通信537「何かを調べるとき、検索するよりもAIに聞くようになると」裵正烈

=================================================
【週刊ハンガンネット通信】第537号 (2025年6月27日発行)

「何かを調べるとき、検索するよりもAIに聞くようになると」
   HANA ペ・ジョンリョル
=================================================

近ごろ私の周りでは、「何かを調べるとき、検索するよりもAIに聞く」という人が増えています。確かに検索で示されたサイトを見に行き自分で情報を取得するよりも、AIとやり取りして答えを聞くほうが手っ取り早いときもありますよね(AIの回答が怪しいこともありますが)。

小社では「韓国のことばと文化を学ぶサイトhana+(ハナタス)」を2023年12月に始めました。オープン以来ずっと定期的に記事をアップしてきて、これまでに公開した記事の総数は900以上にも上ります。Googleでも韓国語関連の検索を行うと上位に表示されることが多くなってきました。まだご覧になっていない方は、ぜひこのサイトを一度訪れてみてください。アドレスはhttp://www.hanatas.jpです。

最近Googleで検索を行うと、結果ページの冒頭に「AIによる概要」が表示されるようになっていますが、その際、AIが参考にしたサイトが示されます。韓国語関連の検索を行うと、hana+が表示されるようにもなってきました。

当初は「AIにも結構頼られているんだな、よし」と思ったりもしましたが、のんきに喜んでばかりいられません。こうやってソース表示でもされるのならまだましですが、対話型AIのChat GPTの場合はそういう機能はなく、どこから情報を得たのかがすぐ分からないようになっていたと思います。

冒頭で書いたようにAIがウェブ上の情報を集めて回答の精度を上げてどんどん便利になると、ウェブで情報を出している人や企業は困ったことになってきます。多くのサイトは無料で見られるようにしているとはいえ、企業には「広告収入を得るために集客する」「有料会員を増やす」「商品やサービスの購買につなげる」など、何かしらの目的があって人力や費用を費やしてコンテンツを提供しているわけです。

AIが便利になればなるほど、企業は費用をかけてウェブを更新したりSEO対策をしたりする意味がなくなる。サイトが更新されないとAIは新たに得られる情報が少なくなる。するとAI自体もどんどん陳腐化して使えなくなる…となってしまうのではないか。ふとそのように思いました。

この疑問をAIに聞いてみたところ、「【結論】確かに、AI利用の拡大がSEOやWeb更新の意味を変えてしまうことは避けられません。ただ、それは「終わり」ではなく、「新しい情報流通の時代の始まり」と捉えるべきです。いま私たちは、Webができた頃と同じように、新しいルールを作る過渡期にいるのだと思います」となんともモヤモヤさせる回答です。

6月26日の朝日新聞朝刊に「AI学習に書籍無断利用 『購入なら合法』米判決」という記事が出ました。あるAIの会社が書籍(を買って?その)データをAIの学習のために無断利用したことに対し、作家が訴えたが、法廷は「作品をそのまま模倣せず独自の『回答文』を生成しているので合法」だと認めたそうです。

仮にAIの会社が、こんなやり方であらゆる本の内容をもAIに取り込み、元ソースも示さずに別の形で配布し、そしてそれが市民権を得るようになるなら、われわれの商売はもう成り立たなくなります。

先のAIの回答にもあったのですが、「自社コンテンツをAIに利用させる代わりに情報提供者が報酬を得る」ようなきちんとした仕組みが早くできるといいのですが。

通信528「中学生、高校生向けの独習書を出版」 ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第528号 (2025年4月21日発行)

「中学生、高校生向けの独習書を出版」 ペ・ジョンリョル
======================================

2年ぶりに担当した学習書が4月の末に発売されます。タイトルは『ひとりで学べる!中学生と高校生のためのはじめての韓国語』という本です。

この本の録音は韓国で行いました。これまで韓国で録音する際に日本語の声優さんが安定せず、その悩みについてこの通信で書いたことがあります。

しかし、今回の日本語の声優さんは「大当たり」でした。ほぼノーミスでした。

それで今後のためにと、スタジオに連絡して声優さんの名前を教えてもらったのですが、なんと、以前お願いしたことのある人でした。前は録り直しがいくつも生じたので、同じ人でもその時の調子や集中力の問題などがあるのかもしれません。

韓国での録音で困るもう一つの問題として、録音したい音声について、こちらの意図がなかなか伝わらなかったり、声優さん本人が理解・認識できなかったりすることがあります。

今回も発音変化や抑揚のサンプルを録る際にそういうことが生じました。たとえば、簡単な語を使ってアクセントを説明するための音声が必要だったのですが、가수、노래、가요などなど、本で説明した抑揚どおりの音声をなかなか取ることができませんでした。

こういう音声を取るためには、非母語話者に韓国語を教えるための学習書の意図を理解できる人、言語学を学んだ人や日本語話者への教授経験がある人がいいように思います。あるいは、いっそAIや音声読み上げサービスにやらせた方が、感情なしに規則どおりに発声してうまくいくのかもしれません。

蛇足かもしれませんが、この本には「新大久保」という地名が何度か登場します。声優さんは[시노쿠보/シノクボ]と発音すると思い込んでいたら、3人の声優さん全員が[신오쿠보/シンオクボ]と発音してきました。新大久保周辺の韓国語話者たちはみな[시노쿠보/シノクボ]と呼んでいるはずなので、録り直してもらいましたが、今回の声優さんたちが「新大久保」や「大久保」のことを知っていたのか知らなかったのか、なぜそう読んだのかは聞いてみたいところです。

なお、この中高生向けの本は、用言についてはヘヨ体現在形を教え、そこから疑問形、過去形、パンマル、命令形、勧誘形、안(アン)否定形、さらにいくつかの表現を学ぶ流れになっています。

つまり用言は辞書形で提示せず、活用も基本的に学ばないわけです(ただし次の学習段階への橋渡しとして本の最後で説明しています)。

文字と発音、活用以外の文法はもちろん学びます。高校の授業で1年間かけて学ぶ内容を4週間(28日=28課)で習得する構成となっています。

著者は、JAKEHS〔ジェーケーズ=高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク)会員で長年都内の高校や社会人向け講座で韓国語を教えていらっしゃる武井一先生です。

機会があったら、お手に取って見ていただければ幸いです!

通信512「K-POPを使った教材」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第512号 (2024年11月25日発行)

「K-POPを使った教材」
  ペ・ジョンリョル
====================================

今年末のNHK紅白歌合戦の出場者が発表されましたが、K-POPからは、TOMORROW X TOGETHER(TXT)とILLIT、TWICE、LE SSERAFIMが選ばれました。

案の定、ネットには「誰?」「韓国人ばかり」「韓国推しの紅白が招いた“お茶の間”の分断」などという見出しが見受けられます。単に若年層の視聴者を念頭に、その人たちに人気のあるアーティストを選んだだけでしょうし、見るメディアが多様な時代にあって、分断もなにもないと思うのですが…。

私はなんとかすべてのグループ名を字面で知っているくらいですが、若い世代を中心にこれだけK-POPの人気があるなら、商売人としてはなんとかこの人気に便乗しなければと思ったりします。

前々回の加藤さんに続いて、私も歌の話をしたいと思います。

HANAからは、過去に以下の『K-POPで韓国語! 2017-2018』をはじめ『KPOPで韓国語!』というシリーズを計5冊出しました。担当はもちろん私ではありません。

https://www.amazon.co.jp/dp/4295402435/

K-POPの人気曲の歌詞に発音や文法、語彙の説明を付けて、対訳とともに掲載した本です。オンライン書店のレビューでは「知りたい文法事項がたくさん載っていて利用価値が非常に高い」といった評価も頂いています。

このシリーズは素材(歌詞)ありきで編集制作のフォーマットもできているので、作るのは至って楽なのですが、歌詞の使用許可を取るのがなかなか面倒でした。もっとも最近では、韓国の著作権管理団体KOMCAと日本の著作権管理団体JASRACとの提携が進み、データベースも整理されているようなので以前に比べると手続きがだいぶ楽になっているはずです。

これまでに出した5冊では、歌詞を掲載するだけで歌をすぐ聴ける仕組みを加えられなかったのですが、最近ほとんどすべての曲の公式動画がyoutube上にあり、スマホとQRコードが普及したので、今後はそのサイトへのリンクを埋めこんだQRコードを誌面に載せて、スマホから動画に直行して歌を聴いてもらうことが可能です。

語学書ではなく解説書ですが、野間秀樹先生が出版された『KPOP原論』(ハザ刊)がまさにこのスタイルを取っています。さらに今年9月に出版された同書の韓国語版『K-POP 원론』(연립서가刊)にいたっては、なんと400ものQRコードが紙面に掲載されており、動画も併せ見ることで本の内容を立体的に理解できるようになっています。

https://product.kyobobook.co.kr/detail/S000214379140

韓国語版ではさらなる増補改訂が行われており、アーティスト名索引やおすすめ動画リストが充実しています。私のようにK-POPに明るくないけれど必要に応じて調べたり書いたりしないといけない人間には、ぜひ手元において置きたい資料でもあります。

HANAではK~POPで韓国語を学ぶ本を2018年に出したのを最後に出せていません。他の本で手が一杯だったのが一番の理由ですが、最近のK-POP曲は英語の歌詞が多かったり、単純なフレーズの反復が多かったりして、語学素材として使えそうな曲がなかなか少ないということがあります(調べが足りないだけかもしれませんが)。そして手を挙げる人がいないということも理由の一つです。

私がもう少しK-POPに興味と理解があればいいのですが、かなり前に5人のグループ(東方神起)の次に13人のグループ(SUPER JUNIOR。12人?)が出てきたときに誰が誰だか分からなくなり脱落し、現在に至ります。

さて何年か前、私が東京の韓国書籍専門店チェッコリで偶然手にした本に『우리가 사랑한 아름다운 노랫말』(책비刊。絶版)というものがありました。

https://product.kyobobook.co.kr/detail/S000001612793

いわゆる7080音楽から90年代音楽まで、101曲の歌詞を収めた本で(上記商品ページから収録曲も見られます)、歌詞の対向面には書き写しのためのスペースが設けられています。

私は韓国で青春時代を過ごしたわけではありませんが、本の中の歌詞を眺めているとじわじわと感じ入るものがあります。こういう企画ならやってみたいんですけどね。

通信504 「スマホのハングル入力方法 どちらが主流?」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第504号 (2024年9月24日発行)

「スマホのハングル入力方法 どちらが主流?」
HANA ペ・ジョンリョル
===================================

小社が運営している国語学習のサイト「hana+(ハナタス)」で常に多くアクセスを集めているのが、「ハングルの入力方法徹底解説! スマホで韓国語を打ってみよう」というページです(https://www.hanatas.jp/study/3273/)。

まったく大したことは書いてないのですが(私が執筆したのでそう言えます)、私のパソコンで「スマホ/ハングル入力」でグーグル検索しても最上位に表示されます。

このページでは、スマホの言語設定方法を説明したのち、쿼티(QWERTY、つまり두벌식=2ボル式のキーボード入力)と천지인(天地人)という二つの入力方法について説明しています。天地人方式についてここで詳しく説明はしませんが(知らない方は上記記事ご参照ください)、もともとサムスンの피처폰(ガラケー)特有のものだったかと思います。

私も以前、韓国携帯を1台持っていて天地人方式でハングルのショートメールを打っていました。ガラケーの10キーでハングルを入力するには優れた方法だと思いましたし、感心もしました。しかし片手の親指入力が得意ではないので、iPhoneを使うようになるとキーボードの両手親指打ちに移行しました。しばらくそれを続けたのですが、今度は指が大きすぎて打ち間違いが多く、結局また天地人に戻っています。

最近社内でその話題が出た際に、小社の30代社員も「自分は以前から天地人方式。でも周りの韓国人の友達からずいぶん珍しがられる」と言います。彼女の周辺の友人はみな2ボル式で、まるで珍しいものを見たように扱われるというのです。

たまたま小社を訪れた韓国の60代男性、40代男女にも聞いてみたところ、3人とも2ボル式使用者で「天地人は昔のガラケー時代のもの」と言い切ります。

気になってネットを検索してみると、「天地人の総本山」サムスン電子も、今年ついに天地人に代えて、QWERTY方式を自社スマホのデフォルト設定にしたというニュースがありました。

https://www.chosun.com/economy/tech_it/2024/03/12/42EQ3UVN3VCZLGTQLT4V6YPG3U/

さらに、あるサイトでは「天地人を使うのは아재」「天地人は아재判別機」などと、若い世代のネタにもなっていました。もう世宗大王が草葉の陰で悲しんでいるに違いありません。

私や小社30代社員のようなガラケー体験世代はともかく、Z世代においては絶滅したのではないかと心配になってきました。そこで現在韓国の大学院に通っている小社の元バイトの女性(20代)に頼んで、韓国に住む彼女の周囲の韓国人はどうか聞いてもらいました。

すると、20代の男女42人に聞いて返事をくれました。結果は、キーボード入力が34人(81%)、天地人が8人(19%)とのこと。若い世代でも天地人を使っている人はいるんですね!

天地人の欠点として、キーボードに比べて打つ回数が多くなることが挙げられますが、実はiPhoneはフリック入力ができるので、その欠点をある程度カバーすることができます(フリック入力についても知らない方も上記ご参照ください)。

余談ですが、小社で今働いているアルバイトの人(1年ほど韓国の学部課程に通ったことがある日本人大学生)に聞いたところ、天地人方式自体を知りませんでした。そこで天地人方式の原理を教えて、フリックによる入力方法をデモしてあげたところ、「これはすごく便利そう!」と大いに興味を示していました。

通信495「K-POP、K-文学の次はK-ティーチャー?!」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第495号(2024年7月22日発行)

「K-POP、K-文学の次はK-ティーチャー?!」 
ペ・ジョンリョル
===============================================

先日、出張でソウルに行きました。6年ぶりです。この間に街の様子がずいぶん変わったと聞いていて、実際そのとおりだと思いましたが、滞在中に動き回っていたのが地味な界隈だったこともあり、以前とあまり変わらない現地の人々の姿も多く見られました。私個人としては妙に安心しました。

さて、今回、地下鉄5号線の西側終点パンファ駅近くの国立国語院を訪れ、チャン・ソウォン院長にお目に掛かりました。院長先生は、実は小社HANAの著者の先生でいらっしゃいます。

その際に国立国語院が運営を始めた「K-티처 프로그램」についての話を伺いましたので、今日はそれをお伝えしたいと思います。

国立国語院では、海外各地で韓国語教育に尽力している韓国語教師の方々の力量向上のために、今年度からオンライン教育プログラム「国外韓国語教員(K-ティーチャー)プログラム」の運営を始めました。

https://kcenter.korean.go.kr/kcenter/kteacher/info.do

国外の大学で韓国語学関連を専攻している・した方、もしくは国外の教育機関で韓国語を教えている教師であれば、このプログラムを受講することができます。

プログラムは韓国語教師として知っておくべき韓国語学、韓国語教育学、韓国文化などのさまざまな理論分野と実習分野の計130回分で構成されており、修了後は国立国語院が発行する履修証(オンラインで発給)とバッジをもらえるとのことです。

大学や高校などの正規教育機関以外にも、民間の語学学校や教室に所属している先生も受講可能。ただし、受講申請の際には「韓国語教育機関に在職中であることを証明する在職証明書を提出する必要がある」とのことです。

上記は、日本における韓国語の教室の多くが民間で小規模なものであることを説明したうえでいただいた返答を基にしています。

受講料は無料です。

HPで現在公開されている今年度プログラムの募集はすでに終わっていますが、院長先生の話を伺った限りでは、今後も継続的に運営を行っていくものと思われます。

プログラムのサイトでは「외국인 한국어 학습자가 선생님이 되는 시대. 세계를 무대로 한국어를 가르치는 K-티처」とうたっています。韓国語教師を韓国から送りだすことだけでなく、現地の韓国語教師による韓国語の教育・普及にも国語院は大きな関心を寄せていると院長先生はおっしゃっていました。

国立国語院では、日本に既に多くの韓国語教師がいることをよく知っており、ぜひこのプログラムを利用して、教師としての力量を高めてくださいとのことでした。

受講手続きやプログラム内容についての詳しい情報は上記のリンクからご覧いただくことができます。関心のある方はサイトを詳しくご覧ください!

通信488 済州語と私 ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第488号(2024年5月21日発行)

「済州語と私」
ペ・ジョンリョル
===============================================

30年ほど前、東京の朝鮮高校で教師をしていたときに担任を受け持ったクラスに済州島出身の一世の男子生徒がいました。済州島で生まれ育ちましたが、両親をなくし村の人たちにしばらく育てられた後で、中学生のときに親戚を頼って妹と一緒に東京に移住しました。そして親戚のつてで、朝鮮学校に編入してきたそうです。親戚の支援のもと、きょうだい二人で生活しており、兄は朝寝坊で学校をさぼるので、たびたび私が車で起こしに行ったりしていました。

きょうだい同士で話すときは済州語でした。「済州語でした」と書きましたが、聞き取れない言葉なのでそう推察するしかなく、でも済州語でしかないだろうということで、これが私にとって初めて済州語を聞いた経験です。

その後、カラオケで「감수광」という曲の済州語の歌詞を知り、映画でも何度か済州語に触れる機会があり、おぼろげながら済州語の一部の語尾や単語を知ることになりました。

私の故郷は慶尚道で、済州島にはほとんど直接の縁がなかったのですが、おばが10年ほど前に済州島に移住してペンション経営を始めたことで、2018年、初めてこの島を訪れました。済州語は今ではほとんど使われていないということは知っていましたが、あちこちで注意して耳をそばだてていると、それらしき言葉を時々耳にすることができました。でも話の内容はわからない。すると職業柄か「済州語の入門書を作れないか」という考えがだんだんと湧いてきました。

以前、『話してみよう!釜山語』という本を試行錯誤しながら作った経験があるので、入門書を作ることはできます。でも商売としては成り立ちません。さらに具体的なあてがわけでなく、そのままになっていました。

ところが今年、済州島出身で韓国語教師のパパ友ができたのですが、なんと彼は済州語ネイティブで言語学専攻だとのこと。試しに弊社の釜山語の本を参考に原稿を書いてもらったところ、結構な内容と量のものをいただくことができました。済州語企画が少し現実味を帯びてきました。

実は6月に発売される『hana Vol. 52』で済州島を特集します。そこで済州語入門のページも作ってみました。誌面の都合上、基本の文法や語彙、フレーズなど、ごく簡単な内容しか載せられませんが、興味のある方はぜひご覧いただければと思います。

手元にある原稿は「hana」記事の数倍の分量があり、さらに内容を充実させて音声を補完することで、それなりの本を作れると判断しています。あとは資金をどうするかですね。

教え子の同窓会をきっかけに、前述した教え子にもたまに会うようになったので、この本で勉強して、一度済州語で驚かせてみたいです。

通信480 「韓国で録音を行うときの問題点」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第480号 (2024年3月15日発行)

「韓国で録音を行うときの問題点」
ペ・ジョンリョル
=================================================

小社では、韓国語学習書の録音の多くを韓国で行っています。なんといっても良い韓国語の声優が多くいます。録音費、声優費も日本に比べて安く、最近では完成したMP3ファイルをネット経由で納品してもらうので、タイムラグもありません。

一方、デメリットとしてはまず、日本語の声優が少ないことが挙げられます。そして、10年以上韓国で録音をしていますが、すごく満足できる人にいまだ巡り会えていません。大きな不満が何かというと、単語のアクセント(抑揚)を間違えることです。

音声の録り直しが生じると、スタジオと同じ声優を再度ブッキングする手間と、最低でも(再録音時間が5分でも10分でも)1時間分のスタジオと声優の費用がかかります。チェック用の音声を聞いたら、韓国語は問題ないのに日本語のアクセントの誤りを見つけてがっくりする、ということがこれまでに何度もありました。さらに、同じ声優さんの再々録音の予定がどうしても合わず、音声が遅れて本の発売に間に合わなかったこともありました。

日本国内で録音するときは編集者や著者が現場に立ち会えるので、あやしい発音に気付いたらその場ですぐに録り直すことができます。それに対し、韓国だといちいち現地に行って立ち会うことができず、上がってきた音声をチェックすることになります。それが韓国で録音することの一番の問題です。

なので、なおさら完璧に発音できる人が求められるのですが、なかなかそういう人がみつからないのです。

日本語の部分だけ日本で録音して、編集で音声を合体させるという方法もありますが、場所や機材が違うと音の雰囲気がまったく違ってしまうそうで、あえて試したことがありません。いまや多くの会社でオンライン会議を取り入れているご時世ですから、できたらZoomなどの中継で録音に立ち会えたら一番いいんですけれど。

ちなみに、韓国語の声優が単語レベルで抑揚を間違える問題はほぼ起きません。これは高低アクセントがある日本語特有の問題でしょう。

話は変わりますが、数年前、大阪出身の方に「ペさん関西の出身ですよね?」と言われたことがありました。東京弁を話しているけど西のアクセントがときどき混じっているとのことでした。でも私は東京以外に住んだことがないので、その自覚がありません。

ところが最近、ある会議の文字起こしをするために、録音された自分の声を聞く機会があったのですが、気を付けて聞いていると、たしかにあやしいアクセントがいくつも混じっています。社内に関西弁でよくしゃべる人がいるので、それがうつってしまったのでしょうか。

前述した韓国での日本語のアクセント問題、声優さんの出身地やスキルの問題かもしれませんが、案外、韓国に住んでいて日本語に接する時間が少ないことにも原因を求められるかもしれませんね。

通信470 「学習書の音声ダウンロード方式の四つのメリット」 裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第470号 (2023年12月25日発行)

「学習書の音声ダウンロード方式の四つのメリット」  
HANA 裵正烈

=================================================

今日、ほとんどの語学学習書で音声が提供されています。でも私が大学生だった80年代後半、語学書に音声が付いていることはまれだったと記憶します。

別売カセットで音声を提供している場合がありましたが、二千数百円とか三千何百円とかを払って、本とは別途に購入しなければいけませんでした。音声はほしいけど高いので、複数名で同じ本を買い、カセットだけダビングして融通し合った人もいたのではないでしょうか。

私が韓国語の出版物を手掛けるようになった20年前には、もうカセットを見掛けることはほとんどなく、とっくにCD付き書籍という商品形態になっていました。音声が別売りではなく本に付属するようになって、音声自体の値段が劇的に安くなっていました。

そしていまやCDを回したことがないという世代が読者の中にも増え、家にCDを再生できる機器がない人も多くなりました。HANAでも、新刊の音声はすべてダウンロード方式になりました。

ダウンロード方式になってよかったことは、音声の制作において時間的な余裕が増えたことです。CDの場合は、製本と併行してCDのプレスを行う必要があり、CDの完パケ(制作終了・納品)は校了とほぼ同じタイミングでした。一方ダウンロードの場合、発売日までに音声をサーバーにアップすればよくなり、単行本の場合で2~3週間遅くてすむようになりました。日々締め切りに追われている立場からすると、これは大変ありがたいのです。本の編集を終えた後、校了した原稿で余裕をもって音づくりに取り掛かれるので、精度も増します。

よかったことの二つめは、本が出た後で音声の間違いを見つけてしまったときに、CDはその中身を変えられませんが、ダウンロード方式の場合修正して差し替えることができるということです。例えば音声の順番を間違えたなどの再録音がいらない修正なら、自分のパソコンで簡単に直して、差し替えてしまうことができます。

三つめは、単純にメディアとしてのCDの材料費や制作費が掛からなくなったことです。コストダウンなのでもちろんありがたいのですが、声優のギャラやスタジオ代、音声編集費はどのみち必要なので、音声制作費全体から見たらすごく大きな部分ではないとも言えます。

ここまでダウンロード方式の利点について見てみましたが、現実的には、CD再生以外の方法で音声を利用できないという人(ほとんど年配の方)がまだいらっしゃいます。そういう方がどうしてもCDをほしいという場合、HANAではCD-Rに音声を焼いて送ってあげています(送料分の84円切手2枚のみご負担)。韓国語の専門出版社HANAの使命として、どんな学習者も取り残さないという気持ちでやっているのですが、「いつまでやるんだ」という社長に対する批判が社内にあるのも事実です。

つい最近実際にあったケースでは、その本の音声全部を収めるのに、CDを6枚焼く必要がありました。私が担当した本だったので自らCDを焼いて送ることになりましたが、さすがに「こりゃやってられないな」と思いました。

CDには1枚最長80分ほどの音声しか収められず、最大2枚×80分が提供できる音声の限度でした。一方のダウンロード方式はサーバーの容量が許す限り無制限に音を提供できます。つい欲張り過ぎて、いろんな練習用音声を準備してしまうのです。これが四つめのメリットと言えるのかどうなのかは私にもわかりません。

最後に、HANAの韓国語学習書は高いというご意見をごくたまにいただくことがありますが、ダウンロードになったとはいえ、音声の制作にも相応の費用と労力を掛けている点、ぜひぜひご理解をいただきたいです。

通信461 「K-POPで韓国語? 英語?」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第461号 (2023年10月18日発行)

「K-POPで韓国語? 英語?」
ペ・ジョンリョル
=================================================

最近、大学の出身学部(外国語学部)の同窓会が主催するセミナーの企画を任されました。それで現役英語教師B先生に出演依頼をしにいったときのことです。「参考までに、A先生は倍数表現を取り上げるとおっしゃっています。twice, three timesとか…」「それ私も得意なやつですよ!」とB先生。そして提案されたのが「TWICEの歌詞で英語表現を学ぶ」という内容でした(以上実話)。

このTWICEはご存じ人気K-POPグループのことなので、わざと言ったのか、人の話をちゃんと聞いていなかったのかのどちらかですが、それはともかく、彼によると最近のK-POPは英語の歌詞が多く、生徒受けもいいので、英語の授業でよく取り上げているそうです(勤務校は英語の他に韓国語にも力を入れている日本の中学校です)。最近のK-POPには英語オンリーの曲もあるので、英語の授業で取り上げられてもなんら不思議はないですよね。

さて、小社に『K-POPで韓国語!』というシリーズがあります。2013年7月に1冊目を出してから、『K-POPで韓国語!2』『K-POPで韓国語!3』『K-POPで韓国語!4』と続けて出し、少し間が空いて5冊目の『K-POPで韓国語! 2017-2018』まで出版しました。

これらは本ごとにテーマや取り上げるアーチストを変えて、韓国語の歌詞を、発音どおりのハングルとフリガナ、文法項目などの丁寧な解説とともに紹介した学習教材です。人気のK-POPで韓国語が勉強できるとあってそれなりに売れましたが、作る側にとっても「歌詞ありき」でゼロから何かを生み出す必要がなく、最初に作ったフォーマットや作業要領を次作でそのまま生かせるので、かなり楽な本といえます。

もちろん歌詞を勝手に掲載することはできないので、著作権管理団体を通じて所定の料金を支払って利用しています。これも手続きの問題なので、一度経験したら難しいことはありません。

K-POPの人気はずっと高かったのに、なぜか2018年の5冊目以降続編を作っていませんでした。「韓国語の学習」という観点で見ると、冒頭で記したように英語が多い、韻やリズム重視で意味のないフレーズの繰り返しが多いなどの理由で、実際に使える曲が多くないという事情もあります。でも、久しぶりに1冊作ってみたいという編集者が社内にいるので、ぜひ最近の曲の中で、ネットワークの先生方のオススメを教えてほしいです!

もっとも「韓国語の学習」を重視するなら、バラードやドラマOSTがいいのかもしれません。個人的にはトロットや7080歌謡の名曲をやりたいのですが、「需要がない!」と社員から猛反対されそうです。