通信552「検定試験体験記」加藤慧

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【週刊ハンガンネット通信】第552号 (2025年10月6日発行)
「検定試験体験記」加藤慧 
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先日、学習中の台湾華語の検定試験である華語文能力測験(TOCFL)を受験し、目標だったA2レベル(基礎級)に合格することができました。

今回試験を受けようと決めたのは、コロナ前からだらだらと続けている台湾華語の学習にけじめをつけ、そろそろ初級を脱出したいと思ったことがきっかけです。レッスンを受けただけで満足するのではなく、本腰を入れた勉強がしてみたかったのです。

TOCFLはA1/A2/B1/B2/C1/C2と六つの級に分かれているので、恥ずかしながらちゃんと調べもせず、TOPIKのイメージでA2=初級後半(TOPIKとかHSKの2級くらい)のつもりでいたところ、なんとB2レベルで、HSKの最上級である6級相当とのこと。つまりA2はほぼHSK3~4級相当ということになります。(試験の趣が異なるため一概には比べられないので、おおよその目安としてですが)
当初の想定よりも目標が高いことにあとから気が付きましたが、学習歴的にはそんなに無理のあるレベルでもないはず……と気合を入れて取り組みました。

行ったことは主に、初級レベルの単語帳に取り組む、レッスンで先生と一緒に公式模擬試験を解く、Youtubeの解説動画を流す、などです。
日本人学習者の場合、漢字というアドバンテージのせいで、リーディングとリスニングでだいたい一級分ほどの差ができてしまうこともあるそうなので、徹底的にリスニング重視で対策を行いました。

このような集中的な学習は、講師としてもかなり勉強になりました。特に私の場合、上級者としての学習期間が長くなるほど、初級の頃の地道な学習の方法や大切さを忘れがちでした。それを思い出し、また学習のために検定試験がいかに効果的なものであるかが、身をもって体験できたと思います。当たり前の話がほとんどかもしれませんが、特に重要だと実感した四点について書きたいと思います。

まずは単語帳です。私の場合、上級単語を覚える際には単語帳の利用がとにかく苦手で、教材のなかで自然に出会った単語でないと覚えられないタイプだったのですが、初級の頃はそうやって出会える単語の数がそもそも圧倒的に少ないので、とにかく単語帳を繰り返してどんどん触れていかないとはじまらないのだとわかりました。自然な出会いは大切にしつつ、機械的に出会う母数を増やしていくことが大切だと思います。(最近の言葉で言うなら、자만추 と 인만추 の両方が必要、ということになるでしょうか)

次に、紙に書くことです。韓国語でパダスギの効果は実感していたので、音を聞いて、あるいは漢字を見て注音記号で書き出す練習を多く行いました。音ベースの学習はもちろん重要ですが、そこに加えて紙に書くことで頭に残りやすいのもまた事実だと思います。机に向かっての勉強自体を久しぶりに行いましたが、タイピングやタブレットへの書き込みよりも、実際にノートに書いたほうが定着する感覚がありました。

そして三つ目は、SNSでの勉強記録です。いままでは勉強垢などを見ていても、こんなにノートをきれいに書けないしなぁ、とか、こんなに机が片付いていないし、とか、そもそも更新のためにSNSをしている時間がもったいないのでは?なんて思ってしまっていたのですが(ごめんなさい)、まさかこんなに大きなモチベーションになるとは!いいねやコメントが励みになるのはもちろん、自分の勉強の様子が可視化されてたまっていくことでやりがいを感じますし、疲れている日でも、更新もしたいし少しでいいから机に向かおう!という気持ちになれました。これは本当に驚きでした。

最後に、これも言うまでもないことかもしれませんが、大人の外国語学習はスキマ時間がカギだということです。仕事の空き時間はもちろん、家事の合間や移動中、入浴中や寝る前のストレッチ中などに、とにかくずっと何かしらの音声を聞いているようにしていました。それ以外にも、普段SNSをだらだらと見ている時間を削れば、時間は意外と捻出できるものだなと思いました。

学習を始めた当初から、第三の外国語の学習者になることが語学講師としていかに有用かは感じていましたが、今回は検定試験という新たな経験をしたことで、またひとつ大きな学びを得た気がします。近いうちに、旅行を兼ねたプチ留学にも挑戦する予定です。中級レベルでは、また新たな壁が待ち受けていることでしょう。そこでも自分なりの学習方法を模索し、それを指導にも活かしていきたいです。

通信551「韓国語は孤立言語!」伊藤耕一

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【週刊ハンガンネット通信】第551号 (2025年10月4日発行)
「韓国語は孤立言語!」 伊藤耕一 
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私の学生時代、日本語と韓国語は「ウラル=アルタイ語族」に属し、同じ系統の言語であると習いました。
その後「ウラル=アルタイ語族説」が否定されたことを知り衝撃を受けましたが、改めてその経緯を調べてみて再び衝撃を受けました。
それは「韓国語は『孤立言語』である説」が今の主流であるというChat GPTの回答です。
「韓国語はどの語族に属しますか?」と聞いてみたら、このような回答がありました。

これが、私が習ったことで、だから日本語と韓国語は似ているのだと納得していました。

衝撃を受けたのは「共通点が『類型的な偶然』である可能性」という点です。
マレーシアとシンガポールにはタミル語を話すインド人が多く、シンガポールではタミル語が公用語の一つになっています。
彼らの話す英語がとても分かりやすいのは、日本語とタミル語の語順が似ているためと知って納得していました。
似ていたのは、ただ単に偶然だったのか!
今年一番の衝撃でした。

更なる衝撃はこれです。
韓国語だけが「孤立言語」となっている点です。
「日本語族」とは何かと調べてみると、「日本語と琉球諸語(沖縄語、宮古語、八重山語、与那国語など)」とのこと。
何となく納得できます。

それでは韓国語はどのように生まれて発展してきたのか?
とても興味をそそられました。

通信550「第1回 韓日字幕翻訳大会」を開催します アイケーブリッジ外語学院 幡野泉

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【週刊ハンガンネット通信】第550号 (2025年9月22日発行)
「第1回 韓日字幕翻訳大会」を開催します アイケーブリッジ外語学院 幡野泉 
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この度、当校では「第1回 韓日字幕翻訳大会」を開催することになりました。
2021年より受講生イベント内にて、字幕翻訳・吹き替え翻訳の大会を開催して
まいりましたが、翻訳家を目指す方々にとって実力試しや交流の場となっている
ことを確信し、今回、講師陣の協力のもと、受講生のみならず一般の方も対象に
広く募集することとしました。

※翻訳大会、詳細:https://ikbridge.co.jp/korean-info/taikai/

韓国ドラマの一場面を日本語に翻訳しますが、エントリーされる方は映像翻訳の
ソフトを使い、ご提出いただきます。

ご存じの方も多いと思いますが、映像翻訳は高額な専用のソフトが必要なので、
ソフトを購入するときには、トライアルテストに合格できるだろうという
ある程度の自信や、合格しよう、するんだ、という強い意思や決意が必要で、
せっかく勉強しても二の足を踏んでしまう方も少なくありません。

そうこう悩んでいるうちに、せっかく学習をしたのに離れてしまう、という
方も中にはいらっしゃいます。しかし、このような翻訳大会をすることで、
また接する良い機会になったり、また頑張ろうと思えるきっかけを作って
いただくことができます。ソフトがない方には、この期間お使いいただける
ライセンスを付与します。

翻訳大会は、講師であり映像翻訳家の先生方もいらっしゃり、プロならではの
含蓄に富んだコメントをくださいます。11月には「授賞式・懇親会」を開催し、
その中で入賞者の発表、全体講評をおこなうとともに翻訳者の皆さんの交流の場と
なればと考えています。

当校にとっても新たな1ページとなりそうで、とても楽しみです。

通信549「学ぶ―教える」の好循環を作ろう 前田真彦

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【週刊ハンガンネット通信】第547号 (2025年9月15日発行)
「学ぶ―教える」の好循環を作ろう ミレ韓国語学院 前田真彦
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9月26金27土28日に教育実習を実施します。

ミレ韓国語学院の「教え方の学校応用クラス」のうち4人が教育実習をします。

無料で各クラス6人定員です。

固有数詞 漢数詞 尊敬語 ㄹ語幹用言

以前の動画ですが、貼っておきます。

ミレで韓国語の基礎を学び、TOPIK6級以上になれば教え方を学び、そして教育実習を数回実施し、「発音変化検定」「教え方検定」で好成績を収めて、一人立ちしていきます。

市民講座の講師も、こうやって鍛えないと、一人前の講師が育つはずがありません。

教え方の学校は、次の3本柱で構成されています。

1,基本文献講読 今まで『韓国語をいかに学ぶか』(野間秀樹先生)『韓国語概説』『世宗、ハングルで世の中を変える』などを読みました。

2,音声添削 毎時間受講生の音声を相互批評します。

3,10分間模擬授業 毎時間テーマを決めて輪番制で担当します。

この3本柱で「基礎」「応用」の2クラスで金曜の夜に実施しています。

そして学期の終わりに外部から一般の受講生を募集し、教育実習を実施します。

6級レベルの韓国語の実力を身に付けたら、次は、それを活かす方法を考えなければなりません。通訳や翻訳は、学ぶところはありますが、韓国語の教え方を学び、教育実習までやっているところは少ないと思います。

教育実習、参加してみませんか?

決して完成された授業ではありませんが、優れた教育には何が必要で、何を鍛えないといけないのかが、実際によくわかると思います。

教育実習のリンク 
https://new.mire-k.jp/goto/

通信548「デリケート」日下隆博

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【週刊ハンガンネット通信】第548号 (2025年9月8日発行)
「デリケート」 ワカンドウ韓国語教室 日下隆博
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オンラインでの月1回特別講座シリーズを2年以上継続した中で、毎月必ず受講してくれている人がふと受講をやめていることに気づくことがありました。

講座のテーマによることもあるかと思っていましたが、風の便りでその方が受講をやめた理由を教えてくれた人がいました。

それは韓国の「美容」をテーマに行った回で私が参加者に「出かける前の化粧時間」を聞いたことに不快な思いをして受講継続をやめたということでした。

これはデリケートな質問だったのかと気づかされました。

入門の授業で簡単な会話を展開する時には ‘아이’ という単語はとてもシンプルな文字構成で使いやすいのですが “아이 있어요?” を主婦層の入門者同士で聞きあう練習はなんとなく避けています。デリケートな質問になるかもしれないと考えているからですが他の先生はいかがでしょうか。

高校生の入門授業で ‘있어요’, ‘없어요’ を覚えてもらったのち ‘우유’ や ‘오이’ などのシンプルな文字構成の単語をランダムに引いてもらい当たった単語を隣の学生に「(例えば家に) “우유 있어요?”」 と聞いてみることをした時、たまたま’아이’を引いた女子生徒が隣の男子生徒に “아이 있어요? ”  と聞く形になりました。

すると聞かれた男子生徒はみるみると真っ赤な顔になり「い、い、いませんよ!」と恥ずかしそうに日本語で否定をしました。

‘아이 있어요?’ は高校生にとってもデリケートな質問になりうると認識したできごとでした。

通信547「9月1日の朝に」田附和久

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【週刊ハンガンネット通信】第547号 (2025年9月1日発行)
「9月1日の朝に」田附和久
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  朝鮮語を学び始めた当初、語順や漢字語の語彙など、日本語と朝鮮語の間にあまりに多くの共通点があることに日々驚かされましたが、一方で、発音には相違点が多いことを不思議に思いました。とりわけ印象的だったのは、日本語では「蚊(か)」と「蛾(が)」が別の語であるのに、朝鮮語母語話者にはその音の違いが聞き取れず、逆に朝鮮語では「비(雨)」と「피(血)」が別の語であるのに、日本語母語話者にはその音の違いが聞き取れず、同じ「ピ」の音に聞こえてしまう点でした。

 日本語母語話者は区別できるのに朝鮮語母語話者には区別できない対立があり、またその逆もあるという事実を通して、私は、それぞれの言語には固有の音の体系があり、そこには優劣はないこと、さらに言えば、それぞれの言語を用いる集団同士にも上下はないということを学びました。

 その経験があるがゆえに、私自身が教師として朝鮮語を教える際、子音を学ぶ単元では、両言語の母語話者が聞き分けられる音の違いを丁寧に説明しながら、その違いは優劣ではなく、両言語の話者の間にも優劣や上下関係は存在しないのだということを強調し、学習者と共有するようにしています。

 そして、朝鮮語母語話者は無声音と有声音(日本語の清音と濁音)の区別が難しいということを説明する際に、もう一つ必ず触れるのが、関東大震災後の混乱の中で朝鮮人が暴動を起こしたというデマを信じた民衆が、朝鮮人であるかどうかを調べるために「十五円五十銭」と言わせたという歴史上の出来事についてです。「十五円五十銭」というのは、日本語の清音と濁音の区別、とりわけ語頭を濁音で発音することが難しいという朝鮮語母語話者の特性に基づく「識別法」にほかなりませんでした。

 関東大震災が発生した1923年当時、日本人と朝鮮人は対等な関係にはありませんでした。支配する者と支配される者という不平等な関係の下で、罪のない多くの朝鮮人が日本人によって命を奪われましたが、その際、命を奪うかどうかを識別する材料として言語の個性の違いが用いられたのです。

 朝鮮人虐殺の惨劇から102年を経た今年の夏、ある政党の街頭演説会場で、聴衆の一人が近くの人に、「『十五円五十銭』って言ってみな」と発言した様子を映した動画が拡散しました。「十五円五十銭」という悪魔の言葉が再び息を吹き返したことに戦慄を禁じえません。

 母語ではない言語(外国語)を学ぶ目的は人それぞれです。しかし、できることならば、それは人の命を奪ったり、傷つけたりするためではなく、人の命を輝かせ、人の心に平和の砦を築くためであってほしいというのが、言語教育に携わる者としての私の切なる願いです。

 関東大震災から102年を迎える9月1日の朝、私はその思いを深く心に刻みなおします。

通信546 「文字を介さずに外国語を学ぶ」裵正烈

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【週刊ハンガンネット通信】第546号 (2025年8月25日発行)
「文字を介さずに外国語を学ぶ」裵正烈
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本通信540号で幡野先生が「韓国語をハングルを介さずに教える方法」に関して投稿されましたが、これと関連して私も自分の個人的な思い出を書きたいと思います。

「韓国語をハングルを介さずに学ぶ」のには、

1 ハングル以外の文字を使って学ぶ

2(文字を使わずに)音声言語として学ぶ

の二つがあると思います。私は上記の2に関心があります。初歩の段階でなるべく文字に頼らずに、つまり韓国語の場合すぐにハングルを導入せずに音声から学ぶ教材が作れないかとずっと考えてきました。

話は変わりますが、90年代の中頃、私は高校の教師を辞めて近所の同胞の土木会社でアルバイトをしていました。そこでの私の主な役目は、4トンダンプを運転して人や機材、残土やアスファルトなどを運ぶことでした。運転以外にもスコップを持って穴ぼこに入ったり、ショベルカー(ユンボ)を操作したり、従業員の人たちと一緒に泥まみれになって働きました。

業界の末端の会社だったので、何人かの日本人の親方を除いて従業員のほとんどは外国人です。イランの人たちが数人いたのですが、彼らはみな滞在4,5年目にもかかわらず、実に流暢な日本語を話していました。アジア系の人たちは独特のなまりがあるのですが、彼らはなまりがあまりない。日本語は日本に来てから現場でいやおうなく、あるいはテレビドラマを繰り返し見て覚えたとのこと。つまり2の方法で覚えたということになります。

ただし現場で丸覚えしただけあって丁寧語や敬語はほとんど使えず、すぐ「馬鹿野郎」と言ったりします。漢字を読める人はいない。それでどうやって日本で生活できるんだろうかと思いました。

私は社長の後輩ということもあり、こういう現場ではめずらしく親方に「烈君(れつくん。正烈君の略)」と「君付け」で呼ばれていました。それでイラン人の従業員たちからは「れつくんさん」と呼ばれました。耳で聞いた音に敬称の「〜さん」を付けたものが彼らの中での私の呼び名になったのです。

彼らの中でもサリーというイラン人とは、仕事の後にビールを飲みに行ったり(イスラム教徒なのに!)、彼の部屋で故郷のテレビ番組のVHSを見たり特に親しく過ごしました。

しばらく1時間ほど離れた現場に通っていて、その行き帰りの車の中でサリーからペルシャ語を習いました。面白がっていろいろ教えてくれるのですが、なかなか一度で記憶できず、忘れてはまた教えてもらって覚えるということを繰り返しました。

すぐ忘れてしまう原因として、運転をしているのでメモを取れなかったことが挙げられます。カタカナでもアルファベットでも何でも、思い出すための記号でもあれば復習ができるのですが…、聞いただけだとすぐ忘れてしまうんですよね。あるいは録音があれば、繰り返し聞いてもっと効率よく覚えられるのにと思いつつ、忘れたことを何度も聞き返してようやく覚えました。

そんなある日、イラン人の新人が会社に来ました。ここぞとばかりに「ショマ ダル シェルチャテ ヤマダ カール ミコニード?(君はヤマダ建設で働いているの? ※フリガナはテキトー)」と習った言葉で話しかけると、彼は目をパチクリさせてビックリしていました。にわか仕込みのペルシャ語ですが、聞き取ったとおり話すことでそれなりに通じたのだと思います。

その後私はある出版社に中途採用され、このバイトも実質1年ほどで終了しました。サリーとはたまに会っていましたが、新しい職場は昼も夜も休日もないような編集部だったので、だんだん疎遠になり、しばらくして新聞の余白に書いたテヘランの電話番号を私に渡して彼は帰国してしまいました。

私のペルシャ語学習もそこから先に進むことはなく、覚えた言葉はあらかた忘れてしまいましたが、今でもいくつかのフレーズは口に出すことができます。

こんな個人的な体験もあってか、次にどこかの言葉を学ぶときは、できるだけ文字に頼らずに学んでみたいと考えています(と思いつつ、はや30数年)。韓国語の語学書を作る立場としても、音声だけを繰り返し聞いて入門レベルの言葉を覚えられる教材が作れないかとずっと考えているのですが、「文字を介さない」という方法が本を作る出版社の仕事と根本的に矛盾していることもあって、いまだ実現の見込みは立っていません。

通信545「編集者って、どこを見てるの?〜企画を検討しやすくするために〜」浅見綾子

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【週刊ハンガンネット通信】第545号 (2025年8月18日発行)
「編集者って、どこを見てるの?〜企画を検討しやすくするために〜」浅見綾子
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先生方、こんにちは。
韓国語教材専門出版社HANAの浅見綾子です。

今回はスクールの担当ではなく、出版の立場から通信をお届けしたいと思います。

韓国語の先生方にも関係のある内容かと存じますので、ご興味のある先生はぜひ参考にしていただけましたら幸いです。

韓国語教材の出版をご希望される先生から、弊社にありがたいことに企画のご提案メールをいただくことがあります。熱意あるご提案を拝見するたびに、韓国語教育の現場で培われた知見やアイデアの豊かさに、深く感銘を受けております。

ただ時折、企画の内容以前の段階で、編集部として少し戸惑ってしまうことがあります。

内容自体は非常に魅力的であっても、「このままでは編集作業が難航しそうだな……」と感じてしまうケースがあるのです。せっかくの良い企画が、伝え方ひとつで検討のテーブルに乗らないのは、本当にもったいないことだと思います。

そこで今回は、出版部の立場から、企画をご提案いただく際に「これが揃っていると編集部として非常に検討しやすい」というポイントをお伝えしたいと思います。

出版にご興味をお持ちの先生方に、少しでも参考になれば幸いです。

企画メールに添付していただきたい3つの資料

1.企画書

企画の全体像をまとめた資料です。出版業界で決まったフォーマットがあるわけではありませんので、ネットで「書籍 企画書」などと検索して出てくる一般的な形式で問題ありません。

以下のような項目が含まれていると、企画の意図や方向性が明確に伝わりやすくなります。

  • 書名(案)
  • 企画趣旨・背景
  • 主な内容(全体構成の概要など)
  • 想定読者(ターゲット層)
  • 類書との違いや差別化ポイント
  • 著者プロフィール
  • その他アピールしたい点(こだわり、想い、教育現場での実績など)

企画書をまとめることで、ご自身の中でも全体像が整理され、「意外と見えていなかった点」に気づけることも多くあります。

2.目次(案)

全体構成を確認するために不可欠な資料です。

たとえ暫定的なものであっても、編集側としては書籍のボリューム感や内容の流れを把握しやすくなりますし、ご自身の執筆計画を立てるうえでも役立ちます。

3.サンプル原稿(1〜2課分程度)

「この本が実際に世に出たとき、どのような内容になるのか」を具体的にイメージするための材料です。

体裁や完成度は問いませんので、あくまで「たたき台」としてお送りいただいて構いません。

この3点が揃っていると、企画全体を多角的に把握しやすくなり、編集部としても前向きに検討しやすくなります。

一方で、原稿だけ、あるいはアイデアのみのご提案ですと、「ターゲットは誰か」「既存の類書とどう違うのか」「なぜこの本を今出すのか」といった視点が見えにくく、検討に時間がかかったり、企画意図のすれ違いが生じやすくなってしまいます。

現場でのご経験や、生徒さんとのやりとりから生まれた教材のアイデアは、まさに実践的なニーズの結晶だと思います。

それを「本」という形に落とし込むためには、“伝え方”の部分でも少し工夫をしていただけると、より多くの読者に届く一冊になるはずです。

もし今後、「いつか自分のアイデアを教材にしてみたい」とお考えの先生がいらっしゃいましたら、ぜひご参考にしていただければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

通信544「音声だけで外国語習得?」寄田晴代

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【週刊ハンガンネット通信】第544号 (2025年8月13日発行)
「音声だけで外国語習得?」寄田晴代
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 540号幡野先生の「ハングルを介さずに韓国語を教えられるか上達するか」を読んだとき、そんな人が自分のクラスに来たらどうするだろうか、と考えてみました。

1.学習の目的、韓国語を学んで何をしたいか、を聞く。(旅行で使いたい、韓国人の友人とおしゃべりを楽しみたい、K-popをカッコよく歌いたい→これくらいならハングルを知らなくてもできるかも)

2.これ以外のことをしたいなら、将来的にハングルを読む必要が出てくるのでは、と説明する。例えば、一人で学習を発展させたい場合ハングルを読めた方がいい。なぜなら、中級以上でハングルを読めない人用のテキストを日本で見たことがないから。(では、そんなテキストがあれば売れるのでしょうか?)

以上のように、私も限定的な場合を除いて、ハングルは必要と思っていました。

確かに韓国ドラマを見ていただけで、聞いたり話したりできるようになった人はいると聞きますが、それが実際どれくらい使い物になるのかは会ったことがないのでわかりません。

一方で、ハングルを覚えるのに費やす時間をもっと短くしたい。早く話せる時間に移行したい、でもまだ読めないひといるしな~というジレンマも毎年感じているので「教えなくていいならラッキー」です。

そこで、文字を介さない外国語教育について調べてみました。

韓国語をハングルを覚えずに習得しました!とSNSに上げている人たちは、大学進学したり検定試験などを受けているので、結局はハングルを学んでいます。

他の言語に関する事例も探してみました。

大阪大学 サイバーメディアセンター 言語教育支援研究部門で行われた市民講座「複言語学習のススメ」では、文字を使わない音声中心の学習で、1回の講座で3〜4言語を並行して学んでいます。

講師の発音を聞いて、受講者が真似して発音しながら学ぶのですが、学習内容(挨拶・自己紹介など)を録画し、参加者同士で共有し、講師や他の参加者から発音のフィードバックを受けます(Flipという動画共有ツールを使用)。言語は選べず、ランダムに割り当てられ、アラビア語、ウクライナ語、カザフ語、ペルシア語、モンゴル語、韓国語などを学びます。ステップ1で音声模倣学習をし、希望者はステップ2で文字を学びます。

学習効果として「音から入ることで、言語への抵抗感が少なくなる」「文字を学ぶことで、音との違いや文化的背景に気づく」などがあります。参加者の感想には「音で覚えた言葉を文字にしてみると、発音の仕組みがより理解できた」「音と文字の関係に気づいた」とありました。

東京大学とマサチューセッツ工科大学が2024年に発表した脳科学研究では、文字に頼らず、音声刺激だけで言語習得が可能であることを科学的に裏付けています。研究の題名は「多言語話者になるための脳科学的条件ー新たな言語の文法習得を司る脳部位を特定ー」で、カザフ語を使って音声と文法課題の提示のみでルールは教えない、という実験です。文法理解に関わる文法中枢という脳部位が、音声のみで文法課題を提示することでも活性化するのだそうです。どのレベルの習得が可能なのかは気になるところです。

他にも、音声感受性と英語学習能力の関係についての研究も興味深いものでした。(「音声の敏感さと英語学習総合能力との関係」熊本学園大学)中学生を対象に、音声識別能力(言語音・楽器音)と英語学習能力(読む・書く・聞く・話す)との相関を調査しています。結果は、音声識別能力が高いほど、英語の「読む」「書く」能力も高い傾向が見られ、「聞くこと」は言語習得の基礎であり、他の技能への転移効果が大きい、と見ています。音声中心の学習は、特に初期段階の外国語習得において非常に重要であると示唆しています。

もっとも、この研究は、被験者が48名と人数が少ないので一般化するには無理があるのですが、「聞くこと」が言語学習の基本であることを実証した先行研究を論文の中で紹介しています。(Postovsky, 1974)。

ハングルなしで、どうやって韓国語を学んでもらうか、から始まって外国語学習における音声教育の重要性を改めて認識する機会となりました。そして「文字を覚えなくていいことから心理的ハードルが下がる」という文言が資料のあちこちに出てきたのが印象的でした。ハングルをクリアしてこそ次に進める、と思っていましたが、外国語習得への道程は様々なようです。

そういえば、私が学生時代の旅行ガイドブックに、韓国の国立博物館 국립박물관のルビが「ククリプバクムルグワン」となっていたことを思い出しました。(当時、博物館爆発しそう、と友人の間で話題でした。)音声から学んでいたらこうはならなかったかもしれませんね。(もしくは発音変化の勉強不足?)