通信426 「大量の本を収める本棚」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第426号 (2023年1月30日発行)

大量の本を収める本棚
株式会社HANA 裵正烈
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弊社は韓国語の専門出版社ということもあり、気になる韓国語学習書、参考になりそうな韓国語学習書があったら参考資料としてちゅうちょせずに購入しています。また弊社の雑誌『韓国語学習ジャーナルhana』のインフォメーションページで本の紹介を行っていることもあって、多くの出版社さんからも新刊の見本が送られてきます。そういうこともあって、韓国語学習書の蔵書が増えており、年末にざっと数えてみたところ1000冊を越えていました。一方で日々増えていく本をどう収納していくのかという問題があります。今日は韓国語とはあまり関係のない、本棚のことについて少し書いてみたいと思います。

今日、本棚もしくは本棚になり得るさまざまな収納棚が市販されていますが、多くの本棚の奥行きは30cm以上あります。30cmという奥行きは結構なもので、私たちの狭い室内空間をさらに狭めます。30cmという奥行きは本を収めるにも広すぎて、本を置いた前の空きスペースにさらに本や物を並べることになりがちです。すると背表紙が見えなくなった奥の本がすぐに見つからなくなったり、奥の本を取り出すのに前の本や物をまずどかす手間が生じたります(取り出した本を戻すときも、さらに同じ手間が生じます)。

市販の本棚に関する私のもう一つの不満が、木くずや紙を接着材で固めた素材(板)にあります。ケミカルで長持ちしない、大量生産・大量消費の負の象徴のようなもので、時にわざわざ木肌のプリントを表面に施したりしているのを見て、そのチープな意図に嫌悪感を感じたりもします。

まあ、後者は個人の嗜好の問題なのでさておくとして、要は、余裕のない室内に大量の本をしっかり、機能的に保管できるぴったりの商品がないと常々感じているということです。そしていい商品がないのなら、自分で本棚を作ってしまうのが自分にとっての最適解の一つということになります。

語学学習書で一般的な本の判型と左右幅は、

B6判 12.8cm(CD付きのB6変型は13.1cm)
A5判 14.8cm
B5判 18.2cm

です。雑誌によく見られる大判のA4でも21cmなので、棚板の奥行きが20㎝程度の本棚を作れば、ほとんどの本が無駄なく収まります(奥行き30cmがいかに本に合っていないか分かっていただけるかと思います)。

それで弊社では、加工しやすいシナ合板(182X91cm)を幅20cmでカットしてもらい本棚を組みました。それを階段の脇などのスペースにぴったり合わせて設置しています(写真)。写真の4列の本棚には1000冊以上の韓国語学習書が収まっていますが、同様の本棚が一つ上の階の階段とフロアにもあります(これらは韓国語学習書以外で使用)。板の厚みは最初にお金をケチって1.5cmにしたので、すべてそれで統一しましたが、これはあきらかに失敗でした。1.8cm厚や2.1cm厚にすればより強固な本棚になったのにと後悔しています。

IMG_3080

なお会社の棚では合板を使用しましたが、自宅の本棚は1X8(ワンバイエイト=幅18.4cm、厚さ1.9cm、長さはいろいろ)という規格の使いやすく廉価な無垢板で作りました。好きなオイルやワックスで塗装を行い、無垢材本来の木目や質感、経年変化の味わいを楽しんでいます。

多くのホームセンターでは木材カットや電動工具、軽トラック貸し出しなどのサービスを提供しています。カットしたパーツを持ち帰って組み立てるだけなら、もちろん個人によりますが、作業自体の難易度はさほど高くはないはずです(組み立ての際、電気ドリルは必須)。手間はかかりますが、同等の市販品を買うよりは費用も安く済むと思います。

以上、私の本棚についての個人的な考えと経験を記しましたが、作り方についてはあまりにアバウトな説明だったかと思います。「清く正し本棚の作り方」というサイト(https://www.todaproduction.com/books/bkshelf/bkfrm.htm)には、上記のような本棚を作る根拠や方法がより具体的に説明されており、その内容は書籍化もされています。本棚の自作に興味がある方はぜひご参照ください。

通信420 「『English Journal』休刊のニュースに触れて」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第421号 (2022年12月15日発行)

『English Journal』休刊のニュースに触れて
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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私が以前勤めていたアルクという出版社から出ていた『English Journal』という雑誌が休刊するとのニュースに接しました。同社のリリースには次のように記されていました。
「「使える英語」「生きた英語」にこだわった本誌は、希有な教材として多くの英語学習者から支持されました。しかし、雑誌市場が加速度的に縮小する昨今、紙の定期刊行物として維持することが困難となり、休刊を決定した次第です」
実は同社ではこれに先立ち、「1000時間ヒアリングマラソン」という通信教講座の終了も決定しています。これらは50年前から先進的な英語教材を提供してきた同社を象徴する商品でもありました。
実際に日本国内で英語を熱心に学んだ人の中には、この二つの教材のお世話になった人が少なくないと思います。20年以上前、朝鮮高校の英語教師だった私も数年にわたってこの通信講座を受講していました。英語圏から非英語圏まで多様な分野の人々への英語インタビュー音声を収めたカセットテープ、その音声を書き起こした記事と対訳の冊子、さらに『English Journal』が毎月送られてきました。当初の実力ではナチュラルスピードの音声に全くついていけず、何とか聞き取れるようになろうと、テープがすり切れんばかりに何度も聞いたものです。
後日私がこの出版社の入社試験を受けたのは、これらの教材を通じてこの出版社に強い信頼を寄せていたからに他なりません。幸いにも英語の編集者として中途採用された私は、ここで本の仕事をゼロから覚え、2002年に『韓国語ジャーナル』という雑誌を創刊しました。『韓国語ジャーナル』では生きた韓国語にこだわりました。出演者が原稿を読み上げるのではなく、台本を基にインタビューや対話、トークを行う、ラジオ番組形式の韓国語音声を付録CDに収め(ただし司会・進行は、標準的な韓国語を駆使するプロのアナウンサーです)、それを書き起こした原稿と対訳を提供しました。このように手加減のない自然な韓国語を聞かせる教材は当時としては他に例のないものだったと思います。これらの発想の源泉はすべて先ほどの「ヒアリングマラソン」『English Journal』にありました。現在の私の出版社から出ている『hana』でも、CDがMP3ダウンロードへと形を変えはしましたが、生きた韓国語を聞かせるという音声のコンセプトをそのまま受け継いでいます。
この通信講座と雑誌がなかったら、『韓国語ジャーナル』『hana』は間違いなく生まれていませんでした。『韓国語ジャーナル』の創刊から今日までの20年間ずっと韓国語出版の世界で生きてきた私も、これらがなかったらどんな違う人生を歩いていたかなと思うときがあります。

通信410 「オンライン教室の「海外展開」で生じること」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第410号 (2022年10月3日発行)

オンライン教室の「海外展開」で生じること
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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弊社のオンライン韓国語スクールはこの9月で開講2周年を迎えました。2020年4月コロナ禍の発生とともに自社1階の教室は閉鎖、同年8月にオンライン授業を試験的に行い、9月から本格稼働させました。集客に大変苦労した時期もありましたが、担当スタッフの頑張りもあって少しずつ軌道に乗ってきたように思います。

当初の受講者は首都圏に住んでいる人がほとんどでした。そのうちに地方からの受講者が少しずつ増えてきて、いまではだいたい3、4割くらいが首都圏外からの受講でしょうか。もっともこれは授業での自己紹介などを聞いた大体の印象であって、申し込みの際に住所入力欄がないので正確なことは分かりません。さらに最近では海外からの申し込みもありました(韓国はもちろんヨーロッパからも!)。

ところでこのたび、海外からの受講を希望する人から「海外居住者の消費税免税はないのか」とのお問い合わせをいただきました。それで調べてみたのですが、海外居住者の場合、どうやら授業料は免税になるようです。

■国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/cross/01.htm
※冒頭の図表中、③の「改正後」が今回のケースに該当すると思われる

当スクールでは授業料はすべて税込で提示しているので、上記のケースを当てはめると授業料から消費税分を差し引く必要があります。正直こういったことは想定にありませんでした。今後は海外居住者が受講する場合の決まり(消費税免除を望む場合どの証明書を示してもらうかなど)を作らないといけませんね。

また、当スクールでは今年の7月から韓国にいる韓国人の先生に講座を持っていただいています。

■元アナウンサーから学ぶ!韓国語学習者のための朗読講座
https://www.hanapress.com/archives/15226

日本語を一切介在させない授業ですが、正確な発音と落ち着いた話術を駆使する元アナウンサーの先生ということもあって大変好評でした。10月開講の次回講座は申し込み開始後あっという間に8人の定員が埋まってしまいました。

オンラインなら、先生が韓国にいても日本にいても授業に大きな差は出ません。多くの韓国語学習者の関心は韓国に向いていると思いますし、韓国にいて現地の空気を吸っている人の授業や講義をリアルタイムで受けることは刺激にもなるのではないでしょうか。当スクールでは、機会があればですが、韓国にいる先生の授業も増やしていきたいと考えています。

授業担当として韓国にいる先生をフル起用するのは難しくても、ちょっとした機会に韓国にいる知人や友人に画面越しに登場してもらって、クラスの受講者とやり取りを行ってもらうことはいい刺激になるのではと思います。Zoomなどのオンラインシステムを使うと、こうしたことを容易に行うことが可能ですので、ぜひおすすめしたいです。

なお海外居住者に講師料などの支払いを行う際には、原則として所得税を源泉徴収しないといけません。源泉徴収額は支払額の20%となっていますが、「租税条約に関する届出書」という書類を事前に税務署に提出すると10%に減免されます(書類の作成自体はさほど難しくありません)。こうした手続は面倒なので、単発の仕事などで支払額が少額の場合は、弊社では各種プリペイドカードを代わりに送ることもあります。

※ここでいう「海外居住者」は、滞在資格、国籍、振込先銀行口座が問題ではなく、日本以外の国に住んでその国で納税を行っている人を指すものと私は理解しています。とはいえ私は税について明るくないので、上記認識や記載内容にもし誤りがありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。

通信402「値上げの影響は本の売り上げにも」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第402号 (2022年8月9日発行)

値上げの影響は本の売り上げにも
裵正烈
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最近あきらかに本の売り上げが落ちてきています。6、7月の実績をみると、自社の売り上げが昨年同時期に比べて3割は減っている感じです。

「値上げ、値上げ」とマスコミが繰り返し流し始めたのが、ちょうど同じくらいのタイミングではなかったでしょうか。「光熱費や食材費を節約することがあっても、本代だけはケチらない」という人は世の中では少数派だと思いますし、書籍代は家計が厳しくなるとまっさきに絞られるものの一つです。「韓国語学習熱の高まり」という別の要素もあるのですが、この秋・冬にはさらに値上げが続くということなので、会社の社長としては「経営上の大きな危機」と捉えています。

さて、弊社HANAは、ほぼ韓国語一本で出版活動を続けてきたこともあり、この分野ではそれなりに知られた出版社だと自負しています。そういうことから、「HANAから本を出したい」と言ってくださる方がいらっしゃいます。大変光栄なことですが、ときには「他社で出した方が売れると思うんですけど、うちからでいいんでしょうか?」と正直にお伝えすることがあります。

HANAには営業を担当する社員が一人しかおらず他の仕事も兼任しているので、営業担当の社員を二桁も抱えているような出版社には販売面で太刀打ちができないのです。全国の書店をあまねく回ることは不可能ですし、首都圏の書店に限るとしても月に1度の訪問が精一杯です。営業部員が多い出版社は、それこそ毎週のように、さらには週に何度も主要書店の店頭に現れて、棚の整理もしていきます(業界の慣習で、外部出版社の営業が店の許可を得た上で売り場の本の並びを変えることがあります)。

例えば、HANAの新刊が出るときに平積みにしてもらったとします。ところがこちらからはなかなかその後のフォローができないので、他社から次々発売される新刊に押し出されて、平積みだったものが数週間後には棚に移され、数カ月後に返品されて店頭からなくなることもしばしばです(売り場のスペースは有限なため)。もちろん平積みのときに動きがよい本などは、この限りではありませんが。

それで弊社の本でよくあるパターンが、発売直後によく売れて増刷を掛けたら、2刷以降ぱったりと売れ行きが止まるというものです。在庫が減らず「売れておかしくない本なのになぜ?」と思って調べると、書店の店頭にほとんど置かれていなかったといったことがよくあります。いくら本の内容が良くても、店頭にない本が売れるわけがありませんね。

もっと売れるはずなのに動いていない、もっと読者に使ってほしいと思う本がいくつもあるので、8月から営業社員を一人雇用することにしました。景気の落ち込みが続く最中に社員を増やすことに心配は尽きないのですが、営業人員を2倍にして一度出した本を少しでも長く多く売る。これは今回の危機への対策でもあります。

通信387 『韓国語ジャーナル』創刊20周年 裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第387号 (2022年4月18日発行)

『韓国語ジャーナル』創刊20周年 
株式会社HANA 裵正烈
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今月発売された『韓国語ジャーナル 2022』が私のもとに送られてきました。アルクが2002年から発行しているこの雑誌のことを、ご存じの方は多いと思います。今年が創刊20周年になるとのこと。20年の歴史はひとえにこの雑誌を続けて発展させてきた来た人たちあってのことで、私はほとんど部外者なのですが、創刊に関わった者として、当時の話を少ししたいと思います(創刊当初は「1人編集部」だったので話せる人間が私しかいません)。

朝鮮学校の英語教師から出版社の編集者に転身して3年目だった私は、その前年に『中国語ジャーナル』が創刊されて成功を収めたことにも勇気づけられ、この雑誌の創刊を考えつきました。キャリアは浅いものの、留学雑誌と英語検定試験の対策本の制作を通じて雑誌と語学書の作り方を一通り身につけていましたし、それに加えて学校で培った語学が私にはありました。

その頃まで韓国語は、一般にマイナーな言語とみなされていたと思います。私自身もそれを学ぶ人たちに対する認識があいまいだったのですが、調べるうちに、想像以上に韓国語の学習熱が高まっていること、幅広いきっかけや関心から学んでいる人、それこそ英会話を学ぶような感覚で韓国語を学んでいる人がいることが分かってきました。そういう人たちに、ビジュアルを通じて新しい韓国の姿を知らせて、生きた韓国語の素材で学習を後押しする新しい雑誌が必要だという考えに至りました。

とはいえ、韓国語の本を作るうえでの環境や人脈がゼロに等しいところからのスタートでした(この話は長くなるので割愛)。もう一つの大きな問題が、社内で企画が通るかどうかということでした。

準備に着手したのは2001年の10月頃。企画案を練り、営業部署と一緒に数字を練り込み(営業部に韓国語の学習者がいたこともあって協力的だった)、12月の企画検討会議に乗り込みました。社長をはじめとする重役、部署責任者の前でプレゼンを行い、その場で企画の可否が判定されるのですが、通常なら流れ作業で結論が出るところ、このときは1時間近く議論が続くこととなりました。当時は韓国語の学習雑誌がどんなものになるか、それをどんな人が買うか想像できる人がいないわけです。しかも単行本と違い、雑誌は費用もかかり、毎号出し続けなければいけません。プレゼン直後は好意的な雰囲気だったものの「韓国語の雑誌なんかが売れるのかね? 売れたとしてもいいとこ3000部じゃないの」と最後まで反対し続けたのが社長だったので、しまいには皆沈黙してしまいました。業を煮やして司会者が「結局どうればいいんですか?」と言うと、「じゃあまず1号だけやらしてあげよう。赤字が出たらその時点で終わり」との社長の一声でかろうじて承認されました。

発売日は、日韓共催ワールドカップの開催に合わせて2002年6月30日ということになりました。文字通りの1人編集部を立ち上げて、(ここからの制作過程の話も長くなるので割愛)、無事期日どおりに創刊を果たしました。当時日本のテレビで売れ始めていた韓国の女優(ユン・ソナ)を表紙モデルに起用し、彼女の韓国語のロングインタビューなど、生きた韓国語をふんだんに収めたこの雑誌は、学習者にも韓国語の新しい時代を感じさせるものであったと思います。売れる自信があったかというと、分からなかったというのが正直なところ。発売日が土曜日だったのですが、月曜日に出勤してほどなく「朝から書店の注文で電話が鳴り続けています」と営業部から連絡が来ました。それで、やっぱりこういう雑誌を待っていた人がいたんだと安堵したことを覚えています。創刊号は発売後すぐに増刷が決まり、最終的に5万部近くまで部数を延ばしました。その翌年『冬のソナタ』の放映をきっかけに韓流ブームが起こり、さらに大きな韓国語学習ブームが起きたのはご存じの通りです。

私は17号まで編集長を務めて雑誌を離れ、自分の出版社HANAを立ち上げて韓国語学習書の制作や出版を手掛けるようになりました。『韓国語ジャーナル』は後を引き継いだ人たちにより10年の間発展を続け、2013年に44号をもって一旦休刊となりました。私の出版社では、その休刊を受けて、2014年に『hana』という雑誌を作り今に至ります。そして『韓国語ジャーナル』も2020年に復刊を果たし、以後年1回のサイクルで発行されています。一度休刊になった雑誌を復刊させるのは、創刊するよりはるかに難しいと思います。これは本当にすごいことで、復刊後、年度版としてすでに3年出し続けている編集長には心から賛辞を贈りたいです。そっちがあまり売れるとこっちのものが売れなくなりそうなので微妙な思いもありますが、なにより学習者にとって、選択肢が増えるということは望ましいことではないでしょうか。

余談ですが、『韓国語ジャーナル』が10周年を迎えた際に記念イベントが開かれ、私も招かれたので行ってきました。すると、創刊に最後の最後まで反対した社長が「どうやら『韓流が来ている』ということで、私がこの雑誌をやってみたらどうかと、やらせてみたところ大ヒットしました」とあいさつしたのには、心底驚かされました。でも、仮にあのとき「ゼロ回答」だったら、今こうしてこの通信を書いている自分はいませんし、HANAという出版社もありませんから、条件付きでもやらせてくれた社長には恩を感じています。

通信380「用言の見出し語が活用形になっている単語集」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第380号 (2022年2月21日発行)

用言の見出し語が活用形になっている単語集
HANA  ペ・ジョンリョル
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単語集などで、見出し語に動詞や形容詞などの用言を示す際には、ほとんどの場合、基本形(辞書形)を掲載すると思います。ただし弊社で昨年出版した『hanaの韓国語単語 超入門編』という本では少し違う形を取りました。それは何かというと、用言の見出し語をヘヨ体現在形にしたのです。たとえば「가다」や「먹다」ではなく、「가요」「먹어요」を見出し語にしたわけです。

その狙いは、本のレベルが「超入門編」ということで、片言でもカタカナ発音でもすぐに口に出して使える形で読者に用言を覚えてもらおうということに尽きます。すぐに使えるためには「カダ」「モクタ」よりまず「カヨ」「モゴヨ」を覚えよということになります。

独学用教材はハムニダ体よりヘヨ体を先に学ぶものが多く、入門レベルの学習者はヘヨ体を見慣れているはずなので、ヘヨ体の見出し語に大きな違和感はないはずです。さらに基本形を意識しないのなら、変則活用は気になりません。また「カヨ」「モゴヨ」からは、「カッソヨ(갔어요=行きました)」「モゴッソヨ(먹었어요=食べました)」などの過去形を直接作りやすい。韓国の友達(同級生)たちと親しく話したい中高生や大学生にとっても、「カヨ」「モゴヨ」からヨを取って「カ(가=行くよ)」「モゴ(먹어=食べるよ)」などパンマルをすぐつくることができます。とはいえ、いずれ基本形に向き合う必要はあるので、本には基本形も小さく書いてあります。

独学書は飽きずに学んでもらえる工夫が必要ですし、この本は学習の入り口の本ということで、上記のような工夫を行ってみましたが、この試みがうまくいったかは分かりません。「見出し語がヘヨ体で書いてあるのが気に入りました」というネット書店のレビュー(若干1名)があったことはうれしく思いました。

読者の選択肢を広げるためのこのような単語集もありますが、韓国語の専門出版社としては、最初は遠回りでも長く使える知識をきちんと学んだ方が結局は近道で、学習者には早い段階から体系的な文法知識を身に付けてほしいというのが基本的な立場です。弊社には上記の本の他にもいくつかの単語集がありますが、それらすべて用言は基本形が見出し語です。

通信375 「韓国語学習書がよく売れると…」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第375号 (2021年12月16日発行)

韓国語学習書がよく売れると…
HANA ペ・ジョンリョル
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出版業界ではこのところずっと韓国語学習書の売れ行きが好調です。韓国語の学習書が売れていると、当然参入してくる出版社が増えて新刊点数も増えます。売り場のスペースには限りがありますので、新刊点数の増加は、営業力の強い会社によって弊社の本が売り場から押し出されることにもつながります。長く長く売れる本を作りたい出版社にとっては、喜んでばかりはいられない面もあります。

語学書は、一般の読み物に比べて作るのに手間がかかります。弊社では本の内容や分量、作り方にもよりますが、原稿が完成してから編集・校正を行い発売するまで、最低でも3カ月はかかりますし、現在のマンパワーでは会社全体でも月1冊のペースで作って出していくのがやっとです。

一方、一般書、特にビジネス本などでは、編集者1人が10数冊併行して進めて月に1冊ずつ出版しているといった話はざらにあります。韓国語ブームを受けて参入してくる出版社は、語学以外を手掛けている出版社の場合も多く、私たちとは異なるスピードと規模で、弊社が1冊出す間に、2冊、3冊と出してきます。なんとか同じ土俵で勝負するのを避けるしかありません。

韓国語の学習書が売れるようになると、他の出版社から弊社に仕事(編集や校正、録音)の依頼も来るようになります。下請けの仕事はお金になるのが早いので、以前は「来た仕事は断らない」主義でこうした仕事を優先してこなし、出版の資金に充ててきました。最近は下請けの仕事を断るようにしているのですが、どうしても断り切れなくて、手離れのいい校正だけ請け負うこともあります。今のような状況はずっと続きそうですから、今後韓国語や日韓の記事・原稿をチェックする人の需要は増えるように思います。

上に書いたように、過去の韓国語ブームのときは他社の商売をせっせと手伝い、自分のところにはたいして残りませんでした(ただし経験は残った)。つまりその頃はまだ出版社としてのスタートラインに立てていなかったということでしょう。今回の学習ブームでは、過去にそんな苦しい思いをしながらも作りためた本がありますので、この流れにうまく乗っていきたいと思います。

通信368 「オンラインスクールの1年を振り返って」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第368号 (2021年10月11日発行)

オンラインスクールの1年を振り返って
株式会社HANA 裵正烈(ペ・ジョンリョル)
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弊社のHANA韓国語スクールでは、昨年9月からオンライン講座を始めました。ちょうど1年が経ちましたので、この1年を振り返りつつ、経験をいくつか共有したいと思います。

出版社である弊社が運営する当スクールには、社員や専属の韓国語教師はいません。授業は外部の先生に授業をお願いし、社員は講座担当として授業のサポートや実務を行っています。今年の3月までは私がスクールを担当しましたが、4月に社員が一人入社し、現在ではほぼ一人で運営に当たっています。授業ではオンライン会議システムZoomを利用しています。授業日には講座担当者がホストとして教室(会議室)を立ち上げます(そして講師を共同ホストに指名するかホストを交替する)。ひとたび授業が開始されたら、何かあったときにすぐ気付いて対応できる程度に授業をモニターしながら、他の業務を行っています。講師側のネット接続が悪くて授業が聞き苦しかったり、受講生側のネット接続が切れていつの間にか会議室から消えてしまったりするトラブルがときどきありますが、これまで授業がキャンセルになるような大きな事故はありませんでした。ただし通信状態が悪いとせっかくの授業が台無しになるので、講師・受講者の音声が明瞭か、画面が滑らかに表示されるかなどの確認には大いに気を使っています。担当者は、こうした授業のサポートの他に、講座の企画や先生との交渉、集客、受講生との連絡、配信物の送付などを行っています。

当スクールでは定員を8人としています。ただし、会話の授業では受講者6人までが限度だと感じています。一方で集客には苦労していて、1人も集まらず取りやめになった講座や、ギリギリの2人で開催した講座がいくつもありました。現在(10月)は9講座を進行しており、一定の売上が立ち、講師料を引いた粗利もそれなりに残るようになってきたのですが、担当社員の工数を考えると全体的にほとんど利益は出ていない状況です。1講座あたりのキャパシティの問題から利益を稼げる商売にはしづらいし、一方で、後述する集客の問題から「多売」に転じることもなかなか難しいと感じているのが現状です。講義や講演の形式でなら一度に参加できる人数を増やせるので、このような授業を混ぜることも一つの考えでしょうが、多人数になるとその分受講料を検討しないといけないでしょう。まだまだ試行錯誤は続きそうです。

受講者に聞くと、弊社のツイッターを見て講座の情報を知ったという人が多いですが、もちろん中には雑誌『hana』の愛読者も多くいると思われます(定期購読の発送作業をやっていると受講者のお名前をよく見掛けてうれしくなります)。当初、首都圏在住の参加者が圧倒的多数でしたが、半年くらい経つと全国各地からの受講者が増え、今では首都圏以外からの参加者が過半数を占める講座もよくあります。ただし海外からの参加というのがまだありません。またオンライン授業は教える側の講師も望む場所で授業を行えるのが利点ですが、現在開催中の講座の講師には、九州・博多在住の先生がいらっしゃいます。

授業を録画して後からたやすく閲覧できるという点は、オンライン授業のメリットです(先生にとってはちょっといやな機能かもしれませんね…)。当スクールの場合、Zoomの機能で授業動画をネット上(クラウド)に保存し、それを再生するリンクを授業翌日に受講生に知らせています。「自分の韓国語をテープに録音してチェックした」という習得者の経験談を聞いたことがありますが、オンライン授業だとすでにそのようなサービスがあるわけです。なお、録画を行うことについては募集時に明記しており、講座の初日にも「受講生に限り、次回の授業まで再生可能。各自のパソコンへの保存禁止」、つまりクラスの外部に録画は出ない・出させないということをあらかじめお知らせして、受講生の方の了解を得ています。授業を欠席した人はもちろん録画を見ることができますし、参加した人も大いに復習に利用されていらっしゃいます。

当スクールの場合、「入門・初級・初級2…」といった「コース型」の講座でなく、企画型の講座が主なので、講座を開くたびに受講者を集めなければいけません。講座に特色がなかったり、学習者に訴求する内容が欠けたりすると、たちどころに集客が難航します。出版社としてのHANAの名前があるので、他の学校の方からすると大変有利と思われるかもしれませんが、まだまだスクールの名前で受講者を集められるほどの力はありません。逆に、集客は講師の知名度や人気に明確に左右されます。こうした先生たちと接点があり交渉がしやすいという点では、雑誌を発行しているメリットを大いに利用しているいえます。

長くなりすぎたのでこのあたりで今回の投稿を終えようとしたのですが、出版社が運営している当スクールには他の教室・先生とは異なる面があると思いました。書きながら「あまり他の人の参考にはならないなあ」と思ったので、もう少しだけ話を続けたいと思います。

当スクールの体制上、担当者はいろんな先生の授業を見ることができます。多くの先生がオンライン授業の方法やZoomの機能を学習されて、新しいことを積極的に取り入れていらっしゃいます。逆にそうした機能に背を向けるような、でも印象に残る授業がありました。

教材の著者が講師を務める授業で、用いる方法はホワイトボードへの板書のみ。ホワイトボードを自分の右後に写るように配置し、講師自身はカメラにかなり寄り付き、画面の左前に映るポジションを取ります。授業中は、始終カメラをのぞき込むような位置で話し、必要に応じて板書を行い、それを背景にあるいは指しながら説明を行います。受講者が画面をスピーカーモード(発話者をメインに映すモード)にすると、常時目の前に先生の顔が大写しになり、先生が自分一人に個別に語り掛けているような感じになります。オンライン授業とはいえ、オンライン会議システムの機能はほとんど使わない(パソコン操作も一切しない)この授業を私は画面越しに見ましたが、すごい説得力がありました。そもそもその説得力の源は先生が持っている総合的な教授力にあるのでしょうが、オンライン授業に取り組んでいる人にも取り組んでいない人にも、オンライン会議システムの機能に頼らないこんなオンライン授業のスタイルがあるということをぜひ紹介したいと思った次第です。

通信359「出版社が韓国語教室をやる理由」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第359号 (2021年8月9日発行)
出版社が韓国語教室をやる理由
株式会社HANA 裵正烈(ペ・ジョンリョル)
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弊社HANAのような小さな出版社(の社長)が飲食店を経営するケースがあります。飲むこと食べることに人一倍関心の強いオーナー社長が、「自分のこだわりの店」を持つというパターンでしょうか。具体的なケースを多く知っているわけでありませんが、たいがいは「(道楽なので)うまく行かなかった」というオチがついてきます。

「事務所の1階がHANAの韓国料理店だったらいいのに…」「HANAで韓国料理店をやったいいのに…」。これも弊社で雑談の際によく話題に上ってきた話です。みんな韓国料理が大好きで、舌が肥えています。副編集長は飲食店の厨房にいたこともあり、ほとんど自分がやるというくらいの勢いだったので、(優秀な編集者を失うという意味で)少々恐ろしくもありました。

ただしHANAが始めたのは、飲食店ではなく韓国語教室でした。これは韓国料理店を始めるより、はるかに分かりやすい選択だと思います。

HANAは韓国語の専門出版社であるため、学習者の間で比較的知名度が高く、集客面で大きな利点があります。また、自社の本を使うことでさまざまなフィードバックが得られる、これから本にしたいアイデアを試すことができるというメリットもあります。さらに加えるなら、弊社スタッフが教育の現場を知る機会、学習者を間近に見られる機会を得られる点が大きいと考えています。

最近では、教室の舞台をオンラインに移したことで、韓国語学習における地域・条件格差の解消、弊社の主要読者である全国の中上級学習者層の維持・拡大にも大きな意義を見出しています。

以上はまさに、弊社が教室を始めた一番の理由に他なりません。ただし、経営者の立場からは、さらにもう一つ、別の理由があります。

ある出版業界の先達は、出版社の経営で最も大事な点について「1に資金繰り、2に資金繰り、3,4がなくて、5に資金繰り」とおっしゃいました。経営という観点で出版社を見ると、最も大事なことは、企画ではなく資金繰りだというのです。

出版社が本を出すと、著者に印税を払うほか、制作に関わった外部のスタッフや会社にすみやかに外注費を払わないといけません。担当した社員の給料はもっと先に支払われます。しかし本の売上は、発売後かなり後にならないと支払われません。また弊社が主に扱うような中上級レベル向けの本は、1,2年後になってようやく元が取れるものが少なくありません。このように、収支の時間差が特に大きいのが出版業界の特徴であり、新刊を出せば出すほどその間の資金負担が増加します。

弊社の韓国語教室では、現在最大10クラスほどの講座を実施しています。各講座(通常6~10回)の全回分全員分の受講料が、しかもまだ授業を行っていないのに先払いで入金されます。社員6人の出版社としては大した売上ではないかもしれませんが、新刊が世に出ても数カ月間ほぼ収入がない出版社としては、それを少しでも補える、計り知れないメリットがあるのです。

ここまで記すと、冒頭の出版社オーナー社長が飲食店経営に手を出す理由について、ちょっと違った見方ができるかもしれません。「社長の道楽」のように書いてしまいましたが、飲食店は「日銭」が入る仕事ですから案外それが理由の場合もあるのではないでしょうか。