通信473 「かわいい」日下隆博

【週刊ハンガンネット通信】第473号 (2024年1月22日発行)

「かわいい」
ワカンドウ韓国語教室 日下隆博
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「かわいい」はパワーワードだ。
「ちいかわ」がはやっているんですよと聞かされて、自分には「そうなんですね」程度の反応しかできないが、「かわいい」に対する消費意欲は相当のように見受けられる。

教科書に’젊어 보여요’ という表現が出てきた時とある生徒さんが「’見えます’ は ‘ポヨヨ’?!’ポヨヨ,
ポヨヨ’…かわいいいーーー~~~~!」と興奮を隠せない様子。

「なるほど。韓国語は人によって音自体もかわいいのだ!」とその後私は少し複数方面に「かわいいと思う韓国語はありますか?」と尋ねてみた。

‘잖아~’と聞こえてくる語尾がかわいい。’엉’と返事するのがかわいい。などなどが収集された。

昨年末とある韓国語学習者の忘年会でふと「韓国語かわいい語選手権」投票をやってみた。

ノミネートは以下の五つ。
보여요
뽀뽀
줄래?
있잖아

さて投票結果は!
보여요 1
뽀뽀 1
줄래? 0
있잖아 9
엉 0

今回は投票者全員が意味がわかっての投票だったが、それにしても意外な結果に思えたのは私だけか?^ ^

「かわいい」はパワーワード。

機会があればみなさんもぜひ「韓国語かわいい語選手権」をやってみてくださいね。

通信472 「ピョンヤンからのメッセージ」田附和久

【週刊ハンガンネット通信】第472号 (2024年1月15日発行)

「ピョンヤンからのメッセージ」
田附和久
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2024年の年頭は、元日に発生した能登半島地震のために、正月のめでたい気分を満喫できなかったという方が多かったのではないでしょうか。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

地震発生後に朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)の金正恩国務委員長から日本の岸田首相宛に見舞いの電報が送られてきたというニュースに触れ、早速、로동신문(労働新聞)のサイトで原文に当たってみました。その中に「나는 피해지역 인민들이 하루빨리 지진피해의 후과를 가시고 안정된 생활을 회복하게 되기를 기원합니다. 」という一文がありました。ここに出てくる「후과」という単語が気になりインターネットで検索してみたところ、よくない結果を表す言葉として「北韓」で使われる単語であると説明する韓国のサイトを多くみつけました。「후과」という単語自体は韓国の辞書にも出てきますが、韓国では共和国におけるほど日常的に使われる頻度は高くないようです。

南北の分断から70年以上の歳月が流れ、今でも互いの言語は通じるものの、日常的に使われる単語や表現の違いが日増しに大きくなっていることは確かです。共和国で暮らすという役柄の人物が登場する『愛の不時着』等のドラマや映画をご覧になって、あらためてそのことに気付かされた方も少なくないのではないでしょうか。

今から四十年近く前、私が初めて朝鮮語を学んだ当時、「남북 공동 성명(南北共同声明)」(1972年7月4日)を教材として取り上げている教科書が何冊かありました。当時としては珍しい南北共同で発表された文書であり(南北統一の実現可能性を期待させてくれる文書でもありました)、同じ文書だけに南北それぞれの正書法や分かち書きの差異を学ぶのに適したテキストでした。私と同じ時期に朝鮮語を学んだ仲間の中には、「最近 平壌과 서울에서 南北関係를 改善하며 갈라진 祖国을 統一하는 問題를 協議하기 為한 会談이 있었다.」で始まる共同声明全文を今でも暗誦できる人が少なくありません。

それから半世紀近くを経た2018年に文在寅大統領と金正恩国務委員長が会談し、両者連名による「板門店宣言」が発表された際、南北双方から発表された宣言文を比較してみたことがあります。「남북 /북남」、「한 /조선」等のそれぞれの置かれた立場に基づく違いの外にも、「(南)정상 (北)수뇌」、「(南)왕래 (北)래왕」、「(南)민족 분단으로 발생된 (北)민족분렬로 산생된」、「(南)이산가족 (北)흩어진 가족」、「(南)전단 (北)삐라」、「(南)장성급 (北)장령급」等の南北間で異なる単語・表現が増え、共同宣言文も共通した一つのものを作れなくなってしまっている現実を悲しい思いで受け止めました(ほかにも、「(南)충돌의 근원이 되는 (北)충돌의 근원으로 되는」のような、文法的に気になる違いもありました)。

日本社会の中で韓国に好い印象を持つ人たちが若い世代を中心にかつてないほど増えている一方で、朝鮮民主主義人民共和国に対するイメージは好転することはなく、メディアでも「ミサイル」発射等をめぐる報道のほかには関心を向けられることがほとんどありません。学習している言語を日常的に使って同時代に生きている人たちの中の半分近くの人たちのことがイメージの中から全く欠落してしまっているという今の日本の韓国語学習者が置かれている現状は、たいへん悲しく、また残念なことだと私は思います。

確かに国交もなく、市民同士がたやすく交流できない状況の中では仕方ないことなのかもしれませんが、しかし今のような状況がこの先も永遠に続くとは思えません。思い起こしてみれば、私が朝鮮語を学び始めた1980年代当時の日本社会の韓国観も、今とは比較にならないほど冷たく、差別や偏見に満ちた厳しいものでした。

ちょうど40年前の1984年にNHKでハングル講座の放送がようやく始まり、『平凡パンチ』という男性週刊誌が韓国特集を組んで大いに話題になりました。大手マスコミでは軍事独裁政権による民主化運動弾圧のニュースのほかには韓国に関して伝えることがほとんどなかった当時、それでも韓国に暮らす普通の人々の生き様や文化を伝えようと努力した先輩たちがいました。それらの方々の働きを通してまかれた種が、時を経てやがて花を開き実を結び、韓流ブームが定着する今の状況へと至りました。韓国ドラマを日常的に楽しむ層が広がり、多くの高校生たちが韓国のアイドルや化粧品に夢中になり、紅白歌合戦には韓国のアーティストが何組も登場するような今日の日本社会の姿を40年前に誰が予想していたでしょうか。

そう考えれば、今から30年、40年先に私たちがピョンヤンに暮らす人々と自由に交流し、互いの文化を楽しむ時代が訪れていることも、全く可能性がないとは言えないでしょう。40年前に日本と韓国の間で交流の種をまいた先輩達にならい、今、かんたんには会えない仲間たちのことを思いながら、今この地でできる種まきの仕事を今年は何か始めたいという思いを新たにしています。

今回は年頭に当たり、個人的な新年の夢と目標を書かせていただきました。2024年が皆様にとって平和で穏やかな実り豊かな年でありますようお祈りいたします。

通信471 「推しとK-popと韓国語」奈良美香

【週刊ハンガンネット通信】第471号 (2024年1月8日発行)

「推しとK-popと韓国語」
奈良美香 下関市立大学 他
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  明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 2023年度のNHK紅白歌合戦にも韓国アイドルが数組出演するなどK-popの勢いはとどまることを知りません。韓国語に興味を持ったきっかけとしても「推しが話している内容を日本語字幕なしで理解したい」という方もいるでしょう。私の家族もボーイズアイドルグループのファンになり、毎日推しグループの曲を聞いています。(私も聞かされています。)また、お目当ての推しが出演する歌番組やバラエティー番組を視聴しながら、表現を質問してくるようになりました。家族との会話の中で、覚えたてのフレーズで話す姿を見ていると、「推し」の威力を実感します。

 皆様も、授業でK-popを使用しての聴き取り練習を実施した経験はありませんか?私も授業の状況に合わせて、私が選んだ曲で聴き取り練習をします。先日も1年生の授業で、私の好きなチョ・ソンモさんのデビュー曲「To Heaven」の歌詞を使用しての聴解練習をしました。私が留学中の1998年に大ヒットした曲で、バラード調で聴き取りやすく、MVもイ・ビョンホンさんが出演したショートストーリ仕立ての内容が独特なため選曲しました。MV視聴後にその当時の韓国の状況と留学中のこぼれ話をしたら、学生達は興味深く聞いていました。

2年生の授業では、学生が<曲選択→文法説明→文法問題→穴埋めリスニング問題>までをひとりで作成して、発表するK-pop課題を実施しました。学生が選曲し、その歌詞から文法を1つ選び、説明後に、文法問題と穴埋めリスニング問題までを発表する内容です。発表後は自己評価と相互評価を実施しました。質問項目の中で「k-pop課題は韓国語学習に役立つと思いますか?」とたずねたところ、全員が「強くそう思う」と回答していました。その理由に、

・「文法を自分で調べ説明できるようにすることで、頭に入りやすくなり、歌を活用することで楽しく覚えられるから。」
・「今まで聞き流していた歌詞を楽しく勉強することができるから。」
・「歌で学習することで楽しく覚えることができ、聞き取る力も向上すると思います。」
などの回答がありました。

 学生が主体となり活動するK-pop課題は、好きな楽曲による韓国語学習であるため、「楽しみながら学べる」というアプローチが可能となります。また、教師も学生の発表からさまざまなタイプのK-popに触れることで、刺激を受け、授業で使えそうなネタを見つけ出すことも可能となります。是非、皆様も機会がありましたら、k-pop課題を実践してみてはいかがでしょうか?

 次回はどの楽曲で、学生が楽しみながら学べる内容を作成しようかと私の奮闘はまだまだ続きます。

参考までに、チョ・ソンモさんの「To Heaven」のリンクを貼りますので、興味のある方は是非、ご覧になってみてください。

【受講生募集のご案内】「韓国語の発音講座―ピッチパターン(音の高低)を練習―」ライブ授業

韓国語学習者の皆さん、「ネイティブっぽく発音したい!」と思ったことはありませんか?
ピッチパターン(韓国語の音の高低)を練習することで、ネイティブアクセントに一歩近づけるかもしれません。

今回のライブ授業では、ピッチパターンを知り、すぐに使える文でたくさん練習します。プリントは事前にお送り致します。

セミナーにて指導はライブで行われ、飯田華子先生が直接「韓国語の発音指導」の授業をしてくださいます。
独学で勉強している方、現在習っている先生以外の授業を一度体験してみたい方この機会にぜひ指導を受けてみませんか。

講師:飯田華子(いいだはなこ)
韓国外国語大学校卒業。関西大学大学院博士後期課程修了。関西大学、大阪公立大学、桃山学院大学、帝塚山学院大学、天理大学非常勤講師。

◆募集要項
日時:2024年2月12日(祝月)20:00から30-40分ほど(リアルタイムでZoomに接続できる方)
参加費:無料
レベル:初級後半~中級レベル
募集人数:5名
条件:顔出し必須
準備物:筆記用具

申し込みページ:
※このセミナーでの指導は、韓国語講師向けセミナーの一貫として行われます。授業が終了しましたら、ルームからご退室をお願いします。

満席になりました。ありがとうございました。

通信470 「学習書の音声ダウンロード方式の四つのメリット」 裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第470号 (2023年12月25日発行)

「学習書の音声ダウンロード方式の四つのメリット」  
HANA 裵正烈

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今日、ほとんどの語学学習書で音声が提供されています。でも私が大学生だった80年代後半、語学書に音声が付いていることはまれだったと記憶します。

別売カセットで音声を提供している場合がありましたが、二千数百円とか三千何百円とかを払って、本とは別途に購入しなければいけませんでした。音声はほしいけど高いので、複数名で同じ本を買い、カセットだけダビングして融通し合った人もいたのではないでしょうか。

私が韓国語の出版物を手掛けるようになった20年前には、もうカセットを見掛けることはほとんどなく、とっくにCD付き書籍という商品形態になっていました。音声が別売りではなく本に付属するようになって、音声自体の値段が劇的に安くなっていました。

そしていまやCDを回したことがないという世代が読者の中にも増え、家にCDを再生できる機器がない人も多くなりました。HANAでも、新刊の音声はすべてダウンロード方式になりました。

ダウンロード方式になってよかったことは、音声の制作において時間的な余裕が増えたことです。CDの場合は、製本と併行してCDのプレスを行う必要があり、CDの完パケ(制作終了・納品)は校了とほぼ同じタイミングでした。一方ダウンロードの場合、発売日までに音声をサーバーにアップすればよくなり、単行本の場合で2~3週間遅くてすむようになりました。日々締め切りに追われている立場からすると、これは大変ありがたいのです。本の編集を終えた後、校了した原稿で余裕をもって音づくりに取り掛かれるので、精度も増します。

よかったことの二つめは、本が出た後で音声の間違いを見つけてしまったときに、CDはその中身を変えられませんが、ダウンロード方式の場合修正して差し替えることができるということです。例えば音声の順番を間違えたなどの再録音がいらない修正なら、自分のパソコンで簡単に直して、差し替えてしまうことができます。

三つめは、単純にメディアとしてのCDの材料費や制作費が掛からなくなったことです。コストダウンなのでもちろんありがたいのですが、声優のギャラやスタジオ代、音声編集費はどのみち必要なので、音声制作費全体から見たらすごく大きな部分ではないとも言えます。

ここまでダウンロード方式の利点について見てみましたが、現実的には、CD再生以外の方法で音声を利用できないという人(ほとんど年配の方)がまだいらっしゃいます。そういう方がどうしてもCDをほしいという場合、HANAではCD-Rに音声を焼いて送ってあげています(送料分の84円切手2枚のみご負担)。韓国語の専門出版社HANAの使命として、どんな学習者も取り残さないという気持ちでやっているのですが、「いつまでやるんだ」という社長に対する批判が社内にあるのも事実です。

つい最近実際にあったケースでは、その本の音声全部を収めるのに、CDを6枚焼く必要がありました。私が担当した本だったので自らCDを焼いて送ることになりましたが、さすがに「こりゃやってられないな」と思いました。

CDには1枚最長80分ほどの音声しか収められず、最大2枚×80分が提供できる音声の限度でした。一方のダウンロード方式はサーバーの容量が許す限り無制限に音を提供できます。つい欲張り過ぎて、いろんな練習用音声を準備してしまうのです。これが四つめのメリットと言えるのかどうなのかは私にもわかりません。

最後に、HANAの韓国語学習書は高いというご意見をごくたまにいただくことがありますが、ダウンロードになったとはいえ、音声の制作にも相応の費用と労力を掛けている点、ぜひぜひご理解をいただきたいです。

通信469 「韓国のことばと文化を学ぶサイト〈hana+(ハナタス)〉オープンしました。そして「hana+」を作ることになった今の世の中の状況。」 浅見綾子

【週刊ハンガンネット通信】第469号 (2023年12月18日発行分)

「韓国のことばと文化を学ぶサイト〈hana+(ハナタス)〉オープンしました。そして「hana+」を作ることになった今の世の中の状況」

HANA 浅見綾子
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『韓国語学習ジャーナルhana』(HANA刊)は来年4月に創刊10周年を迎えますが、これを機にこのたび、韓国のことばと文化を学ぶサイト「hana+(ハナタス)」がオープンしました。

「hana+」では、これまで編集部が蓄積した豊富な学習コンテンツや制作ノウハウを基に、多種多様な学習素材、効果的な学習方法や教材、学習イベント・講座に関する情報を毎日提供していく予定です。

https://www.hanatas.jp/

さて、若者の読書離れが進んでいると言われて久しいですが、若者だけでしょうか。

大人も読書よりも手っ取り早く情報を得られるネットやYouTubeなどの動画で情報を得たりしているように思います。

「若者の本離れ」がこんなにも加速した5つの理由
hthttps://toyokeizai.net/articles/-/330115

2020年の記事ですのでちょっと古いですがお時間あるときに読んでみてください。私は納得しました。

先生方、本はリアル書店で買っていますか? 

ネット書店で購入するか、もしくはめっきり買わなくなったりしていますか?
今年2023年もかなりの数の書店が閉店しました。 
紙の語学書もどんどん売れなくなってきています。

これまでのように「ライバルは、◯◯出版社!」ではなく、YouTubeやインスタ、Netflixなど挙げると切りがありません。

語学素材に使えるものが増えた上に楽しく、さらにスマホさえあればすぐにいつでも見られます。

また最近(でもないですが)話題のAI。

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『ニューズウィーク日本版』特集:AI独学英語術https://www.newsweekjapan.jp/magazine/470415.php

(もくじ)
外国語学習 AIの進化が生んだ最強の「独学」英語術
■最新知識 4技能別・AIで今できること
■アプリ 目的別の最適ツールは
英会話 スピーキングを学べるアプリ10選
研究 学習者とAI教材は今のところ相思相愛の関係
メディア テレビも捨てたものじゃない
SNS TikTok先生とインスタ先生
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どんどんAIが人間に取って代わって、韓国語を教えたり、添削したり、語学教材を作ってくれたりするでしょう。

AIは私たちの敵でしょうか。

AIを利用すれば、自分ひとりではできなかったことが短い時間で一気にできるようになります。
(イラストを描いてくれたり、すごい量の韓国語の例文を作ってくれたり、訳してくれたり、問題を作ってくれたり)
「hana+」サイトの運営もAIの力がかなり役立っていますし(リード文を書いてもらったりしています)、語学書の編集作業にも大いに利用しています。

AIは敵であり、味方でもあります。AIとハサミは使いよう!

良いお年をお迎えください。

 通信468 「韓国語教材のカナルビについて」を読んで 寄田晴代

【週刊ハンガンネット通信】第469号 (2023年12月17日発行)

「韓国語教材のカナルビについて」を読んで  
寄田晴代
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前回の加藤慧先生の通信を読んで、周囲の韓国語を学習したことのある人に、韓国語教材のカナルビについて聞いてみました。
「いいと思う」「いいと思う。ただし、ハングルを学び始めて慣れるまでの間だけ」という意見でした。
いいと思う理由は「韓国語で言えた!と思える経験が意欲につながるから」「ハングルを覚えるのが嫌にならないために」でした。

私は、文字の指導と発音指導は一体だと思っているので、カナルビに頼る癖をつけたくない派です。また、ハングルが読めない人に発音規則を教えるのは大変そうです。
韓国語のカナルビと言えば思い出すのが、昔、バックパッカーによく読まれていた旅行ガイドブックの韓国編です。국립박물(国立博物館)のカナルビが「ククリプバクムルグァン」となっていて「なんだか爆発しそうだね」と友人と話した思い出があります。

カナルビに頼ってほしくないとは思うものの、1年間毎週受講しているのにハングルが読めない学生に出会うことも実際にあり、そんなときは、読み方をカタカナで書いてもいいからやめないでほしい、と思うのも事実です。

「英語にカタカナを振ることに対する小学校教員の意識」(田中 真紀子・河合 裕美 2023)という論文に英語を指導する小学校教員の「カタカナ使用」に関する意識調査があるのですが、賛成、反対の意見を読んでみると、いずれもなるほどと思わされます。
賛成:自信のない子どもにとっては安心につながる。苦手意識を持ちづらくさせる。児童のやる気や自主的な学習に結び付く。
反対:正しい発音、音韻認識を身に着ける妨げになる。カタカナではスペルの違いに気がつかない。新しい単語に出会ったとき自力で読めない。書くことにも影響する。

教える側としては、学習を続けて上達し韓国語が使える楽しさを知ってほしい、と思うので、まずは嫌になってやめてしまわないためならカナルビもアリなのかもしれない。逆上がりができないときに「鉄棒回転サポーター」を利用するのと同じと考えればいいではないか、と思い始めているのですが、韓国に初めて行ってきた人に「韓国語は全然話せなかったけど、ハングル読めたのが嬉しかったし助かった」と言われると、やっぱりしっかりハングル覚えてもらわなきゃ、と思ったりするのです。

参考文献:英語にカタカナを振ることに対する小学校教員の意識
-賛成派と反対派の考えの相違:教員の英語力および英語指導力の自己評価との関係から-
田中真紀子・河合裕美 神田外語大学紀要第35号(2023)

通信467 「韓国語教材のカナルビについて」加藤 慧

【週刊ハンガンネット通信】第468号 (2023年12月4日発行)

「韓国語教材のカナルビについて」
加藤 慧
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先生方はハングルのカナルビ表記について、どのようにお考えでしょうか。
おそらくほとんどの方が反対派だと思います。

私もずっと反対派だったのですが、最近初めて教材の監修を担当させていただいた際(https://amzn.to/46FhN52)、出版社の意向でルビが必須でした。
いろいろと葛藤があったのですが、これを機にあれこれ考えたことについて書いてみたいと思います。

例えば、쉬 , 봐 などの発音について言えば、それぞれ「シュイ」、「ボァ」という表記でかなり正確に再現できると思っています。

逆に 화, 회 に関しては「ファ」、「フェ」という表記が一般的ですが、これだとどうしてもFa , Feに近い発音になってしまいます。
これは「ファ」、「フェ」ではなく「ホァ」、「ホェ」という表記にすれば回避できるかもしれません。

もちろん 어/오, 우/으 やパッチムなど、カタカナで区別できない発音に関しては限界がありますが、このように正確な発音に近い表記を、ある程度まで追求することはできるのかなと思います。

それをもとにした韓国の外来語表記法(実際の発音との乖離という問題点はさておき)のようなカタカナの表記法の基準などがあれば、発音の助けになるかもしれません。

最近では韓国カルチャーの普及により、多くの韓国語がカタカナで定着してきています。
料理名や地名、人名などはどうしてもカタカナ表記をするしかないわけなので、むやみに排除するのは違うのかなという気もします。

また、大学で授業をしていると、いつまでたってもハングルが読めるようにならない学生がクラスに一人はいる印象です。
以前カルチャースクールで授業をしていた際にも、入門クラスでどれだけ丁寧に練習してもハングルに抵抗が残り、挫折してしまった方がいました。
このようなケースを考えたときには、たとえ正確な発音ではなくても、カタカナを利用してでも発話を促すというのは、かならずしも悪くないのかもしれないと思いました。

もちろん一度ついてしまったクセを直すのは大変なので、正確な発音を目指すことが難しくなるリスクは無視できません。
ただ、学習を諦めてしまったり、意欲が低下してしまうよりは、たとえカタカナ発音であっても、「言えた」「話せた」という小さな達成感が持てることのほうが大切なのかなとも思います。

誰でもいきなり自転車に乗るのは難しいように、ルビも適切な使い方さえすれば、いつか外せるその日まで、補助輪のような役割をしてくれるかもしれないと考えるようになったのでした。

先生方のご意見をぜひ伺ってみたいです。

通信466 「トライ&エラー」 伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第466号 (2023年11月29日発行)

「トライ&エラー」
伊藤 耕一
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マレーシアに来て、早いもので来月で丸2年になります。
気候が良く、優しい人々が多く、マレー・中国・インドの各民族の生活習慣や食文化は新しい発見ばかり、食べるものは安く美味しく、もうしばらくこちらで生活したいと思うようになってしまいました。
今回は丸2年で私のマレー語がどのようになったのか、振り返ってみたいと思います。

2年前は、耳に入ってくるマレー語は全く分かりませんでした。
今は知っている単語は聞き取って意味を理解できますが、例えばラジオだとパーソナリティが話す単語のうちの10~20%くらいしか分からないので「話のテーマ」は分かっても「具体的に何を話しているのか」はよくわかりません。

先日、車で移動中にラジオニュースを同僚と一緒に聞いていました。
「イスラエル」「パレスチナ」「4日」といった単語は聞き取れたので、ガザのニュースであることは分かりました。
その時は一緒に乗っていた同僚が「4日間の停戦交渉中だって。」と教えてくれたので、そのニュースを理解することができました。
この「停戦」「交渉」といった単語が聞き取れるようになればなあ、と思ったところです。
この2年で私のヒアリング力の「ざるの目」は少し締まってきたように思いますが、もっと締めて、ざるに残る音と単語を増やしたいところです。

話す方は、英語の構文で文章を作り、それをマレー語に直して行くと、ほぼ通じる文章になることが分かり、頭の中で英作文しては、一語一語をマレー語に置き換えて行くような作業をしています。
ハングルを頭の中で書いては話していた頃を思い出します。

例えば「明日、私はお客様との会議に行く予定です。」と言いたい時は、このように作文します。
Tomorrow, I will go for a meeting with a customer.
Esok, saya akan pergi untuk meeting dengan pelanggan.
検証のため、是非、Google翻訳にコピペしてみてください。⇒Esok, saya akan pergi untuk meeting dengan pelanggan.
マレー語⇒英語の翻訳は、ほぼ同じ結果が出てくるかと思います。

しかし、これを英語⇒マレー語にひっくり返してみると、こんな感じになります。
Esok, saya akan pergi ke mesyuarat dengan pelanggan.
Tomorrow, I will go to a meeting with a client.
この場合の前置詞は「untuk」よりも「ke」の方が良く、「meeting」は「mesyuarat」という単語を使った方が良いことが分かります。

今は短い単純な文章しか書いたり話したりしかできなないので大きな間違いはないと思いますが、高度もしくは複雑な文章はGoogle翻訳の結果の検証も必要です。
また、どちらかというと、書き言葉が訳出される傾向があるので、話し言葉として自然なのかどうかも確認したいのですが、今の実力ではそこまで到達できていません。

おそらく、少し変なマレー語を話す日本人だと周りでは思われているのではないかと思いますが、こんな感じのトライ&エラーを繰り返しながら、ひとつひとつ単語と会話文を覚えている段階です。
また、言いたいことは準備することで何とか話せますが、相手の返事を瞬時に理解して、自分の次の話を組み立てられないので、対話になりません。
この歳になると記憶力の低下を否が応でも自覚させられますが、語彙力は何としても高めたいとも思います。

マレー語は英語と親和性があり、韓国語は日本語と親和性があるのですが、韓国語を勉強し始めて丸2年くらいの学習者は、私と同じような作文をするのではないでしょうか?
間違っているとまでは言えないけど、直したいところがたくさんある。
なので、私が発するマレー語を聞いた時に、私の周りにいるマレー人は「こういう風に言った方がもっと良い。」などと教えてくれるのでしょう。

私の今のマレー語は大目に見て「下の上」くらいかと思いますが、私の韓国語学習の経験から想像すると、あと2年くらいすれば、「中の上」くらいにはなるのではないかと思っています。
言語の習得には、やはり度胸と時間とトライ&エラーが必要ですね。