難しいものではないでしょう。

学習者を分析する際、この学習者は勉強が苦手とかではなく、自宅では韓国語学習ができない環境なのかもしれない、若い学習者においても、たとえば子どもの韓国語学習にヒステリックに反応している親がいるのかもしれない、ということに考えを及ばせると、これらの学習者はたいへん厳しい環境を乗り越えて学習を続けている努力家だと分析できます。
学習者の習得の速度は、個人的能力以外に別の要因があるかもしれません。そしてこれらの学習者にとって韓国語の授業は、やりたいことに打ち込めるオアシス的時間かもしれません。こうした想像も相手の立場に立った授業構築のヒントになるかもしれません。