通信030 大都市か地方か、会社組織か個人か(1)

【週刊ハンガンネット通信】《30号》(2012年2月4日発行)
「大都市か地方か、会社組織か個人か~その1」

アイケーブリッジ外語学院 代表

幡野泉 (はたのいずみ)

前田先生、教室移転おめでとうございます。

先生のコラムを読んで、私がアイケーブリッジを設立するとき、
とある起業セミナーで講師の方(中小企業の社長さん)から
聞いた話を思い出しました。

「事業は競争の激しい都会でするべき」

開業、起業、出店するときは、コスト面や競争の怖さから
都会や繁華街を避けようと思いがちだが、むしろこういった
場所に乗り出した方が良い、ということでした。

競争が人を呼び、そして自分たちも磨かれる、ということでしょうか。

とはいえ、それが当てはまるのは比較的大きな都市を
ターゲットにしている場合の話で、ハンガンネットメンバーの
多くの先生方のように、地元で、地域密着型のスクールを開いて
いらっしゃったり、ご自宅でご近所の方を対象とされていたら、
それはそれで何にも代え難い役割を果たされているのだと思います。

そう、その昔、まだ自分の未来がどうなるか分からなかった
大学生前半くらいのころ、大学の友人と未来予想図に
ついて話しました。いまでも覚えているのはそのとき自分が
「もし結婚して子供ができたりしても、家で英語を教えたり、
フルートを教えたりしたい」と言ったことです。

その後そんなことは忘れ、流れに任せて就職活動をし
就職しましたが、いま、その未来予想図になんとなく近い
ことをしているかな、と思わなくもないです。

まったく予想していなかったのは、それが会社規模になった、
ということですね。

会社規模になって大変なことや喜びなどは、また書き始めると
長くなりますので、次回書かせていただきたいと思います。

インフルエンザが猛威をふるっているようですね。
皆さま、お気を付け下さい!

通信029 移転を通して考えたこと

【週刊ハンガンネット通信】《第29号》(2012年1月23日発行)
移転を通して考えたこと

ミレ韓国語学院 学院長

前田真彦

2011年12月末にミレ韓国語学院は、創始の地、堺市から大阪駅前第4ビルに移転しました。
移転をして本当に良かったと思います。毎日が楽しくって、楽しくって…堺の時以上です。

移転を決意したのは2011年7月。夏の暑い盛りに一人で大阪駅前周辺の物件をいくつも
見て回りました。「これはちがう」「ここがこうなっていればいいのに」などなど物件を見て回りながら、
いろんなことを考えました。

自分はミレをどのようにしたいのか、韓国語教育をどうしたいのか、自分は一体何を教えているのかと…
最初は、移転したいという漠然とした思いだけでしたが、物件を見ながらさまざまなことが見えてきました。

交通の便、立地、大きさ、教室・事務所のレイアウト、賃料…何が自分の理想なのか、何を取り、
何を捨てるのか…

移転とは、起業のコンセプトを見直し、練り直し、再出発するための第2創業にあたることだとつく
づく感じました。単なる引っ越しではないのです。

創業1年9か月で、思い切って移転して本当に良かったです。堺に居座っていると、
その器で固まってしまったのだと思います。

そういう意味で、大阪の中央、大阪駅前第4ビルに出てきたのは正解だったと思っています。

引っ越しするときに、1年9か月でたまった、「余計なもの」「贅肉」の多さに驚きました。
いや~こんなものもあったのか、引っ越し業者も驚いていましたね。

「授業」も大切ですが、「経営」も大切です。授業と経営、これは市民講座の両輪です。
どちらかがかけてもうまく事業は展開しません。

民団や文化院、NHK学園など大手の韓国語講座がすぐ近隣にあります。
この3だけでも1000人以上受講生を集めています。
それ以外にもまだまだたくさん韓国語講座が林立している超激戦区です。

自分の建てたミレ韓国語学院が今後どのように受講生から受け入れられていくのか楽しみです。

通信028 福島での人権侵害と韓国語学習

【週刊ハンガンネット通信】《第28号》(2012年1月9日発行)
「福島での人権侵害と韓国語学習」
池上和芳 (いけのうえ かずよし)
放射能に汚染された福島の状況に心を痛めています。福島県内の
あちこちで今日も、韓国語教育が繰り広げられているのだろうと
推測しますが、その情景を思い浮かべるだに、私は居ても立っても
いられない心境になります。
ベラルーシという国は、国土の多くが、1986年のチェルノブイリ
原発事故で放射能に汚染されました。そのベラルーシの汚染地で、
医療に従事してきた同国の医者が、昨年11月に日本で講演したようです。
その医者は講演の中で、土壌汚染の度合いと、そこに住む住民の
健康被害との関係について触れ、「子供は、土壌1kg当たり20ベク
レルの汚染だと、まだ安心。子供は同50ベクレルから危険が始まる。
大人は同200ベクレルから危険です」と発言したようです。講演の
概要は次のブログにあります。
この発言は、机上の空論ではなく、実際の臨床経験に基づいたもの
でしょうから、十分信頼に値するのだろうと私は思っています。
土壌1kg当たりのベクレル値を1平方メートル当たりに換算するには、
原子力安全委員会によると、65をかけるようですので、大人が危険
になり始める「1kg当たり200ベクレル」は「1平方メートル当たり
13,000ベクレル」に相当します。
一方、福島県の中でも人口の多い福島市、郡山市、二本松市などを
含む、いわゆる「中通り」と呼ばれる地域では、今も多くの方々が
生活を続けているのですが、その地域のセシウムによる土壌汚染は、
文部科学省が昨年夏に測定した結果によると、1平方メートル当たり
50万ベクレル程度です。
したがって、ベラルーシの医者の見解が正しいとすれば、「中通り」
には、大人が危険になり始める汚染の、実に38倍もの汚染が広がっ
ていることになります。日本政府が、そういう危険な地域から住民
を避難させないで放置している現在の状況は、極めて重大かつ大規
模な人権侵害だと言わざるを得ません。
話が少しそれますが、この日本社会の中で韓国語は、今でこそ人々
によって、ある程度、盛んに学ばれてはいるけれども、かつては、
隣国に対する偏見とあいまって、学ぶ人がほとんどいない言語でも
ありました。
ですから韓国語学習は、学習者が意識する、意識しないにかかわら
ず、それは、他者に対する理解、ひいては人権の状況の改善につな
がる素晴らしい取り組みなのだと私は考えています。
そのため、福島で現在、韓国語を学んでいる方々は、人権の状況の
改善につながる素晴らしい取り組み(韓国語学習)をしながら、そ
の一方で、自らの人権が著しく損なわれるという格好になって
しまっており、私はそのことがあまりにも痛ましく、気の毒に思え
てなりません。
避難の必要性を強く感じながらも、様々な事情で福島に残って生活
している方々も多いのだろうと推測いたします。その方々の、避難
ができない状況に変化が生じ、あるいは、その方々が万難を排し、
1日も早く避難なさることを心の底から願ってやみません。

通信027 スピーチ大会は原稿作成時にはじまっている

【週刊ハンガンネット通信】(2011年12月30日発行)
「スピーチ大会は原稿作成時にはじまっている」

 アイケーブリッジ外語学院 代表 幡野 泉

年の瀬、先生方におかれましてはいかがお過ごし
ですか?韓国にお家がある先生方は帰国されている
かもしれませんね。

さて、この12月は「話してみよう韓国語 東京大会」、
「東京韓国教育院 弁論大会」、そして我が校「アイ
ケーブリッジ外語学院 スピーチ大会」と韓国語の
大会が目白押しでした。

前者の二つの大会も当校から出場者が出たことから
全ての大会を聞かせて頂き、韓国語講師冥利に尽きる!
充実した時を過ごしました。

こういった大会で必ず感じることになる発音や
イントネーションについては、先生方共通して感じる
ことと思いますのでここで言及するのは省かせて頂き、
三大会を通じて強く思った「原稿作成時に気をつける
べきこと」について書かせて頂きます。

(とはいえ、「話してみよう?彗膕颪匿該紺?垢
浜之上先生がおっしゃった「への字イントネーション」
のお話、阪東先生のおっしゃった「母音をしっかり」
のお話は、すべての韓国語講師、韓国語学習者に
聞いて頂きたかったです!)

スピーチ大会に出ることになったらまず生徒さんに
原稿を書いてもらう、というスタートになると思います。
テーマが決まっている場合もあれば、「何を書いたら
いいか分からない」という生徒さんに、テーマを一緒に
考えてあげたりもします。しかし、ある程度の文章が
書ける方はまず本人が作成します。

すると上がってくる原稿の中には、数分の時間制限の
ところ10分近くの原稿になっていたり、Aという話題で
始まったと思えば途中Bになって、最後はCで終わる、
というものもあります。

これは例えば「○○について話して」と言われ、話し出し
たらあれこれ浮かんできて止まらなくなって、しまいには
話があっち行き、こっち行き……となることは誰でも経験が
あると思うのですが、スピーチ原稿作成時にも同じことが
起きているのです。とある大会では、発表する原稿も
そうなっていた方が見受けられました。

原稿を作成するにあたっては、「○分くらいで自由に書いて」
でなく、文章のまとめ方、構成の仕方などをスタートの時点で
お手伝いをしないと、と感じました。せっかく伝えたい
気持ちがあり、良いことを言っているのに支離滅裂、
ではもったあありません。

スピーチ大会に出たときの原稿は本人の学習史に刻まれる
記念すべき文章になりますから、指導講師は責任を持って
原稿作成指導にあたる必要があると思います。

最後になりましたが、ハンガンネットメンバーの先生方、
セヘ ポッ マーニ パドゥセヨ。
良いお年をお迎えください!

通信026 スピーチコンテスト

【週刊ハンガンネット通信】《第26号》(2011年12月19日発行)
スピーチコンテスト

ミレ韓国語学院 学院長

前田真彦

ミレ韓国語学院では第1回スピーチコンテストを12月18日に実施しました。暗唱部門とスピーチ部門に分かれ、合計20人の参加、観覧者も含め50人程度の参加があり、コンテストの後は、同じ会場で交流会も行いました。

実施を決めるまではいろいろ不安もありましたが、受講生のみなさんのやる気とすばらしいパフォーマンスで、成功裏に終えることができました。

成功の要因を考えてみるに、

1、努力の方法と目標がはっきりしている: 普段の授業から音読やシャドーイング、朗読の録音など、普段から努力の方法を知っているため、正確な発音をなさっている方が多かったです。

2、適切な指導があった: 十分とはいえないまでも事前の指導を行いました。また本番でもお一人おひとりに審査員やミレスタッフから音声指導やアドバイスがありました。

3、普段接することのない他のクラスの受講生、ミレスタッフとの交流ができた通信生や遠方からの参加もありました。

このような点が良かったように思います。

今まで「韓国語能力試験必勝講座」「スキルアップ講座」「プチ合宿」などイベントを実施してきました。それぞれ意義があり、良さがありました。今回の「スピーチコンテスト」は、これまでの教える側中心のイベントとはちがい、受講生のパフォーマンス中心のイベントでした。このような受講生主体のイベントもよいものだと思いました。

普段の授業ではできないことを補うイベントを企画する大切さ、指導理念をはっきりさせることの大切さ、さらには市民講座の担う役割とは何かなど、みなさんの発表を聞きながら考えました。

通信025 韓国語を学びながら、さらに学んで欲しいこと

【週刊ハンガンネット通信】《第25号》(2011年12月5日発行)
「韓国語を学びながら、さらに学んで欲しいこと」

長崎韓国語教室 代表

池上和芳 (いけのうえ かずよし)

昨年、2010年の夏に私は、韓国語教育に関する6週間の研修を、
ソウルにあるソガン(西江)大学校で受ける機会に恵まれました。

現地で、韓国人の先生方から、韓国語で講義を受け、韓国語で
レポートを書き、韓国語で実習に臨み、大変勉強になりました。

その研修期間中に、当時の菅直人首相が、「日韓併合100年に
関する談話」を発表しました。そのニュースについて、韓国の各
メディアは軒並みトップで伝えました。

ある新聞は、かつて日本軍の慰安婦にさせられた被害者たち
が身を寄せ合って暮らす「ナヌムの家」で、被害者のハルモニ
(おばあさん)たちが、テレビの中の菅首相をじっと見つめて
いる写真を掲載しました。

談話が発表された翌日の、研修の授業では、その日の担当の
先生が、談話の内容をどう評価するべきか、しばらくの間、話を
なさいました。先生は話の中で、「(加害の事実について)加害
者が学ぶことが重要です」とおっしゃいました。

そのほかの日の、また別の先生方による授業の中でも、「日本
が、かつてしたこと」についての話は、何度か出てきました。

50人ほどいた研修の受講生の多くが韓国人で、日本人は私1人
でしたが、授業が終わった後、「針のむしろだったでしょう?」と、
いたわって私に声をかけてくれる(韓国人の)受講生もいました。

日本という国は、この国(韓国)で、いまだに、まるで信用を得ら
れずにいることを、私は十分承知していましたが、昨年の韓国
滞在の中で、そのことを改めて実感しました。

加害国としての日本が、隣国からの信用を回復させる努力を、
これまで何もしてこなくて、今も何もしていないことを、非常に
情けなく思いますが、

国というものの姿勢は、それを構成する国民の意識や考えを
反映したものでしょうから、1人1人が歴史の事実(加害の事
実)を知っていって、人として、あるいは国として、どうするの
が正しいのか、考えることが何よりも大切なのだと思います。

韓国語の学習に話を移せば、仮に、ある日本人の学習者が、
努力の末、韓国語をネイティブ並みに使いこなせるようになった
としても、その学習者が、もしも、「日本が、かつてしたこと」に
ついて無知だったり、無関心だったりしたら、

その学習者は、韓国の人々や文化にいくら親しんだとしても、
この国(韓国)の「心」を、いつまでも知ることはできないの
ではないかと思っています。

私自身は日々、授業で韓国語を教える中で、歴史も同時に
教えているわけではないのですが、韓国語を学ばれる方々
お1人お1人が、韓国語を学びながら、歴史についても、それ
ぞれの方法で、学んで欲しいと願っています。

通信024 映画祭で

【週刊ハンガンネット通信第24号】 2011年11月28日

「映画祭で」

林 鳩順(Lim Koosoon)

会員の皆様、いかがお過ごしですか?

11月19日から12月1日まで第3回京都ヒストリカ国際映画祭が行われています。耳慣れない言葉ですよね。ヒストリカとは時代劇を意味するようです。すなわち、時代劇に関する映画祭なのです。

京都には伝統ある東映京都撮影所と東映太秦映画村、すぐ近くに松竹撮影所があります。釜山国際映画祭に続き、今後はこのヒストリカ映画祭にも毎年参加することになりそうです。

今年はなんと「王の男」のイジュニク監督と二人のプロデューサーが招聘されました。一昨日行われた「韓流時代劇のカリスマに訊く、大ヒット時代劇の法則」というシンポジウムでは私が通訳を担当しました。舞台上ではじめて聞くおもしろおかしい話に、つい通訳という立場を忘れるほどでした。

そして、毎回ありますが、ひやっとしたのは簡単な単語が出てこなくて???となった瞬間でした。監督が気を利かして別の言葉に言い換えてくださり、その間に思い出したのですが、冷や汗ヲヲヲ

韓国語が分かる方もかなりいらしたので、訳す前に笑いが起こったり、反応がありました。舞台上での通訳は当然語学力が必要ですが、私は、ど根性と気力、そして大小の場数を踏む事が一番だとつくづく感じています。

関係者の打ち上げや交流会では、「言葉」に関する話で盛り上がりました。映画用語には多くの日本語があり、驚きました。ひきあげ、たちまわり、すれちがいなど。裁縫用語、土木用語など次々と飛び出しました。

イジュニク監督の映画の特徴は時代劇独特の昔言葉ではなく、現代語、特に慶尚道、全羅道、忠清道の方言「サトゥリ」を使うので明快で大変面白いです。

京都における朝鮮半島との関わりは地名などにもしっかりと息づいています。無意識に使っていた単語や地名に我が国との深い関わりと深い意味が込められていることを再度実感したうれしい体験でした。

皆さんの地域にも朝鮮半島とのいろんな関わりがあるんでしょうね。私は生徒さんたちと、そんなお話もしたいと思います。

ではまたメールでお目にかかりましょう!!

通信023 スキルアップ講座

【週刊ハンガンネット通信】《第23号》(2011年11月14日発行)
「スキルアップ講座」

ミレ韓国語学院

前田真彦

ミレ韓国語学院では、初・中級学習者を対象に、学習方法を提示し、実際に体験していただく「スキルアップ講座」を開いています。11月12日(土)に第2回スキルアップ講座を実施しました。

4色ボールペンディクテーション、シャドーイング、スラッシュリーディング、音読、発音クリニック(今回は鼻音を重点的にやりました)、そして「前田式」会話。最後に学習カウンセリングという盛沢山なものでした。

改めて感じたことは、「学習の仕方」を教えることの大切さです。韓国語学習者のみなさんは日本で初めて形成された「自主的外国語学習者群」です。学校英語は、好き嫌いに関係なく、「やらされた」学習だったわけですが、韓国語市民講座に集う人たちは、社会人になって、自主的に、外国語を学び始めた人たちなのです。
学校生活から離れて数年~数十年の方たちで、学校でも英語を自覚的に学習してきたわけではなく、レールに乗ってやってきたので、いざ、韓国語学習を始めてみたものの、何をどう学習するのが自分にふさわしいのかをわかっていない方が多いのです。

例えば音読をほとんどしていない方がかなり多いです。そして「音読が大切」と言われても、どうして大切なのか、どうするのがよいのかわからない方が多いのです。そこで実際に皆さんで音読をして、その学習法を体験してもらって、「なるほど音読は効果がありそうだ」と実感してもらうことが大切です。「シャドーイング」「ディクテーション」も同様です。

説明だけではだめなのです。実際にやってみて効果を体感してもらう必要があります。

鼻音、鼻音化といってもわかりません。鼻音とは何なのか、自分の口の形が今どうなっているのか手鏡で見てもらって、そして隣の人の口の形を実際に見て、じっくりと確実に1音1音確認していく作業が必要なのです。日本語母語話者にとって、どうして鼻音が難しいのかも噛み砕いて説明する必要があります。

カウンセリングでは、「何をどう頑張ったらいいのかわからない」「何を目標に勉強すればいいのかわからない」というものが大半です。学習の仕方だけではなく、目標の設定もお手伝いする必要があるのです。

学校では、定期テストや入試というシステムに合わせて、いやがおうでも勉強させられてきたわけですが、市民講座では、1週間に1回授業をしてそれ以外のかかわりはほとんどありません。しかし、学習者が求めているのは、1週間に1回の授業だけではなく、「学習の方法」と「目標の持ち方」など、学習そのものを支える部分の指導や助言なのだということを痛感しました。

受講生は皆さんお一人お一人の学習の実態を把握し、「学習の仕方」「目標の持ち方」をきちんと見ていく必要があると痛感しました。

学習者の実態をよく把握して、その実態にふさわしいやり方で、説明し、「学習法を体験してもらう」のがスキルアップ講座の目的でした。ですが終わってみると、教える側にとっても、「何をどう教えるのがもっともわかりやすいのか」「何をこそ教えるべきか」という「教えるスキル」について考えるよい機会になりました。

通信022 ハンセミ09東京レポート

【週刊ハンガンネット通信】《第22号》(2011年11月7日発行)
ハンセミ09東京 レポート

フェリス女学院オープンカレッジほか講師

阪堂千津子(はんどうちづこ)

すでにご存じのとおり、11月5日(土曜日)に、東京・飯田橋のアスク出版で「ハンセミ09東京」が開かれました。
当日は日本語・韓国語講師や講師をめざす留学生など総勢25名が集まり、3時から6時半まで、川口義一先生の講義を熱心に受講しました。
今回は、少々長くなりますが、この様子をレポートさせていただきます。

まずはドイツ語のデモンストレーション。
4人が前に出て、「立ちなさい」「さしなさい」「入れなさい」「置きなさい」などの動作を、先生の言われる通りに行います。
もちろん全員、ドイツ語は初心者です。初めはさっぱりわからないのですが、失敗もしながら、体で覚えていきます。

何度も繰り返し聞いているうちに、意味不明のドイツ語が、意味を持ったかたまりで聞こえてくるようになるのが不思議でした。
人間は意味と音が結びつくと、理解ができるようになる、という言語習得論の言葉を実感しました。

次はロシア語です。家族写真を見せながら、先生が人間関係を説明していきます。
誰と誰が兄弟です、かれらが両親で、この二人は夫婦で、・・というような内容(おそらく)が、ネイティブスピードで話されます。

受講生からは「わからない学生の気持ちになれた」「間違えるとプレッシャーだけど、4人だから(=仲間がいるから)楽しい」
「知っている単語と似ている音声を手がかりに推測していった」というような感想が出ました。

「もうすこしペースを落とすとゆっくりと考えらえるのでは?」という質問には、「集中しているから大丈夫」とのこと。
たしかに、機関銃のように話される先生の言葉も、やっているうちに慣れてきます。

教室でいつもあのように話されているのなら、教室外のわからない音声に対する恐怖感がなくなると思いました。

最後はフランス語です。母音と子音の発音を色にたとえた図を用いて、学生に発音させます。
ポイントは決して教師はモデル発音をしないこと。実は、教師が発音してしまうと、学生はわかった気になって、まちがった音でとらえてしまう可能性が高いそうです。

教師はぐっとこらえて、学習者自らが正しい音を見つけ出すまで、何度でも言葉(日本語)で説明します。
私は4人のうちの1人になって体験してみましたが、なかなか思い通りの音声にはなりません。
でも、ほかの3人の発音がとても参考になりました。そして、自分で獲得した発音は不思議と忘れないんですね。

今回のセミナーで、私が最も印象に残ったことばは「教えないこと」です。

「教師が教えると、わからない人はバカになる。しかし、教師が教えなければ、わからなくて当たり前なのだから、間違えが恥ずかしくなくなる」。

教師が教えてしまうと、「できる人」は先生の話が理解できる人ということになります。
川口先生いわく、「説明したらわかったことをテストしてはいけない、これは不公平です」。

なるほど。私と同じような方法で理解できる人だけが、テストで良い点をとることになってしまうんですね。
たしかに今回のデモ授業では、失敗しても、みんなが笑いながら楽しんで授業をうける雰囲気満点でした。

川口先生は、今回のような教授法を授業の導入部分に取り入れ、あとは教科書に戻る、という方法で授業を行っているそうです。
また、人数が多いクラスでも、数人が前にでてきてもらって実施すれば、ほかの学習者に十分に集中してもらえると思いました。

引き続き、「初級文法の外国語教授法」は時間の都合上、前半のみを講義していただきました。
テーマは「文脈化」と「個人化」です。

これも印象的だったのは、「教室の文脈を無理して教室外の状況に合わせない」。
最近流行の「会話練習」を重要視するあまり、不自然な練習をさせるのはおかしいということですね。

たとえば、受け身表現などは、「自然な会話」の状況を作り出すのは難しいので、
書かせたり読ませたりして練習させるほうが効果的である、ということでした。

そして、教室の文脈を生かして、宿題を提出させるときや、先生とのやりとりの文脈で、自然な日本語をマスターさせるのです。
教室を出るときには先生に向かって「さようなら」ではなくて「失礼します」、というように・・・

また、会話は個人的な文脈に即したものでなければ最終的には意味がありません。

「昨日何しましたか?」で会話をはじめたら、「~しました」で終わるのではなく、なるべく詳しく聞いてあげる。
個人的な話ができるようにするのが、会話練習の本当の目的です。

「そうすると周りがざわついてしまう」という質問に、先生は「聞きたい学生は聞いています、皆が聞いている必要はありません」。

今回もいろいろと目からウロコの発見が多々ありました。

自分の授業についてももっとも大きな反省材料となったのは、
いつの間にか「教室全体が一体となって授業をうけることを望んでしまっている」、ということです。

みんなが同じ環境で生きているわけではないのですから、それぞれ言いたいことは違う。
それなのに、同じことを言わせたり、ほかの人のいっていることを聞かせようと、つい圧力をかけてしまうのですが、
実際のコミュニケーション場面では、同じテーブルに座って複数の話題を話すこと(=他人の話をきいていないこと)ってよくありますよね。

「静かにだまってきいていてほしい」というのは現実世界では普通でないこと、これは教師のわがままであるということに、気がつきました。

残念ながら、ここで時間が着てしまい、つづきは次回で、ということをお約束いただいてお開きとなりました。
セミナー後は、ちかくのイタリアンレストランで食事をしながら、先生を交えて熱心に語り合いました。

いつもながら、熱くて楽しい時間でしたね。

最後になりましたが、今回のセミナー開催にあたって、会場をご提供いただき、いろいろとお心遣いただいた(株)アスク出版の天谷修身社長、高橋正之様、小栗章様にこの場をかりてお礼申し上げます。本当に、ありがとうございました。

・・・長々と失礼いたしました。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。