【週刊ハンガンネット通信】第478号 (2024年3月2日発行)
「外国語学習は何歳からでも」
寄田晴代
=================================================
この通信で外国語学習体験の記事が続いていますが、新しい言語ができるようになったら楽しいだろうなと思いつつ、もう今から勉強を始めてもモノにならないんじゃないか、と年齢を理由にチャレンジをあきらめている人も少なくないと思います。
そこで、ちょうど先日ラジオで、脳言語学者である酒井邦嘉さんの興味深い話を聞いたのでご紹介します。
酒井さんは、言語習得に年齢は関係ないと言います。
大学生以上を対象に行った実験を紹介していたのですが、カザフ語(カザフスタンで使用されている言語)を、文法は一切教えずに音声だけをひたすら繰り返して聞かせたところ、約半数の人がカザフ語がわかるようになったというのです。
私たちの脳には言語野という部分があって(大半の人は左にある)ここの文法中枢でことばを理解しているそうです。母語も第二言語も同じところを使うんだそうです。
この実験は、できた人とできなかった人の脳の動きの違いを調べ、第三言語、第四言語も同じ文法中枢を使うのかをつきとめるものでした。
カザフ語ができるようになった人は、脳の文法中枢に活動の上昇が見られました。
このことから、私たちが新しい言語を習得するとき、ゼロから始めているのではなく、母語や学習したことのある英語などで培った脳の場所を使っていると言えます。
言語哲学者のノーム・チョムスキーは「すべての文法は人間の脳にとっては同じなのだ」と60年以上前に言っているように、私たちには言語の枠組みのようなものが備わっている。だから、おとなでも同じ脳の場所を使って十分に音声が入ればカザフ語の正しい文を認識できるようになるのだ、と酒井さんは言います。
「ことばは教えるものではなく引き出すもの」ということばが印象的でした。
さて、言語をうまく引き出す方法ですが、まず音を真似する。聞こえた音に近いように言ってみることを勧めています。
この場合、ローマ字やカタカナ語にとらわれないことが大事です。(外来語に引きずられてcapのpを「プ」と言ってしまうなど)
「単語をたくさん覚えたら話せるようになるか?」というアナウンサーの質問には「単語だけ知っていても複合語や文になると発音が変わるので文で練習した方がいい」とアドバイスしながら、「東京都」と「東京と京都」でアクセントが変わる例が示されました。
シャドーイング練習法については、上級者には有効だが、そうでない人(まだ音が十分に入っていない人、文の意味がわからない、脳の中で考えなければいけないとき)の場合は習得を封印してしまう恐れがあるので無理しないほうがいい、と述べていました。
言語習得のために練習しよう!と思って取り組むよりも、映画や好きな歌を繰り返し真似しているうちに言えるようになった、というように体験を通して身につく方法が良いというお話でした。
ある年齢を超えると言語の習得は難しいという臨界期説は関係ない、という酒井さんの話には大変勇気づけられ、受講生の方にお話ししなくっちゃ、と思いました。一方、限られた時間内にやるべき学習項目が決まっている授業もあるので、いかに音をたくさん聞いてもらうか、考えたいところです。
最後に、言語を学ぶということは繰り返し聞いたり言ってみたり、元来非効率的なものである。それを「効率的な教育」と謳う時点で大事な部分から遠ざかっていると思う、と学校の英語教育におけるAI活用に対して警戒感を述べていました。
元来、非効率的なもの、時間がかかって当たり前と思えば、教えるときも、自分が新しい言語を学ぶときも焦らずにすむかもしれません。(実は中国語やインドネシア語を細々と勉強しているのですが、一向に前進できず焦っていました。)
