通信603 「大学初修韓国語におけるハングル導入法について③」加藤 慧

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【週刊ハンガンネット通信】第603号(2026年10月19日発行)
「大学初修韓国語におけるハングル導入法について③」 加藤 慧
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前回の通信ではハングル導入時における「国語のローマ字表記法」との親和性、音素・文字構造の可視化と発音変化指導時のメリットについてご紹介しました。今回はこの理解をさらに深める、スマートフォンのキーボードの活用について見ていきます。

【タイピングと文字認識の連動】
②で触れた英字表記による論理的な構造理解を、今度は実際の「入力(タイピング)」へと移行させます。
「2ボル式キーボード」は、その仕組み自体が、ハングル構造を体得する最高のドリルとなります。
例えば、左手で「ㄱ(g)」、右手で「ㅏ(a)」をタップすると、画面上でリアルタイムに結合し「가(ga)」という文字が完成するこの2ストロークの動作が、「子音+母音」という英字表記の説明と合致することを感覚的に確認させることができます。
単なる丸暗記ではなく、物理的な指の動きを伴うことで、学習者は自然と「子音」と「母音」の存在を意識します。視覚・感覚・触覚が連動し、記憶の定着率向上が期待できます。実際に韓国で識字障害のある子どもたちを対象に、タイピング練習を用いた学習を行うこともあるそうです。

「SNSで推しにコメントを送りたい」という学生のモチベーションも満たすことができます。

【大学生のITリテラシー育成への副次的効果】
授業内でのタイピング練習導入は、外国語教育の枠を超えたメリットももたらします。
近年、スマホのフリック入力普及により、大学入学時点で「パソコンのローマ字入力が苦手」という学生が少なくありません。しかし、レポート作成や社会人生活においてPCタイピングは必須スキルです。
ハングルを「ローマ字入力の仕組み(子音と母音の組み合わせ)」と重ねて指導することで、副次的に日本語のローマ字入力スキルの再確認・習得にも寄与することができます。

次回、最終回では、この指導法を実践する上での注意点と、今後の展望についてまとめます。
(④へ続きます)

通信602「AI翻訳の限界」伊藤耕一

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【週刊ハンガンネット通信】第602号(2026年10月17日発行)
「AI翻訳の限界」 伊藤耕一
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これは、ある日のメールのやり取りです。
Aさんは日本人、Bさんは元同僚のインド系マレーシア人、Cさんは日本人です。

Aさん:Is this shipment going to be by Air?
Bさん:No below shipment by Sea.
Cさん:海上輸送なしとのことです。

Aさんが「これは航空便出荷ですか?」と問いかけ、Bさんは「いいえ船便出荷です。」と答え、私は「船便なんだ」と思ったのですが、Cさんは「海上輸送なし」と逆の解釈をしていて、私は「えっ」と驚きました。

Bさんの英語は「いいえ、下記の出荷は海上輸送です。」としか書いてないのに「なぜ逆の理解を?」と思いました。
しかし、よくよく英語を読んでみると「No」が「below shipment by Sea」を否定しているようにも見えます。

念のためGoogle翻訳にかけてみると、驚愕の結果が出ました。
「海上輸送は不可」
Cさんに確認してみると、Google翻訳を見て「海上輸送なし」と理解したとのことでした。

そこで、私はBさんにSNSで確認してみました。
「Cさんが『船便出荷じゃない』と言ってるけど、船便で出荷したんでしょ?」と尋ねると「船便出荷と書いたのに」との回答。
「そうだよね。どうも誤解しているようなので、もう一度メールを入れてくれる。」とお願いしました。

その後「Bさん:The shipment was done by Sea freight.」とのメールが入り、一件落着となりました。

なぜ、こんな現象が起きたのか、その後考えてみました。
Bさんの母語はタミル語で、日本語や韓国語と同じ膠着語に属し、語順が日本語や韓国語に似ています。
あの英語を語順通りに訳すと「いいえ、下記の出荷は海上輸送です。」となり、私はそのように解釈していました。
つまり、Bさんは母語に従って英語を書き、私は母語に従って英語を理解していたのではないかというのが結論のようです。
お互いに無意識の中でそのようにコミュニケーションが行われたというところでしょうか。

マレーシア滞在時、実はBさんの話す英語は私にとって、最も理解しやすいものでした。
どうして理解しやすかったのかが、この一件を通じて分かったような気がしました。

マレーシアでは、マレー系・中国系・インド系の人々がそれぞれの母語を持ちつつ共通語である英語を使ってコミュニケーションをしていますが、このような誤解は日常茶飯事のような気がします。
私は少しでも疑問を感じたら、「○○という意味ですか?」と確認していました。
対面であれば確認も容易ですが、メールでは難しい場面が出て来るケースかなと思いました。

その一方で、様々な言語を背景に持つ人々が使う英語は、AI翻訳では正確に翻訳しきれないことがあり、便利な世の中になったとはいえ、誤訳が含まれていることを常に疑う必要もありそうです。

通信601 「延辺への国境ツアー」 アイケーブリッジ外語学院 幡野泉

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【週刊ハンガンネット通信】第601号(2026年10月5日発行)
「延辺への国境ツアー」 アイケーブリッジ外語学院 幡野泉
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9月のシルバーウィークは、いろいろなところで学習的なツアーが行われていたようですね。当校では初めて、旅行会社さんにご協力いただいてのツアーを実施しました。当ハンガンネット会員の皆さんにもお知らせをさせていただきましたが、中国吉林省朝鮮族自治州へのツアーです。

参加された方々から「ずっと行きたいと思っていたけど、個人では行きにくい。機会を作ってもらえて、本当に嬉しい」「いちど白頭山の天池を見てみたかった!」と言われ、当初はツアーが催行できるか不安でしたが、多くの方が関心を持つ地域なのだということを実感しました。

参加者は、韓国語の先生や翻訳家の方など専門家の方がやや多く、韓国語学習者も、長年韓国語を勉強している方や、韓国・朝鮮半島をより深く知りたいという方が多かったです。

帰りの飛行機で周囲にいた方々に、「いちばん印象に残った場所はどこですか?」と尋ねたところ、白頭山と中朝国境が2分、という感じでした。

白頭山は文句なしのパワースポットなのでおいておいて、なるほど、国境か、と。陸続きの国境は、島国である日本にはありません。

2年前に私が個人的に延辺を訪れたときは国境付近に行かず、でもガイドさんから、ロシアとの国境まで行けると聞いていたので、興味を持っていました。

そこで今回、中朝、中露、中朝露への国境行きを企画したのですが、もっとも緊張が高まっていると言われる中朝露は断念し、中朝と中露の国境を訪れました。

この2つの雰囲気はまったく違い、中露は緩く、中朝は緊張が走っていました。政治的(軍事)、地理的に緊張をはらむ地域ですし、その場に実際に立つと、いろいろな思いがよぎります。

参加者の方から、国家間の溝を埋めるのは、やはり人と人との交流だという言葉がありましたが、本当にその通りだと思います。

人と人との交流さえ難しい国があるわけですが、まずはその地域に関心を寄せ続け、私たちと同じように、日々の生活に一生懸命の普通の人が暮らしているのだということを忘れてはいけないと思いました。

北朝鮮製の「平壌ビール」をお土産に買ってきましたが、ビール党の家族も「おいしい!」と唸る味でした。

通信600「教え方の学校」オープンスクールで感じたこと 前田真彦

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【週刊ハンガンネット通信】第600号(2026年9月28日発行)
「教え方の学校」オープンスクールで感じたこと ミレ韓国語学院 前田真彦
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ミレ韓国語学院の前田真彦です。
先日「教え方の学校」オープンスクールを実施しました。
普段の授業をそのまま見ていただいて、ご意見を伺おうという趣旨です。
約40人の参加があり、いろんな意見をいただきました。ありがとうございます。
流れは以下のとおりです。

 1,小テスト
 2,音声批正の相互批評
 3,講読
 4,模擬授業
 5,質疑応答

当日の授業の司会進行も含め、すべて教え方の学校の受講生が輪番制でするものです。私はオブザーバー的な立場です。

1<小テスト> 実施する側も受ける側も勉強になります。作成し実施する側は、試験範囲を完全に掌握し、ポイントとなる質問をバランスよく配置し、てきぱきと進行する必要があります。人を指名して活動させる練習になります。韓国語の実力向上にも役に立ちます。

2<音声添削> 受講生の音声の批正を的確にできることが教え方の基礎になります。発音指導のための必須活動です。

3<講読> 韓国語に関する論文・専門書籍を読んで知識を深めます。今まで野間秀樹先生の『ハングルの誕生』、『韓国語概説』(前田訳・大修館)など普段の授業では学べないものを取り上げてきました。今回は、「会話とニュース・新聞では使われている語彙が違う」という内容の報告でした。会話の延長線上に上級の読解があるのではない、という明確な認識です。こういう認識を教える側がしっかりと持たないと、受講生を指導するときに、方向性を誤ってしまいます。

4<模擬授業> 実践力を鍛える中心課題です。今回は漢字語彙の増やし方の一工夫の模擬授業でした。楽しくよく工夫された授業でした。

司会進行も、授業を進めるうえで大切な力を養います。授業力は司会進行力でもあります。こういう力は一朝一夕で養えるものではありません。

実践力を鍛えるためには、いろんなパターン(文法・発音・作文・会話・TOPIK対策など)の授業を実際にやってみる必要があります。学校教育の中には、大学での「教育課程」があり、「教育実習」もあります。また学校現場に出ると、先輩教師にもまれ、強制的に研究授業をやらされ、生徒や保護者の評価の目に常にさらされ、伸びていきます。

一方、民間市民講座の場合は、講師同士が鍛え合う場や批評にさらされる場が極端に少ないです。このままでよいはずがありません。

日々の実践を意図的に積み重ね、教える側の人材を育成していくシステムを作っていく必要があります。

今後も「教え方の学校」では、門戸を広く開き、たくさんの実践を公開していこうと改めて決心しました。

通信599 「韓国語の授業でAIをどう使うか学ぶセミナー」裵正烈

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【週刊ハンガンネット通信】第599号(2026年9月26日発行)
「韓国語の授業でAIをどう使うか学ぶセミナー」株式会社HANA 裵正烈
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出版取次大手の日販(日本出版販売)が生成AIの開発会社に大量の書籍を販売していたと、先日報じられました。

通信537「何かを調べるとき、検索するよりもAIに聞くようになると」で、苦労して作った本やウェブサイトのコンテンツを、AIに無制限に学習されて使われたら出版社の商売はあがったりだと書きました。出版流通の中核にあり、出版社と書店をつないで読者に本を届ける役割を担う取次がそれをやっていたとしたら、出版社の人間として心中穏やかではないです。

買われた本は生成AIに学習させるために使われるのでしょうか。もっともこの「AIに学習させる行為」自体は、現在の日本の著作権法では直ちに著作権侵害に当たらないそうですし、もちろんここまで普及している以上AIを禁止することなどできないので、著作権者や出版権者の権利をどう守るのかなどを、法制度の見直しを含めて議論していくべきだと思います。

外国語はすでに、AIを使ってかなり体系的に学べるようになっているそうです。AIの強みは、何度間違えても気兼ねなく練習できること、レベルを細かく合わせられること、即座に添削してもらえることだそうで(以上ChatGPT談)、これからは「韓国語を本で学びました」「教室で先生から学びました」ではなく、「主にAIから学びました」という人が増えてくることでしょう。

私たちは、こういう時代にいやおうなく適応していくしかないでしょう。出版社もそうですが、韓国語の教育に携わる人たちも、AIを否定的に捉えるだけでなく教育現場での活用や「協業」について考えてみる必要があると感じます。

こうしたことから、秋のハンガンネットセミナーでは、韓国語の授業でAIをどう使うかついて学ぶ機会を設けることになりました。

次回のハンガンネットセミナーは、韓国文化院と共にリアルイベントとして開催します。場所は東京・四谷にある韓国文化院で、11月7日(土)の11時から17時まで開催する予定です。

セミナーは大きく午前と午後に内容を分けて進行します。まず午前のプログラムでは、韓国語の抑揚のルールについて講義を受け、音声添削の実習を行う予定です。

午後のプログラムでは、教師たちがAIを授業にどう取り入れたらよいかというテーマで講演を聞き、実際にパソコンやスマートフォンを使ってAIを操作し、授業準備や教材作成、授業用の動画作成などのワークショップを行う予定です。

ハンガンネットワークでは、コロナ禍を境にすべてのセミナーをオンラインで開催してきましたが、今回は(東京のみの開催ではありますが)リアルイベントということで、韓国語を教える多くの先生方が一堂に会して交流できる貴重な機会になると思います。

セミナーの詳しい内容については、近日中にこのメーリングリストでお知らせする予定です。ぜひ、多くの方にご参加いただきたいと思います。

通信598 「見間違えたハングル(文字の認識)」武井 一

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【週刊ハンガンネット通信】第598号(2026年9月14日発行)
「見間違えたハングル(文字の認識)」日比谷高校 武井 一
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長い夏休みも明けました。といっても、9月は文化祭や学校行事の多い時期なので、実質上開店休業状態になります。2期制の学校では9月の下旬に秋休みも入るのでなおさらです。そんなこんなで9月は1回授業があるかどうかという学校も出現します。この貴重な授業日に台風襲来となると、休校となる可能性もあります。

6校もやっていると、文化祭の時期も学校ごとに異なります。そのため授業の無い日や、行事準備のための短縮授業などが出現して、とても気を使う時期でもあります。

文化祭の後片付けの日に、自分の時間から授業があることに気がつかず、家で仕事をした日も。生徒も騒がず、学校全体が私が来なかったことに気がつかなかったという凄い状況が出現したこともあります。結果的にうやむやに(閑話休題)

では、10月には授業が出来るかというと、多くの学校で10月の中旬に中間考査が入るので、これもまた落ち着いて授業が出来ないという状態です。昨年は、9月から3月まで、そのようなことが重なり数えるほどしか授業が出来ない学校が登場しました。

勤務校のうち一校では、毎年、夏休みの課題としてハングルと見間違えたものを写真を撮って提出するという課題を出しています。(まじめに勉強していれば)ちょうどハングルのイメージが頭の中で出来上がり、いろいろなものがハングルに見え始める時期に重なるからです。一種の過剰反応なのですが、普遍的なようです。

というのも、私が韓国語をラジオ講座で勉強を始めた時の講師の渡辺キルヨン先生が、番組の中で「そろそろ色々なものがハングルに見え始めたのではないのですか?」と問いかけていたのです(そのタイミングでは、私はまだそうは見えませんでした)。また、神田外語大学で教員免許を採るための講座をとっていたときに浜之上美幸先生が「銀座線に乗っていると、渋谷で突然이이が見えてくるんですよね」といって笑わせていたことも思い出します。これらのことがヒントになって、夏休みの課題としています。

もうそれが出来ている生徒、むりやりこじつけている生徒、こじつけきれていない生徒、提出しない生徒など色々います。今年の例ですと、こじつけ組の場合、「oi」が「으」(なぜか立てに見て)、「01」が「이」(10を反対からみて)。「71」が「기」、「豆」が「미」、「묘」、「므」(ここまで分解出来ると一種の能力)、「im」が「트」などがありました。この場合、見間違えたより、探し出したものですが、探し出せる程度に力が付いているとも評価できます。かなり苦しいものには「喜」の草書体(七が3つ)が濃音の文字に見えるというのもありました。

出来ている生徒は「叶」が「아」に見えたというものがありました。そして、「ぱっと見たときの形が少し似ていたため、最初は『아』だと思ったが、よく見ると『叶』という漢字だった。普段はあまり意識しないような文字でも、見る角度や大きさによって別の文字に見えることがあるのが面白いと思った。特に『叶』と『아』は実際にはまったく違う文字なのに、一瞬見間違えてしまったのが印象に残った」と感想を書いていました。こうなると確実にハングルを記号ではなく、文字として認識し始めたことが分かります。そして、本人がそれを楽しんでいることも読み取れます。

実は、この課題が出来る生徒には一定の条件があります。文字の認識が普通に出来ると言うことです。つまり部品、あるいは記号でしかなかったハングルが、文字として認識できる能力があるということで、多くの人がこの条件に当てはまります。

しかし、一部の人はこれに当てはまりません。写真のように認識してしまい、そもそも部品に分解できない。横線の認識が弱く、「밥」のような場合、縦線しか認識できない。全部潰れてしまい、そもそも文字として認識できないという場合もあります。

部品に分解できない人の場合、「ㄱ」が「g」、「ㅏ」が「a」という説明がそもそも通じません。二つに分けることができると言っても、分からないのです。このような生徒の場合、ハングルデザインをやらせてみると、部品の関連性がなくなり、文字として成立しないデザインを作ってきます。

後者2つはディスレクシアの範疇に当たります(本人が気がついていない場合もあります)。私が経験した全部潰れてしまう人の場合、部活で合唱をやっていたのですが、楽譜は真っ黒くしか見えないので、録音で音を確かめると言っていました。全部真っ黒はごく少数ですが、分解できなかったり、横線など一定の線の認識が甘い生徒は比較的多く見かけます。

何れも厄介なのは、本人たちは。こちらが説明すると「分かった」と取り敢えず言ってくるのです。多分、分かっていないことに薄々気がついているのですが、とりあえずこの場は収めておこうというような雰囲気になります(だから、五分後には同じ質問をしてきます)。結果的に何とか一生懸命読もうとして上手く行かなかったり、その結果諦めてしまい、教室にいるだけという事になります。制度上辞めるわけにはいきません。そういう生徒に対して、どう指導するかはこれから研究しなければいけないと考えています。

なお、今年宿題を出した学校は、9月の期末考査(2期制)で、小公洞地下商街で撮った写真を題材にした問題を出しました。「ハングルは、現在日本ではあまりやらなくなったゲームの名前である。何か。」というもので、ほぼ全員が「ハナフダ」と読み取っていました。認知の問題は回避できているように感じます。授業では花札については一切話をしていません。ハングルを読むだけでなく、隠れテーマとして、花札に、日韓で違いがあることを伝えようとしました。こういうことにも関心を持つ生徒が出てくれば嬉しい限りです。

通信597 「違いの気づき」日下隆博

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【週刊ハンガンネット通信】第597号(2026年9月7日発行)
「違いの気づき」 ワカンドウ韓国語教室 日下隆博
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日本語と韓国語のおもしろい違いのひとつとしてよく挙げられるものに「順序が逆の言い回し」があります。

「여기저기 あちこち」「왔다 갔다 行ったり来たり」「약혼 婚約」「현모양처 良妻賢母」といった語ですね。

このようなおもしろい違いで、ふと「順序が逆」以外に、「抜き入れが逆」というものに思い至りました。

日本語では「ら抜き」と呼ばれる可能の表現で「ら」を抜く言い方が日常で定着しています。

テレビ放送で街を歩く人が「きょうは素晴らしいものが見れました」と発言すると、

字幕のほうは「見れました」ではなく「見られました」とされます。

広く使われているにもかかわらず現状は正しくない日本語とされているためですね。

逆に韓国語では ‘ㄹ’ の挿入が定着している言い回しがあります。

“내일 갈려고 해요.” は、テレビ放送の字幕は “내일 가려고 해요.”と付けられ、現状では正しくない韓国語であることを知らせています。

‘막걸리’ は昔は ‘막걸이’ だった例などからも、韓国語は ‘ㄹ’ が好きなんだなあとよく思います。

もちろん「ら」と ‘ㄹ’  はまったく同一のものではありませんが、

このように片や、正しくないとされているにもかかわらず大多数が「ら」を抜いて話す表現があり、

片や、正しくないとされているにもかかわらず大多数が ‘ㄹ’ を入れて話す表現がある日韓の違いにおもしろみを感じた次第です。

「日韓は抜き入れが逆」。

過去にどこかで取り上げられたことのある内容でしたら一笑に付してください。

通信596「多くの災害に見舞われた夏の終わりに」田附和久

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【週刊ハンガンネット通信】第596号(2026年9月1日発行)
「多くの災害に見舞われた夏の終わりに」田附和久
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今年2026年の夏は、熊本の地震、千葉、そして富山、石川、福井での豪雨被害など、各地でさまざまな自然災害が発生しました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

海外でも、ベネズエラやコロンビアで大地震が発生し、またネパールでは想像を絶する土石流が発生するなど、いずれの場所においても多数の人々が犠牲となりました。

気候変動が進んでいることもあり、私たちは、いつ、世界のどこにいても自然災害に遭遇する危険性があります。もちろん、韓国も例外ではありません。日本同様、韓国でも近年、局地的な集中豪雨が大幅に増加しています。地震に関しては、韓国は世界的に見ても発生が少ない地域と言われていますが、近年は小規模な地震の発生が増えています。2016年に慶州付近を震源とするマグニチュード5.8の地震が起きた際には、一部で建物への被害も伝えられました。

災害に遭遇したときには誰もが不安を感じますが、特に言葉が通じない場所では、その不安はいっそう大きくなるでしょう。言葉が通じない中で、何が起きたのかを瞬時に理解し、必要な行動をとることは容易ではありません。

今ではスマホのAIがかなり助けてくれるようになったとはいえ、非常時にはスマホが使えなくなる可能性もあります。そう考えると、事故や災害への遭遇に備え、最低限のサバイバル表現を覚えておくに越したことはないでしょう。

そうしたサバイバル表現を学べる韓国語の入門・初級教材は、ほとんどないのではないでしょうか。そうであれば、授業のどこかのタイミングで少し教科書を離れ、そのような表現を学ぶ時間を持つことも有意義であると考えます。

具体的には、どのような表現を学ぶのがよいでしょうか。まず、困難な状況に直面した際の「助けてください!」は、「도와 주세요」ではなく「사람 살려!」だということは、しっかり伝えておきたいものです。関連して、「불이야!」や、災害ではありませんが「도둑이야!」といった表現を学ぶのも、受講生の皆さんには喜んでもらえるかもしれません。

すでに早い段階で学んでいる 경찰(警察)、병원(病院)といった単語を復習しながら、112や119といった緊急通報用の電話番号を確認しておくのもよさそうです(軍事独裁政権の時代を経験した私の場合、このあと「では、113は何の番号でしょう?」というところから、話が「三千浦にそれないよう」に気を付けないといけません)。

災害とは少し違いますが、関連して、街角でよく見かける「(민방위) 대피소」が何を意味し、どのような目的で設置されているのかを説明するのもよいかもしれません(ここでも古い世代の私は、ここからまた 민방위 の思い出話に大きく脱線しないよう注意が必要です)。

皆さんであれば、ほかにどのようなサバイバル表現を取り上げられるでしょうか。入門から初級の学習者も身につけておくとよい、お薦めのサバイバル表現があれば、ぜひ共有していただけるとうれしいです。

さて、ここまでは学習者が旅先で災害などに遭遇する場面について考えてきましたが、逆に、日本で災害に遭う海外の人たちに出会う場面も考えられます。これだけインバウンド旅行客が増加している中、日本のどこで災害が起きたとしても、そこには海外出身の被災者がいると考えて間違いないでしょう。

そうした人たちと出会ったとき、どのような言葉をかければよいでしょうか。シチュエーションによって必要な表現は異なるでしょうが、もし韓国から来ている人がいて、「괜찮아요?」と一言声をかけることができたなら、それだけでもどれほど安心してもらえることでしょう。そのような状況に直面した際に大切なのは、表現の巧みさよりも、まず何より目の前の人に思いを寄せること、そして心遣いなのではないでしょうか。

103年前の9月1日、関東大震災が発生した際、日本語を正しく発音できなかった人が、それだけを理由に、何の罪もないのに命を奪われるという惨劇が起きたことを、あらためて心に刻みたいと思います。そして、万が一、私たちが同じような状況に遭遇し、日本語を正しく発音できない人に出会うことがあれば、そのときには心を込めて「괜찮아요?」でも、「Are you OK?」でも、何でもよいので声をかけ、その人に心を寄せられる者でありたいと心から願います。

通信595 「大学初修韓国語におけるハングル導入法について②」加藤慧

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【週刊ハンガンネット通信】第595号(2026年8月24日発行)
「大学初修韓国語におけるハングル導入法について②」 加藤 慧
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【「国語のローマ字表記法」との親和性】

前回の投稿で触れた文字導入の課題を解決するため、大韓民国が2000年に告示した「国語のローマ字表記法」を英字表記として採用します。
これは、現代の韓国における地名など(例:Seoul、Incheon)で実際に使われているだけでなく、K-POPアーティストの名前やSNSで学生が日常的に目にしている表記です。実社会や学生の興味(推し活)と地続きであるため、なじみのない発音記号よりも、モチベーションを引き出す効果が期待できます。

【音素・文字構造の可視化】
ハングルは、日本語の感覚だとひとかたまりの文字として捉えてしまいがちです。パーツが規則的に組み合わさった「音素文字」だということをしっかりと理解してもらうため、英語の「子音(C)+母音(V)+子音(C)」の構造と対比させ、アルファベットを用いて視覚的に提示します。

・初声(子音):ㅅ = S
・中声(母音):ㅏ = A
・終声(パッチム):ㄴ = N

→これらを組み合わせ、「ㅅ(S) + ㅏ(A) + ㄴ(N) = 산(SAN)」になる

このプロセスは多くの先生方が導入されていると思いますが、しつこいくらい視覚的に印象付けることで「未知の複雑な記号」という恐怖感が払拭され、パズルのように直感的に文字構造を把握できるようになります。

【一貫性による認知負荷の軽減と、発音変化の視覚化】
平音(ㄱ, ㄷ, ㅂ, ㅈ)の指導において、語頭・語中で符号を変える(k/gなど)従来の説明を避け、「ㄱ = g」「ㄷ = d」「ㅂ = b」「ㅈ= j」と固定します。文字そのものを覚える負荷を最小限に抑え、有声音化については、むしろ「語頭では清音に近く聞こえる」と後付けのルールとして説明します。

またこの英字表記は、ハングルをようやく覚えた矢先にぶつかる新たな壁、発音変化の理解にも効果を発揮します。

・連音化

 한국어:han – gug – eo → han – gu – geo

(gが後ろのeoと結合する様子が視覚的に明確)

・鼻音化

 입니다:ib – nida → im – nida

(口の形が同じbからmへの同化が感覚的に掴みやすい)

このように、英字表記は学習者の認知負荷を劇的に下げてくれます。次回は、この理解をさらに深める、スマートフォンのキーボードの活用についてご紹介します。

(③へ続きます)