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【週刊ハンガンネット通信】第561号 (2025年12月8日発行)
「パンマルとため口」 加藤 慧
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寄田先生と幡野先生の投稿を楽しく拝読し、私も普段から考えていることを書いてみたいと思います。
「日本のため口と同じ」と言われることも多いパンマルですが、私はため口(以下では日本語のみを指します)とは、実は大きな違いがあると思っています。
少し前に、日本の俳優の方が、日本出身で韓国籍を取得したタレントの方のYouTubeチャンネルに出演した際、韓国の視聴者から「年下で初対面なのに終始ため口で失礼」と批判されていました。韓国語ではなく日本語の会話だったにもかかわらず、です。本人としては同年代の相手への親しみの表れとしてため口で話したのかもしれませんが、韓国の文化に慣れているタレントの方や韓国の視聴者は戸惑ったのでしょう。
自分に置き換えて考えてみると、日本語の会話でそれほど親しくない相手からため口で話されたときに覚える不快感は、相手の年齢やそれが失礼かどうかよりも、馴れ馴れしさからくるものという気がします。一方韓国語母語話者の場合、特に年下の相手からパンマルを使われると、相当に無礼と感じるようです。韓国ドラマでも初対面の相手にパンマルを使われて、何歳か言ってみろと怒るシーンがよく出てきますね。私はここに、日本のため口との差を感じます。
アニメもいい例だと思います。日本のアニメや漫画では、子供のキャラクターはため口で話すことが一般的だと思いますが、その韓国語吹替版を見てみると、子供の台詞はきれいな丁寧語に直されていることがわかります。日本のアニメで子供がみんな丁寧語で話していたら、逆に違和感があるのではないでしょうか。丁寧語で話す子供が登場したとしても、大人びたキャラクターを表すための役割語的なものが多いと思います。
日本の子供がテレビのインタビューでため口で答えるのも、私たちにとっては当たり前の光景ですが、SNSでこれに不快感をあらわにしている韓国の方の投稿を見たことがあります。子供が自分の親以外の大人に対してパンマルを使うことなどありえないからでしょう。
また、先日台湾に行ったときにキャラクターが台湾華語で話している施設紹介映像の字幕を比較してみましたが、韓国語は格式体、日本語はため口になっていました。韓国も子供向け番組のキャラクターなどはパンマルで話しますが、ここでは大人も見る映像だから格式体になっているのだな、と違いを改めて感じました。
こうした例からもわかるように、同じ親しさの表れでも、ため口は距離の近さ、パンマルは無礼講的な意味合いが強いのかもしれません。
さらに同じパンマルでも、한다 体 と해 体の二種類がある点も注意が必要ですね。手元のカナタ韓国語中級1のテキストでは、前者は「相手を非常に低く見る場合」、後者は「お互いが気安い場合」と説明されています。
このような注意点の多さを考えると、本当に深い付き合いになれるネイティブの友達がほしい!という学習者さん以外は、使えるようにまではなる必要がないのかもしれません。
個人的にも、同い年〜年上の友人でパンマルを使うのは日本で知り合った友人のみで、ほとんどが学生時代に先に日本語で会話し始めたケースです。
韓国留学中に親しくなった年下の友人たちからは、ある時点で丁寧語を使わないでくださいと言われ、パンマルを使うようになりましたが、向こうは丁寧語のままです。
使えるようにはならなくていいとしても、映像作品や歌詞、コンテンツなどに登場するので理解できるようになると楽しいものです。
特に映像作品では丁寧語からパンマルに変わったときの微妙な距離感の変化が描かれていたりするのがわかって、作品をより楽しめるようになりますよね。
言語体系が似ているためついつい同じように考えてしまいがちなパンマルとため口ですが、単語の意味などと同じように、重なる部分と異なる部分をしっかりと意識する必要があります。
もちろん個人差があるのは大前提だと思いますが、教える際にはこのような違いも伝えていけると、お互い嫌な思いをすることも減らせるのかなと思いました。


