通信447 「外国語が突然聞き取れるようになる瞬間」伊藤耕一

【週刊ハンガンネット通信】第447号 (2023年7月3日発行)

外国語が突然聞き取れるようになる瞬間 
伊藤耕一
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マレーシアに来て1年半が経ちました。
私がマレー語の勉強を始めたのは、マレーシアに行って欲しいと言われた翌週、2020年9月頃でしたので、そこから数えると、2年9ヶ月ほどになります。
テキストが欲しいと思い、長野県内の大きめの書店を訪れて探しましたが、インドネシア語のテキストは何冊もある一方、マレー語のテキストは1冊しかなく、選ぶこともなくそれを買い求めました。
これは後から知ることになるのですが、インドネシア語とマレー語は基本語彙は共通であるものの、インドネシアはオランダ語の語彙を受け入れ、マレーシアは英語の語彙を受け入れたため、植民地になった後に語彙や言い回しの違いが鮮明となり、意思疎通が難しい場面が出てきているとのことです。
またある方が「マレー語は抑揚の幅が小さく、インドネシア語はより抑揚の幅が大きい。」とおっしゃることを聞いたことがあります。
適切な例えかどうかは分かりませんが、青森弁で話す人と鹿児島弁で話す人が、共通語を使わずにお互いの方言で話すようなイメージなのかなと想像します。

話を元に戻しますが、2年9ヶ月と1年半のいずれの期間を考えるのかは横に置いて、1ヶ月ほど前に、待ちに待った「突然聞き取れる瞬間」が訪れました。
マレー語もやはり、この瞬間は突然に訪れました。例えば買い物に行ってのやり取りで、マレー語で話されても、何を言っているのかは理解できるようになり、その場で、聞き返したいと思うことが激減した感じです。

その瞬間を確信した一つの場面はコーヒーショップでのやり取りで、「砂糖は入れますか」「持ち帰りますか」「少し離れて待ってください」「現金でしか支払いできません」といった会話がスッと理解できた時でした。
それまでは「Yes, please.」「No, thank you.」「OK.」という返答を、分からない時は適当に言っていたので、時々砂糖入りのコーヒーが出されることもあったのですが、最近は完ぺきにブラックコーヒーを注文できるようになりました。

確信したもう一つの場面は、会社の研修をホテルの会議室でやることになり、その予約に出向いた時です。
実際のやり取りは同行した同僚がしてくれるのですが、そのやり取りもほぼ理解できました。
A:少し大きめのA室と小さめのB室があるのですが、どちらが良いですか?
B:実際に見て確認したいので、案内してください。
A:会議室は3階なので、エレベータの前で少しお待ちください。ご案内します。
A:A室は机を8つ並べられるので、16人ほど入れます。B室は机6つほどなので、12人ほどですが、いかがでしょうか。どちらもプロジェクターとマイクはご用意できます。
B:A室の方が良さそうですね。
A:休憩時には飲み物と軽食をご自由にお召し上がりください。外の共通スペースに用意します。昼食は4階の部屋にご用意します。
このような内容でしたが、全ては聞き取れないものの、要所要所の数字と単語は理解できたので、感想を求められても即答できました。

その日は家に帰ってから、どうして聞き取れたのか考えてみました。
1つ目は、その方のマレー語の発音が良く、ゆっくり話してくれたことです。
知っている単語はほぼ聞き取れ、知っている単語に挟まれた知らない単語は頭の中で識別できて、理解しようとせずに飛ばしていたように思います。
おそらく、知っている単語同士を結び付けて、知らない単語を類推していたのではないかと思います。
つまり、今までは聞き取りに全集中していて余裕がなかったのが、聞き取れる単語への集中が不要になって、知らない単語を類推する余裕が頭の中にできたのではないかと思います。
2つ目は、話そうとする文章を頭の中で作文できるようになったことだと思います。
単文ではあり、語彙力の範囲内ではありますが、どの品詞の語彙をこの文章に当てはめるかを、覚えた語彙群から引っ張り出す作業ができるようになってきました。
分からない単語がある時は英語で代用すれば、ほぼ通じることも分かってきました。
聞き取りはその逆の作業ですが、聞き取った単語がどの品詞で何の意味なのかを、知っている語彙群と照合するような作業が瞬時にできるようになったのではないかと思います。

前者は相手に依存せざるを得ませんが、後者は作文力を鍛えることで自分で高めることができるのではないかというのが私の仮説です。
「作文力が上がれば聞き取り力も上がるのではないか。」と考えるに至ったので、これからはマレー語の作文に集中的に取り組んでみようと思います。
以前の通信で「話す>聞く>読む>書く」が能力の順番と書きましたが、最も弱い「書く」を鍛えると「聞く」に良い影響が及ぶのではないかと考えました。
まるで人体実験のようになってきましたが、実践を通じてこの仮説を検証してみたいと思います。

通信446 「楽しく悩みながら初学者にアドバイス」 幡野泉

【週刊ハンガンネット通信】第446号 (2023年6月26日発行)

楽しく悩みながら初学者にアドバイス
アイケーブリッジ外語学院 幡野泉
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当校講師陣で制作した、生涯学習のユーキャン「はじめての韓国語講座」が売れ行き好調らしく、リリースから2か月ほどで再版が決定しました。

受講生がオンラインサポートシステムから質問を投げかけると、当校に飛んできて、いまは主に私が回答しています。(今後、多くなってきたら何かしら考えるかもしれません)

初学者の悩みはほとんどが、「わかる~!」と思えるもので、韓国語の学習を始めたときのことを思い出しながら、どう考えたらよいか、どう伝えたらスッキリ理解できるか、楽しく悩みながら回答しています。

例えば、(個人が特定できないように少し変えて書くと)
「私は順子という名前ですが、韓国語で書くとチュンコになります。チュンコと思われてしまいませんか?」

このいろんな問題をはらむ質問に、webツールという限られた空間で、どうシンプルに答え、どうしたら納得していただけるか……。「楽しく悩む」という私の気持ちを先生方ならきっと分かってくださるでしょう。

テキスト1でハングルを学び、ハングルが終わると3章に分けて9種類の発音ルールを紹介しています。この段階でここまで必要か、テキスト2で会話や文法を学ぶ前に、ここで挫折してしまわないか悩んだのですが、版元さんと議論を重ねたのち、載せることになりました。

そうしたら、やはり……、
「発音ルールが複雑すぎて理解できません」
「覚えられません」
等々の悲鳴が寄せられるようになりました。

章の冒頭には、「今の段階では、こういう発音ルールがあるということを知っておくだけで構いません。」と書いていて、このような連絡が来るたびに「すべて理解できなくてもいい」と伝えてはいます。ここで嫌になって学習をやめてしまったら、本末転倒です。

しかし、やや飛躍しますが、通訳クラスの説明会等を行うと、例えば、
1600, 26일を、[천뉵뻭], [이심뉴길]とすんなり読む方は、TOPIK6級を所持していても、ほとんどいない、と言っても過言ではありません。

このような状況を見るといろいろ悩みますが、多くの方に韓国語に親しんでいただくには、最初の段階では発音のルールは「いまはいいから」と、言って行ったほうがいいのかな、と……。

「いやいや、最初が肝心。最初からきちんと教えて行かないと」という先生方の声も聞こえるようです。

韓国語を教えるということを始めた20年前と同じことをまだ悩んでいるなぁ、と、楽しく悩みながら、皆さんにアドバイスをしています。

通信445 第1回ミレ翻訳コンテストで考えたこと「翻訳を学ぼう」前田真彦

【週刊ハンガンネット通信】第445号 (2023年6月26日発行)

第1回ミレ翻訳コンテストで考えたこと 「翻訳を学ぼう」
ミレ韓国語学院 前田真彦
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6月25日にミレ第1回翻訳コンテストの審査結果発表と講評会を実施しました。
「日韓部門」26人、「韓日部門」46人、計72人の応募がありました。

募集の段階から「学習翻訳」と銘打って、新機軸を打ち出しました。文芸翻訳でも、出版を目標とする翻訳でもなく、中級以上の学習者ならだれもがかかわれる翻訳のことです。原文に忠実に訳し、訳文としてぎこちない部分を整理して仕上げることを目標とします。読者を意識しすぎることなく、こなれすぎた訳語に仕上げる必要はありません。

審査にはミレスタッフ12人が関わり、スタッフにとっても翻訳について考えるよい機会にもなりました。

外国語を日本語に置き換えるという作業は中学校高校の英文和訳以来という人が大半だと思います。中高生の時は、訳文の検討ということも意識することもなく、ただ宿題として訳してきただけではないでしょうか。

韓国語学習者の大半は大人ですので、翻訳に取り組む素地を持っている人が多いと思います。翻訳ということについて学ぶ場がなかっただけで、文章を書いたり読んだりすることが好きな方が多いのではないでしょうか?

<翻訳とは「意訳だ」「再創作だ」>のような言説の影響を受けてか、自由奔放な訳文を提出する方もいました。ミレの「学習翻訳」が狙っているものは、そういうものではありません。原文を繰り返し味わい、内容を深く理解し、適切な訳語を選んでいくものです。大胆な意訳や読みやすすぎる訳文を推奨しません。

韓国に関心のある人は、誰しも翻訳のお世話になっています。翻訳(字幕翻訳含む)があるおかげで、韓国(語)の魅力に目覚め、学習を始めた人も多いのではないでしょうか?
それほど翻訳は大事なのに、翻訳を学べる場が少ないと思います。

第2回を今年年末に実施することを決めました。翻訳について学ぶ機会をこれからも作っていきたいと思います。

通信444「賢い患者生活」日下隆博

【週刊ハンガンネット通信】第444号 (2023年6月12日発行)

賢い患者生活
ワカンドウ韓国語教室 日下隆博
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今年の春に人生初の入院手術を経験しました。
初めての経験というのは何と新鮮なことでしょう。
宿泊環境から身の回りで起きる出来事のすべてがアトラクションのようにも感じ、生きていく中での経験値がまた増えたと感じました。

その中で、患者である自分を韓国語教室の受講生に、看護師を韓国語教室の講師になぞらえて考える部分が多々ありました。

・一般的ではない用語
とある交代の看護師が私に話しかけた第一声です。
看護師A「めんきゅうは自分でかえていますか?」
私「???めんきゅーというのは何ですか?」
看護師A「いいですいいです、私がやりますから」

こうした一般的でない用語の使用は複数の場面、単語で経験し、その度に聞き返さざるをえませんでした。

これを韓国語教室に置き換えてみました。
講師「そこは口蓋音化です。」
受講生「こーがいおんか?というのは何ですか?」
講師「いいですいいです、私をまねて発音してください」

・引継ぎ
とある交代の看護師が私に話しかけた第一声です。
看護師B「点滴は毎朝かえに来てますか?」
私「(点滴を??毎朝???ん??)??ちょっとずっと朦朧としていて覚えていないんですが…」
看護師B パソコンをさわって「あ、そうですね、はいはい」

先ほどの看護師Aと同様、一体そのパソコンの中の引継ぎ事項はどのようになっているのか、ということを複数回経験しました。

これを韓国語教室に置き換えてみました。
毎回担当講師が変わりその度に冒頭は前回何を習ったかを受講生に聞く講座ということになるでしょう。

・責任感、責任の所在
点滴を一時的に抜きに来た看護師B。点滴を抜いた後、
看護師B「あれ?止めるやつ忘れちゃった。後で持って来ますね」
どうやら最後に腕に巻いて、腕の針とつなげてあるチューブがぶらつかないように止める何かを忘れたようです。
私「はい」
ところがいつまで経ってもそのままなので、食事を持ってきてくれた人に、
私「すいません、この何か止めておくやつを忘れたということなんですが」
看護師C「あ、そうですか。お薬と一緒に持って来ますね」
そしてどうやら私がトイレに行っていた間に持ってきてくれたらしく、薬と「止めておくやつ」がベッドテーブルに置かれていました。
付け方がわからないのでナースコールを押しました。やって来たのはまた別の看護師でした。
私「これはどうやって付けるのでしょうか?」
看護師D「こうだと思います…たぶん…」
私「たぶん…?」
看護師D「そ、そうですよね、ちょっと担当を呼んできますね」
「今の方は看護師さんではなかったのか?」と自問しているとやって来たのは最初に忘れた看護師B
看護師B「あれ、付けてから行かなかったんですか?置いたまま?あの人ね~」
私は「最初に忘れた自分の責任はどこに行った~~」と心の中でぼやきます。

これを韓国語教室に置き換えてみました。
さながら振替授業や返金手続きなどをすっかり忘れてしまう教室でしょうか。受講生から問い合わせると「あれー担当に伝えておきますね」などと回答する教室でしょうか。

ほかにも、カーテンをきっちり閉めてくれない看護師さんにカーテンを閉めて行ってくれるようお願いすると、「私じゃありません」と言われたこともありました。

こうして今回の体験を韓国語教室に置き換えて考えてみると、この事業がなぜに成り立ち継続しているかを考えてみることとなります。
そこには必要としている人が後を断たない、ということがあるのでしょうが。。。

退院後はみるみる日々が快適なものとなり、医療技術の凄さに感動と感謝をしています。

多くの事を初めて経験し、多くのことを学んだ手術入院生活。
「そうかホスピタルにはホスピタリティがあるとは限らないのだ」などと考えながらこれからの自身のホスピタリティに生かせるであろう様々な思いとともに、またひとつ賢くなり患者生活を終えました。

通信443「はじめまして」田附和久

【週刊ハンガンネット通信】第443号 (2023年6月5日発行)

はじめまして
田附和久
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こちらの通信には初登場となる東京在住の田附(たづけ)と申します。
今週は退屈な内容になってしまい恐縮ですが、初登場ですので、自己紹介を書かせていただきます。

自己紹介の前におたずねするのですが、皆さんの韓国語・朝鮮語の学習歴は何年になりますか。いつ学習を始めたかを記憶していらっしゃる方は多いと思いますが、では、その学習を始めた日から今日までの全ての期間を学習歴として数えられる方はどのくらいいらっしゃるのでしょうか。

私は、韓国語風に言えば、「86学番」、1986年に大学に入学してから学習を始めましたので、それから37年の歳月が流れたことになりますが、学習歴37年とはとても言うことができません。たいへん恥ずかしながら、本気で学んだと言えるのは、学部生だった5年間だけかもしれません。いや、思い起こしてみれば、その5年の間にも、真剣に学んでいなかった時期が短くありません。

入学したのは外国語学部の朝鮮語専攻の学科でした。外国語学部は文系の学部の中では留年率が高いと言われていたため、入学当初は留年したくないという思いで、かなり一所懸命に勉強しました。当時、夢の中にまでㅂ変則が出てきて、うなされながら活用させていたことを覚えています。

しかし、学習開始から一年近く経ち、漢字語の多い文章であれば、辞書をひかなくても大意ぐらいはつかめるようになった頃、早くも怠け癖が出てきてしまいました。自分はもう朝鮮語を身につけたという錯覚。日本語と共通する点が多いだけに他の言語の学習者よりも朝鮮語初学者が陥りやすいこの錯覚に、若気の至りとはいえ、見事に嵌ってしまいました。

そんな天狗の鼻をへし折ってもらえたのは、大学2年の講読の授業のときでした。その日は小説家金裕貞の作品を読んでいて、学生たちが順にいくつかの段落ごとに音読をして日本語に訳していくのですが、最初に私の担当が回ってきました。しかし、ろくに予習もせずに出席した状態で1930年代に書かれた小説をきちんと訳せるわけがありません。先生は怒るでもなく、ただ、その場で何度も繰り返し辞書をひかせ、それなりの訳が出てくるまで解放してくれませんでした。
結局、その日の授業は自分一人の担当だけで90分の授業が全て終わってしまいました。そして最後に先生は、音読の誤り(濃音化できていなかった箇所等)を指摘してくださった上で、「『朝鮮語の難問』をよく読み直しておくように」と言い残して去って行かれました(教科書のほんとうの書名は『朝鮮語の入門』だったのですが)。

恥知らずで怖いもの知らずだった19歳とは言え、さすがにその日は恥ずかしさと悔しさに打ちのめされました。そしてようやく、このままではいけないということに気付かされました。それ以降は、講読の授業の予習も比較的真面目に取り組むようになり、少しずつ文学作品等も読めるようになっていきました。数ヶ月後に再び講読の時間で担当が回ってきたとき、汚名返上しようとしっかり予習をして臨み、授業を終えたときに先生から「毎回これくらいのペースで進むといいね」と言ってもらえたときはうれしかったなあ!
あの日の喜びは今でも忘れられません。

さて、少年老い易く学成り難し。歳月は人を待たず、あの日からもう36年が過ぎました。私は、大学院修了後に縁あって韓国系の団体に就職し、それから長い間にわたり仕事で韓国語を用い続け、また韓国語を教える仕事にも携わってきました。その間も、知らない単語に出会えばその都度辞書をひいてはきたものの、それだけではきちんとした学習期間としてカウントすることはできないでしょう。学生時代の5年足らずの学習のお釣りでここまでご飯を食べさせてもらってきたのが実際のところです。

私はこの春、26年間勤めた職場を退職してフリーランスになりました。55歳で再出発のときを迎え、これまでの人生を支えてくれた韓国語・朝鮮語を愛する気持ち、また指導してくださった先生方(鬼籍に入られた方のほうが多くなりました)への感謝の思いをあらためて強く感じています。そして新生活を始めた中で、もう一度真剣にこの言語と向き合い、しっかり学びなおそうという思いを新たにしています。年齢の割に短い学習歴をこれからの人生の中で少しでも伸ばすべく、怠け癖と戦っていきたいと思います。

皆さんには今後この通信を通して、何回か拙い文章にお付き合いいただくことになりますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

通信442「情熱の境界線」 奈良美香

【週刊ハンガンネット通信】第442号 (2023年5月29日発行)

情熱の境界線
下関市立大学他 奈良美香
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ハンガンネット 会員の皆様
はじめまして。今年度、ハンガンネット通信を担当させて頂きます奈良美香と申します。
私は、現在、下関市立大学、九州工業大学、福岡県立大学と個人教室にて韓国語を教えています。韓国語教育に関して、皆様と情報を共有できればと思っておりますので、一年間どうぞよろしくお願いいたします。

私の場合、まず個人教室の韓国語講師としてスタートしました。社会人対象でしたので、受講生の方々も目的意識が強く授業も円滑に進みました。
その後、大学での授業を担当することになりましたが、学生により学習意欲も様々です。しかし韓国語を専攻科目に選んだ学生なので週に3回以上は韓国語に触れることで、進級するにつれよりレベルアップした内容で授業を展開することができました。韓国語についてより多くのことを習得してほしいと思う余り、次第に課題の質と量も増えていきましたが、幸いなことに、特に問題はなく学期を終えることができました。しかし、過去の課題の内容を再確認すると、学生への負担が多かったのではと反省しています。

2022年度からは、工学系の大学でも韓国語のクラスを担当することになりましたが、これまでの専攻科目とは違い教養科目になると、学生も週に1回の授業の上に専攻外の科目のため、習得度もかなり緩やかになり、ハングル文字が読めるまで、四苦八苦する状況です。その中で、授業中にスマホでゲームをしたり、別の科目の課題をする学生を目にすると、正直腹が立ちます。そこで、諦めて放置するのではなく、何とかして授業に巻き込むことはできないかと、試行錯誤する中で、実行しているのが、指定席にして教室内を巡回しながら学生に積極的に声かけしたり、マイクを回して必ず一度以上は発話させることです。また、簡単な韓国語フレーズを通して数人以上の学生とコミュニケーション活動を行うようにしています。その際に、大変役に立つ教材がゆう きょんみ先生による「フォーカスオンフォームで身につく。トライ!コリアン!」です。TASK中心なので、授業にすぐ活用でき、学生も楽しみながら会話練習ができるので、反応がとてもいいです。私の場合、そのTASKを超初級者向けにアレンジした内容で使用しますが、頻度が多すぎると当初に比べ反応が薄くなることもありました。過度な情熱は、かえって気持ち的にお互いマイナスになるので、需要と供給側が相互に満足する着地点に到着するのは難しいようです。私の奮闘はまだまだ続きそうです。

通信441 「日本のオーディブックの状況」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第441号 (2023年5月19日発行)

日本のオーディブックの状況
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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先日久しぶりに新宿で会食し、2次会でゴールデン街に足を伸ばしました。ご存じの方も多いと思いますが、新宿のゴールデン街は、新宿区役所の向かい側に幾つもの細い路地に小さなスナックやバーがひしめき合っている地域で、約300件もの店があるといわれています。

行ってみると、路地が外国からの旅行者でごった返していました。多くの、いやほとんどの店が彼ら・彼女らに埋め尽くされ、街全体が外国勢に占拠されている感じです。これでは古いお客さんは行きつけのお店にいって落ち着いて飲めないでしょう。でも一方で、ここはただの酒飲みから著名文化人まで多種多様な背景の人たちが気安く接し、言葉を交わしてきたそんな場所ですから、今後面白い空間になるのではないかとも思いました(私が行った店では、お店の女性がスマホアプリの通訳機能を使って会話していました)。

実はこの日、オーディオブックに力を入れている韓国の出版社の方を接待しました。そこでは韓国の著名俳優を起用した『100인의 배우, 우리 문학을 읽다』『100인의 배우, 세계문학을 읽다』という商品を出しています。朗読している俳優たちはチェ・ミンシクをはじめそうそうたる俳優たち。韓国語の学習にも活用できそうです(USBメモリー付きの書籍が販売されています。ただし原作のテキストは含まれていません)。

私がオーディオブックというものを意識したのは、20年ほど前、韓国語の学習雑誌を始めてからのことだったと思います。特にアメリカは車社会なので、小説などを音声で聞く習慣の人も多く、かなり普及していると聞きました。

それをきっかけに、学習者が文学作品を韓国語の音声で楽しむ、そんな企画をできないかと考えるようになったのですが、学習者が韓国語の音声だけで文学作品を楽しむのはかなり難しいですし、またその原文と訳も確認したいでしょう。結局、原作ではなくリライト、オーディブックではなく対訳本に音声が付いた形に行き着きました。

『多読多聴の韓国語 やさしい韓国語で読む世界の名作文学』というCD付きの本がそれです。2011年に出したときはまったく売れず、19年に改訂してからは何度か増刷するくらいにぼちぼち売れています。この本の後に、リライトではなく書き下ろしですが『やさしい韓国語で読む韓国の昔ばなし』『やさしい韓国語で読む韓国人物伝 歴史編』という本も出しました。次は『やさしい韓国語で読む韓国名作文学』も出そうと、書きたまった原稿はあるのですが、まだ実現に至ってはいません。

今回韓国からお客さんを迎えることになって、日本のオーディオブック市場について少し調べてみました。日本では「オトバンク」とamazon傘下の「Audible」が主なオーディオブック提供サービスとのこと。Audibleは日本語の作品の他、英語の作品が幅広く選べ、オトバンクは日本の俳優・声優による朗読作品が主で、アニメキャラがアニメと連動して名作を読んでくれる「朗読少女」というアプリも出しています。

一方韓国語のオーディオブックは韓国に윌라というストアがあることは知っているのですが、日本からだと決済ができないようです(윌라については弊社の『hana Vol. 47』でも紹介しています)。

出版業界紙『新文化』(2023年4月27日号)の記事によると、2018年に30億円だった日本のオーディオブック市場は20年に70億円を超え、24年度には240億円に達する予想だそうです。ものすごいスピードで広がっていることになります。

通勤しながら、家事をしながら、ジムでエクササイズをしながら聞いているという人が増えているのではないでしょうか? やはりスマホが普及したことが決定的な要因でしょうね。

私も最近体力作りに励もうと「●●●ザップ」に入会したので、運動と語学学習を一緒にできるようオーディオブックの作品を物色してみました。問題は仕事が忙しくて余裕がなく、たまに行って体を動かすと、その疲れで風邪を引いたり、体に不具合が生じたりして、ジム通いが続かないことです。それでいまだに体力作りの入口にも、オーディオブックによる語学学習の入口にもたどりつけていません。

通信440「敬語・丁寧な言い方」寄田晴代

【週刊ハンガンネット通信】第440号 (2023年5月12日発行)

敬語・丁寧な言い方
寄田晴代
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社員研修の講師を仕事としている人と先日話していたとき、季節柄、新入社員研修の話になりました。
新入社員研修といえば敬語の習得が欠かせませんが、「アルバイト敬語」「マニュアル敬語」と呼ばれる話し方を企業が求める話し方に直していくのに練習が必要だという話になりました。
以前から話題になっていますが、たとえば
「私的には」→「私といたしましては」
「10万円からお預かりします」→「10万円お預かりします」
「以上でよろしかったでしょうか」→「以上でよろしいでしょうか」などがあります。

一方、就職支援の仕事をしている人からは「言葉だけ丁寧でもね~」という話が出ました。
「今よろしいでしょうか?」と文章で書くと丁寧な言葉でも、語尾をきつい言い方に上げてみたり変な語調で言うと全然丁寧な感じがしない、と言うのです。
コミュニケーションをとるためには言葉以外の「言い方」や「態度」が大切ですよね。

また、就職デビュー前の人は、電話応対になると敬語を使うのが難しくなる傾向がある、という話も面白いと思いました。
対面で話しているときは無難に敬語を使えているのに、電話になると変になるそうです。

今や誰もがスマホを利用する時代になり、自分にだけかかってくる電話にしか出たことがない人もいるでしょう。それも知らない人からかかって来る電話などほとんどない。
未知の人と失礼のないようにどう話すか。これは緊張しそうな場面です。
しかも声しか聞こえないので、表情や身振りで敬意を表すこともできず言葉だけの勝負になりますから、緊張してスマートに話せないのかもしれません。

これを早く解決するには「決まり文句」を覚えておくことではないかと思いました。
電話応対の決まった言い方を覚えていて、ボタンを押せばスルスルと出てくるようになっていれば緊張も緩和されるでしょう。

電話だけでなく人前でのあいさつなど、敬語を使って丁寧に話したい大事な場面では、型を覚えていれば過度に緊張せずうまく話せるのではないでしょうか。

韓国語の会話練習でも、自由にあれこれ話したいと思っている人は多いでしょうが、ボタンを押せばスルスルと出てくる型をたくさん覚えていると話せる幅が広がります。
では、型を身につけるにはどうするか?
私は音読や一人妄想会話などしていましたが、みなさんはいかがですか。

通信439 「スマートフォンやPCでのハングル入力について」加藤慧

【週刊ハンガンネット通信】第439号 (2023年5月1日発行)

スマートフォンやPCでのハングル入力について
加藤慧
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大学の韓国語の授業も、新年度がはじまって三週間ほどがたちました。

以前、昨年度から対面とオンライン授業のいいところを組み合わせ、課題提出や小テストにGoogle formを利用していることを書きましたが、その後同様の形式で期末試験も実施しました。
ほぼ選択問題で、問題の一部を記述式とし、キーボードのハングル入力で回答してもらいました。(回答は複数設定できます)

普段から課題提出の際に練習しているだけあって、学生たちは入力にもだいぶ慣れており、問題なく実施することができました。
ちなみにPCの場合はスクリーンキーボード機能を使ってもらっています。

不正行為の防止策として、他のタブや他のアプリをすべて終了させることを普段の小テスト時から徹底しました。
ただ、これは大人数の授業だと、机間巡視に限界があるので難しいかもしれません。
また、入力での課題提出は翻訳アプリを利用しやすくなる(当然禁止していますが)というデメリットもあると思います。
他の言語のある先生は、予測変換機能に頼って綴りを覚えなくなるので、入力での提出は禁止しているそうです。
このような弊害もありますが、今年度も引き続きこの方法で行っていく予定です。

ハングル入力といえば、以前教えていたカルチャースクールの生徒さんで、キーボードの入力が苦手で入力ができないという方がいました。
その方にはNAVERの辞書アプリやGoogleキーボードなどの手書き入力機能をご紹介したりしていました。

こうしたことを通して、こちらから情報を与えるだけでなく、学習者のみなさんが自ら韓国のコンテンツにアクセスできるようなサポートもしていければと思っています。