通信451 「ハン検1・2級受験者のための単語集を作りました」 ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第451号 (2023年8月1日発行)

「ハン検1・2級受験者のための単語集を作りました」
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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つい先日、544ページの本を校了しました。ハン検1・2級受験者を対象とした単語集『hanaの韓国語単語上級編 ハン検1・2級レベル』という本です。著者は本ネットワークの会員でもあるミリネ韓国語教室の金玄謹先生で、先生がご自身の学校で開催されてきた「ハングル検定1級・2級対策講座」の教材がベースになっています。

今回の単語集で取り上げた単語は5000語以上になります。まず固有語単語と韓日で漢字や用法が異なる漢字語(이재민[罹災民]=被災者、기상[気像]=気性など)を最優先に選び例文と例文訳、必要に応じて補足説明を加えました。その他、韓日で一致する漢字語や動植物名などは最短で覚えられるよう一覧掲載し、接辞、依存名詞、冠形詞も短い複数の用例とともに掲載しました。もちろんハングルと日本語の索引もあり、音声のダウンロードも可能です。

この本には、ハングル能力検定協会が発行する『合格トウミ上級編』の単語がほぼ網羅されています。本の設計にあたっては、字が小さくなりすぎないようにしつつも、1冊の本にいかに多くの語彙を効率的に入れられるかという点に気を配りました。その結果、B6判で544ページ、背幅26㎜の本になりましたが、必要なものはなんとかギリギリ収めることができたと思います。

弊社内に1人、ハン検1級所持者がいますが、検定試験の頂点ともいえるハン検1級合格のためには、この本で取り上げた上級単語に準2級以下の単語も加えたボキャブラリーが当然必要で、彼女はこれらすべてを覚えたそうです。ハン検の5級から準2級までの出題範囲は7000語弱(弊社調べ)なので、上級単語と合計すると、1万2000語くらいのボキャブラリーは必須とされるわけです。

本を作ってみてよくわかったことは、私が1級を受験したら確実に不合格になるということです。2級もあぶないと思いました。普段から韓国語を使って仕事をしてはいますが、だいたいわかったつもりになっているだけなのでしょう。1級に受かるくらいのボキャブラリーを身に付ければ、聞き取れる韓国語の「解像度」が高まるでしょうし意思疎通や読書、映画・ドラマ鑑賞などをもっと滑らかに進められるのは間違いないと思いました。久しぶりに学習意欲が湧いてきたので、本が出たら、自社のこの本で勉強しようと考えています。

ハン検のHP(https://hangul.or.jp/siken-top/pastexam/)に掲載されている今年春の出願者数を見ると、1級が120人(受験者106人、合格者20人)、2級が426人(受験者370人、合格者70人)とのこと。1・2級共に合格は狭き門ですが、前回は1級合格者が20人も出たと(多すぎると)話題になったそうです。

会社としては採算度外視の本ですが、いつかは元が取れるよう、今後検定上級の受験者が増加することを期待しています。本は8月12日頃から店頭に並ぶ予定です。

通信441 「日本のオーディブックの状況」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第441号 (2023年5月19日発行)

日本のオーディブックの状況
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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先日久しぶりに新宿で会食し、2次会でゴールデン街に足を伸ばしました。ご存じの方も多いと思いますが、新宿のゴールデン街は、新宿区役所の向かい側に幾つもの細い路地に小さなスナックやバーがひしめき合っている地域で、約300件もの店があるといわれています。

行ってみると、路地が外国からの旅行者でごった返していました。多くの、いやほとんどの店が彼ら・彼女らに埋め尽くされ、街全体が外国勢に占拠されている感じです。これでは古いお客さんは行きつけのお店にいって落ち着いて飲めないでしょう。でも一方で、ここはただの酒飲みから著名文化人まで多種多様な背景の人たちが気安く接し、言葉を交わしてきたそんな場所ですから、今後面白い空間になるのではないかとも思いました(私が行った店では、お店の女性がスマホアプリの通訳機能を使って会話していました)。

実はこの日、オーディオブックに力を入れている韓国の出版社の方を接待しました。そこでは韓国の著名俳優を起用した『100인의 배우, 우리 문학을 읽다』『100인의 배우, 세계문학을 읽다』という商品を出しています。朗読している俳優たちはチェ・ミンシクをはじめそうそうたる俳優たち。韓国語の学習にも活用できそうです(USBメモリー付きの書籍が販売されています。ただし原作のテキストは含まれていません)。

私がオーディオブックというものを意識したのは、20年ほど前、韓国語の学習雑誌を始めてからのことだったと思います。特にアメリカは車社会なので、小説などを音声で聞く習慣の人も多く、かなり普及していると聞きました。

それをきっかけに、学習者が文学作品を韓国語の音声で楽しむ、そんな企画をできないかと考えるようになったのですが、学習者が韓国語の音声だけで文学作品を楽しむのはかなり難しいですし、またその原文と訳も確認したいでしょう。結局、原作ではなくリライト、オーディブックではなく対訳本に音声が付いた形に行き着きました。

『多読多聴の韓国語 やさしい韓国語で読む世界の名作文学』というCD付きの本がそれです。2011年に出したときはまったく売れず、19年に改訂してからは何度か増刷するくらいにぼちぼち売れています。この本の後に、リライトではなく書き下ろしですが『やさしい韓国語で読む韓国の昔ばなし』『やさしい韓国語で読む韓国人物伝 歴史編』という本も出しました。次は『やさしい韓国語で読む韓国名作文学』も出そうと、書きたまった原稿はあるのですが、まだ実現に至ってはいません。

今回韓国からお客さんを迎えることになって、日本のオーディオブック市場について少し調べてみました。日本では「オトバンク」とamazon傘下の「Audible」が主なオーディオブック提供サービスとのこと。Audibleは日本語の作品の他、英語の作品が幅広く選べ、オトバンクは日本の俳優・声優による朗読作品が主で、アニメキャラがアニメと連動して名作を読んでくれる「朗読少女」というアプリも出しています。

一方韓国語のオーディオブックは韓国に윌라というストアがあることは知っているのですが、日本からだと決済ができないようです(윌라については弊社の『hana Vol. 47』でも紹介しています)。

出版業界紙『新文化』(2023年4月27日号)の記事によると、2018年に30億円だった日本のオーディオブック市場は20年に70億円を超え、24年度には240億円に達する予想だそうです。ものすごいスピードで広がっていることになります。

通勤しながら、家事をしながら、ジムでエクササイズをしながら聞いているという人が増えているのではないでしょうか? やはりスマホが普及したことが決定的な要因でしょうね。

私も最近体力作りに励もうと「●●●ザップ」に入会したので、運動と語学学習を一緒にできるようオーディオブックの作品を物色してみました。問題は仕事が忙しくて余裕がなく、たまに行って体を動かすと、その疲れで風邪を引いたり、体に不具合が生じたりして、ジム通いが続かないことです。それでいまだに体力作りの入口にも、オーディオブックによる語学学習の入口にもたどりつけていません。

通信434 「韓国語業界の世代交代 」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第434号 (2023年3月28日発行)

韓国語業界の世代交代 
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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某大学で教授を務められている先生から3月で定年退職されるとの連絡をいただきました。私が韓国語を手掛けるようになった20年ほど前、すでに韓国語の学習書を出版されていて、NHKテレビのハングル講座も担当されました。私も2002年に立ち上げたばかりの『韓国語ジャーナル』でずいぶんお世話になった方です。でも、ご退任のニュースを自社内で共有する際に、その先生を知らないスタッフが何人かいたので、どんな先生でどんな関わりがあったかを説明する必要がありました。

今年は「韓流20周年」に当たるとのこと。この韓流をきっかけに韓国語学習の一大ブームが起きました。当時から継続的に学習を続けている人は学習歴20年ということになりますが、弊社への読者ハガキなどで読者の学習歴を見ると、このブームをきっかけに韓国語を始めた(可能性のある人は)ごく少数です。これは今に始まった話ではなく、『韓国語学習ジャーナルhana』を創刊した2014年当時もそうでした。弊社の中上級レベル書籍の読者の中には、学習歴数年という人も結構います。

この20年の間に、教える方側も学ぶ側も絶え間なく世代交代しているわけです。制作する側もそうだと思います。その中にあって、幸いなことに私はいまだ現場との関わりが少しあります。それ以前の草創期に活躍された大先生たちとも仕事をする機会があったので、このまま元気に仕事を続けられれば、この分野の生き字引の一人になれるかもしれません。

何年か前にある出版社の知人に聞いた話ですが、その会社では企画書を出すとまず聞かれることが「著者はネットで有名なのか? フォロワーはどれだけいるのか?」だそうです。今は出版社がユーチューバーの人気に便乗して本を売る時代です。韓国語学習書も例外ではなく、ある大手出版社は、ユーチューバー、ブロガーなどのネットで人気のある人をどんどん起用し、韓国語学習書の分野でどんどん実績を上げています。

弊社は他の出版社の下請けの仕事もやっていたので、こうした本の校正依頼をよくいただきました。そうした仕事の中には、著者の方が原稿を書くことに慣れておらずなかなか大変なときもあります。やるからには手を抜かずに仕事するので、校正紙が文字通り「血の海(修正指示の赤字だらけ)」になるのですが、こうなると仕事としても手が掛かりすぎて割に合いませんし、それ以上に自社の最も貴重なリソースを浪費して競合商品の付加価値を高めてあげているようで、かなり複雑な心境になります(なので最近この手の仕事は断っています)。

もちろんネットで人気を集めている韓国語の先生の中にはしっかりした内容を配信されている方もいらっしゃいます。逆にユーチューブに新たな活動の場所を作ろうと積極的に行動されている「旧世代」の先生もいらっしゃいますね。HANAでもそういう先生の本を出しています。つまり先生の人気に便乗することをやっているので、他社を悪く言うことはできません。大事なことは、こうして学習者にとって選択肢が増えることが韓国語の普及のためにとても望ましいということだと思います。

ただし、ネットから無料で学べる世の中にしてしまうと、紙の本を商売としている自分の首を絞めることになります。ブログ、メルマガ、ツイッター、インスタ、ユーチューブと、どうすれば次々現れる新しいメディアを自社のビジネスに役立てることができるかと、日々苦慮しているところです。

通信426 「大量の本を収める本棚」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第426号 (2023年1月30日発行)

大量の本を収める本棚
株式会社HANA 裵正烈
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弊社は韓国語の専門出版社ということもあり、気になる韓国語学習書、参考になりそうな韓国語学習書があったら参考資料としてちゅうちょせずに購入しています。また弊社の雑誌『韓国語学習ジャーナルhana』のインフォメーションページで本の紹介を行っていることもあって、多くの出版社さんからも新刊の見本が送られてきます。そういうこともあって、韓国語学習書の蔵書が増えており、年末にざっと数えてみたところ1000冊を越えていました。一方で日々増えていく本をどう収納していくのかという問題があります。今日は韓国語とはあまり関係のない、本棚のことについて少し書いてみたいと思います。

今日、本棚もしくは本棚になり得るさまざまな収納棚が市販されていますが、多くの本棚の奥行きは30cm以上あります。30cmという奥行きは結構なもので、私たちの狭い室内空間をさらに狭めます。30cmという奥行きは本を収めるにも広すぎて、本を置いた前の空きスペースにさらに本や物を並べることになりがちです。すると背表紙が見えなくなった奥の本がすぐに見つからなくなったり、奥の本を取り出すのに前の本や物をまずどかす手間が生じたります(取り出した本を戻すときも、さらに同じ手間が生じます)。

市販の本棚に関する私のもう一つの不満が、木くずや紙を接着材で固めた素材(板)にあります。ケミカルで長持ちしない、大量生産・大量消費の負の象徴のようなもので、時にわざわざ木肌のプリントを表面に施したりしているのを見て、そのチープな意図に嫌悪感を感じたりもします。

まあ、後者は個人の嗜好の問題なのでさておくとして、要は、余裕のない室内に大量の本をしっかり、機能的に保管できるぴったりの商品がないと常々感じているということです。そしていい商品がないのなら、自分で本棚を作ってしまうのが自分にとっての最適解の一つということになります。

語学学習書で一般的な本の判型と左右幅は、

B6判 12.8cm(CD付きのB6変型は13.1cm)
A5判 14.8cm
B5判 18.2cm

です。雑誌によく見られる大判のA4でも21cmなので、棚板の奥行きが20㎝程度の本棚を作れば、ほとんどの本が無駄なく収まります(奥行き30cmがいかに本に合っていないか分かっていただけるかと思います)。

それで弊社では、加工しやすいシナ合板(182X91cm)を幅20cmでカットしてもらい本棚を組みました。それを階段の脇などのスペースにぴったり合わせて設置しています(写真)。写真の4列の本棚には1000冊以上の韓国語学習書が収まっていますが、同様の本棚が一つ上の階の階段とフロアにもあります(これらは韓国語学習書以外で使用)。板の厚みは最初にお金をケチって1.5cmにしたので、すべてそれで統一しましたが、これはあきらかに失敗でした。1.8cm厚や2.1cm厚にすればより強固な本棚になったのにと後悔しています。

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なお会社の棚では合板を使用しましたが、自宅の本棚は1X8(ワンバイエイト=幅18.4cm、厚さ1.9cm、長さはいろいろ)という規格の使いやすく廉価な無垢板で作りました。好きなオイルやワックスで塗装を行い、無垢材本来の木目や質感、経年変化の味わいを楽しんでいます。

多くのホームセンターでは木材カットや電動工具、軽トラック貸し出しなどのサービスを提供しています。カットしたパーツを持ち帰って組み立てるだけなら、もちろん個人によりますが、作業自体の難易度はさほど高くはないはずです(組み立ての際、電気ドリルは必須)。手間はかかりますが、同等の市販品を買うよりは費用も安く済むと思います。

以上、私の本棚についての個人的な考えと経験を記しましたが、作り方についてはあまりにアバウトな説明だったかと思います。「清く正し本棚の作り方」というサイト(https://www.todaproduction.com/books/bkshelf/bkfrm.htm)には、上記のような本棚を作る根拠や方法がより具体的に説明されており、その内容は書籍化もされています。本棚の自作に興味がある方はぜひご参照ください。

通信420 「『English Journal』休刊のニュースに触れて」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第421号 (2022年12月15日発行)

『English Journal』休刊のニュースに触れて
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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私が以前勤めていたアルクという出版社から出ていた『English Journal』という雑誌が休刊するとのニュースに接しました。同社のリリースには次のように記されていました。
「「使える英語」「生きた英語」にこだわった本誌は、希有な教材として多くの英語学習者から支持されました。しかし、雑誌市場が加速度的に縮小する昨今、紙の定期刊行物として維持することが困難となり、休刊を決定した次第です」
実は同社ではこれに先立ち、「1000時間ヒアリングマラソン」という通信教講座の終了も決定しています。これらは50年前から先進的な英語教材を提供してきた同社を象徴する商品でもありました。
実際に日本国内で英語を熱心に学んだ人の中には、この二つの教材のお世話になった人が少なくないと思います。20年以上前、朝鮮高校の英語教師だった私も数年にわたってこの通信講座を受講していました。英語圏から非英語圏まで多様な分野の人々への英語インタビュー音声を収めたカセットテープ、その音声を書き起こした記事と対訳の冊子、さらに『English Journal』が毎月送られてきました。当初の実力ではナチュラルスピードの音声に全くついていけず、何とか聞き取れるようになろうと、テープがすり切れんばかりに何度も聞いたものです。
後日私がこの出版社の入社試験を受けたのは、これらの教材を通じてこの出版社に強い信頼を寄せていたからに他なりません。幸いにも英語の編集者として中途採用された私は、ここで本の仕事をゼロから覚え、2002年に『韓国語ジャーナル』という雑誌を創刊しました。『韓国語ジャーナル』では生きた韓国語にこだわりました。出演者が原稿を読み上げるのではなく、台本を基にインタビューや対話、トークを行う、ラジオ番組形式の韓国語音声を付録CDに収め(ただし司会・進行は、標準的な韓国語を駆使するプロのアナウンサーです)、それを書き起こした原稿と対訳を提供しました。このように手加減のない自然な韓国語を聞かせる教材は当時としては他に例のないものだったと思います。これらの発想の源泉はすべて先ほどの「ヒアリングマラソン」『English Journal』にありました。現在の私の出版社から出ている『hana』でも、CDがMP3ダウンロードへと形を変えはしましたが、生きた韓国語を聞かせるという音声のコンセプトをそのまま受け継いでいます。
この通信講座と雑誌がなかったら、『韓国語ジャーナル』『hana』は間違いなく生まれていませんでした。『韓国語ジャーナル』の創刊から今日までの20年間ずっと韓国語出版の世界で生きてきた私も、これらがなかったらどんな違う人生を歩いていたかなと思うときがあります。

通信410 「オンライン教室の「海外展開」で生じること」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第410号 (2022年10月3日発行)

オンライン教室の「海外展開」で生じること
株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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弊社のオンライン韓国語スクールはこの9月で開講2周年を迎えました。2020年4月コロナ禍の発生とともに自社1階の教室は閉鎖、同年8月にオンライン授業を試験的に行い、9月から本格稼働させました。集客に大変苦労した時期もありましたが、担当スタッフの頑張りもあって少しずつ軌道に乗ってきたように思います。

当初の受講者は首都圏に住んでいる人がほとんどでした。そのうちに地方からの受講者が少しずつ増えてきて、いまではだいたい3、4割くらいが首都圏外からの受講でしょうか。もっともこれは授業での自己紹介などを聞いた大体の印象であって、申し込みの際に住所入力欄がないので正確なことは分かりません。さらに最近では海外からの申し込みもありました(韓国はもちろんヨーロッパからも!)。

ところでこのたび、海外からの受講を希望する人から「海外居住者の消費税免税はないのか」とのお問い合わせをいただきました。それで調べてみたのですが、海外居住者の場合、どうやら授業料は免税になるようです。

■国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/cross/01.htm
※冒頭の図表中、③の「改正後」が今回のケースに該当すると思われる

当スクールでは授業料はすべて税込で提示しているので、上記のケースを当てはめると授業料から消費税分を差し引く必要があります。正直こういったことは想定にありませんでした。今後は海外居住者が受講する場合の決まり(消費税免除を望む場合どの証明書を示してもらうかなど)を作らないといけませんね。

また、当スクールでは今年の7月から韓国にいる韓国人の先生に講座を持っていただいています。

■元アナウンサーから学ぶ!韓国語学習者のための朗読講座
https://www.hanapress.com/archives/15226

日本語を一切介在させない授業ですが、正確な発音と落ち着いた話術を駆使する元アナウンサーの先生ということもあって大変好評でした。10月開講の次回講座は申し込み開始後あっという間に8人の定員が埋まってしまいました。

オンラインなら、先生が韓国にいても日本にいても授業に大きな差は出ません。多くの韓国語学習者の関心は韓国に向いていると思いますし、韓国にいて現地の空気を吸っている人の授業や講義をリアルタイムで受けることは刺激にもなるのではないでしょうか。当スクールでは、機会があればですが、韓国にいる先生の授業も増やしていきたいと考えています。

授業担当として韓国にいる先生をフル起用するのは難しくても、ちょっとした機会に韓国にいる知人や友人に画面越しに登場してもらって、クラスの受講者とやり取りを行ってもらうことはいい刺激になるのではと思います。Zoomなどのオンラインシステムを使うと、こうしたことを容易に行うことが可能ですので、ぜひおすすめしたいです。

なお海外居住者に講師料などの支払いを行う際には、原則として所得税を源泉徴収しないといけません。源泉徴収額は支払額の20%となっていますが、「租税条約に関する届出書」という書類を事前に税務署に提出すると10%に減免されます(書類の作成自体はさほど難しくありません)。こうした手続は面倒なので、単発の仕事などで支払額が少額の場合は、弊社では各種プリペイドカードを代わりに送ることもあります。

※ここでいう「海外居住者」は、滞在資格、国籍、振込先銀行口座が問題ではなく、日本以外の国に住んでその国で納税を行っている人を指すものと私は理解しています。とはいえ私は税について明るくないので、上記認識や記載内容にもし誤りがありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。

通信402「値上げの影響は本の売り上げにも」裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第402号 (2022年8月9日発行)

値上げの影響は本の売り上げにも
裵正烈
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最近あきらかに本の売り上げが落ちてきています。6、7月の実績をみると、自社の売り上げが昨年同時期に比べて3割は減っている感じです。

「値上げ、値上げ」とマスコミが繰り返し流し始めたのが、ちょうど同じくらいのタイミングではなかったでしょうか。「光熱費や食材費を節約することがあっても、本代だけはケチらない」という人は世の中では少数派だと思いますし、書籍代は家計が厳しくなるとまっさきに絞られるものの一つです。「韓国語学習熱の高まり」という別の要素もあるのですが、この秋・冬にはさらに値上げが続くということなので、会社の社長としては「経営上の大きな危機」と捉えています。

さて、弊社HANAは、ほぼ韓国語一本で出版活動を続けてきたこともあり、この分野ではそれなりに知られた出版社だと自負しています。そういうことから、「HANAから本を出したい」と言ってくださる方がいらっしゃいます。大変光栄なことですが、ときには「他社で出した方が売れると思うんですけど、うちからでいいんでしょうか?」と正直にお伝えすることがあります。

HANAには営業を担当する社員が一人しかおらず他の仕事も兼任しているので、営業担当の社員を二桁も抱えているような出版社には販売面で太刀打ちができないのです。全国の書店をあまねく回ることは不可能ですし、首都圏の書店に限るとしても月に1度の訪問が精一杯です。営業部員が多い出版社は、それこそ毎週のように、さらには週に何度も主要書店の店頭に現れて、棚の整理もしていきます(業界の慣習で、外部出版社の営業が店の許可を得た上で売り場の本の並びを変えることがあります)。

例えば、HANAの新刊が出るときに平積みにしてもらったとします。ところがこちらからはなかなかその後のフォローができないので、他社から次々発売される新刊に押し出されて、平積みだったものが数週間後には棚に移され、数カ月後に返品されて店頭からなくなることもしばしばです(売り場のスペースは有限なため)。もちろん平積みのときに動きがよい本などは、この限りではありませんが。

それで弊社の本でよくあるパターンが、発売直後によく売れて増刷を掛けたら、2刷以降ぱったりと売れ行きが止まるというものです。在庫が減らず「売れておかしくない本なのになぜ?」と思って調べると、書店の店頭にほとんど置かれていなかったといったことがよくあります。いくら本の内容が良くても、店頭にない本が売れるわけがありませんね。

もっと売れるはずなのに動いていない、もっと読者に使ってほしいと思う本がいくつもあるので、8月から営業社員を一人雇用することにしました。景気の落ち込みが続く最中に社員を増やすことに心配は尽きないのですが、営業人員を2倍にして一度出した本を少しでも長く多く売る。これは今回の危機への対策でもあります。

通信387 『韓国語ジャーナル』創刊20周年 裵正烈

【週刊ハンガンネット通信】第387号 (2022年4月18日発行)

『韓国語ジャーナル』創刊20周年 
株式会社HANA 裵正烈
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今月発売された『韓国語ジャーナル 2022』が私のもとに送られてきました。アルクが2002年から発行しているこの雑誌のことを、ご存じの方は多いと思います。今年が創刊20周年になるとのこと。20年の歴史はひとえにこの雑誌を続けて発展させてきた来た人たちあってのことで、私はほとんど部外者なのですが、創刊に関わった者として、当時の話を少ししたいと思います(創刊当初は「1人編集部」だったので話せる人間が私しかいません)。

朝鮮学校の英語教師から出版社の編集者に転身して3年目だった私は、その前年に『中国語ジャーナル』が創刊されて成功を収めたことにも勇気づけられ、この雑誌の創刊を考えつきました。キャリアは浅いものの、留学雑誌と英語検定試験の対策本の制作を通じて雑誌と語学書の作り方を一通り身につけていましたし、それに加えて学校で培った語学が私にはありました。

その頃まで韓国語は、一般にマイナーな言語とみなされていたと思います。私自身もそれを学ぶ人たちに対する認識があいまいだったのですが、調べるうちに、想像以上に韓国語の学習熱が高まっていること、幅広いきっかけや関心から学んでいる人、それこそ英会話を学ぶような感覚で韓国語を学んでいる人がいることが分かってきました。そういう人たちに、ビジュアルを通じて新しい韓国の姿を知らせて、生きた韓国語の素材で学習を後押しする新しい雑誌が必要だという考えに至りました。

とはいえ、韓国語の本を作るうえでの環境や人脈がゼロに等しいところからのスタートでした(この話は長くなるので割愛)。もう一つの大きな問題が、社内で企画が通るかどうかということでした。

準備に着手したのは2001年の10月頃。企画案を練り、営業部署と一緒に数字を練り込み(営業部に韓国語の学習者がいたこともあって協力的だった)、12月の企画検討会議に乗り込みました。社長をはじめとする重役、部署責任者の前でプレゼンを行い、その場で企画の可否が判定されるのですが、通常なら流れ作業で結論が出るところ、このときは1時間近く議論が続くこととなりました。当時は韓国語の学習雑誌がどんなものになるか、それをどんな人が買うか想像できる人がいないわけです。しかも単行本と違い、雑誌は費用もかかり、毎号出し続けなければいけません。プレゼン直後は好意的な雰囲気だったものの「韓国語の雑誌なんかが売れるのかね? 売れたとしてもいいとこ3000部じゃないの」と最後まで反対し続けたのが社長だったので、しまいには皆沈黙してしまいました。業を煮やして司会者が「結局どうればいいんですか?」と言うと、「じゃあまず1号だけやらしてあげよう。赤字が出たらその時点で終わり」との社長の一声でかろうじて承認されました。

発売日は、日韓共催ワールドカップの開催に合わせて2002年6月30日ということになりました。文字通りの1人編集部を立ち上げて、(ここからの制作過程の話も長くなるので割愛)、無事期日どおりに創刊を果たしました。当時日本のテレビで売れ始めていた韓国の女優(ユン・ソナ)を表紙モデルに起用し、彼女の韓国語のロングインタビューなど、生きた韓国語をふんだんに収めたこの雑誌は、学習者にも韓国語の新しい時代を感じさせるものであったと思います。売れる自信があったかというと、分からなかったというのが正直なところ。発売日が土曜日だったのですが、月曜日に出勤してほどなく「朝から書店の注文で電話が鳴り続けています」と営業部から連絡が来ました。それで、やっぱりこういう雑誌を待っていた人がいたんだと安堵したことを覚えています。創刊号は発売後すぐに増刷が決まり、最終的に5万部近くまで部数を延ばしました。その翌年『冬のソナタ』の放映をきっかけに韓流ブームが起こり、さらに大きな韓国語学習ブームが起きたのはご存じの通りです。

私は17号まで編集長を務めて雑誌を離れ、自分の出版社HANAを立ち上げて韓国語学習書の制作や出版を手掛けるようになりました。『韓国語ジャーナル』は後を引き継いだ人たちにより10年の間発展を続け、2013年に44号をもって一旦休刊となりました。私の出版社では、その休刊を受けて、2014年に『hana』という雑誌を作り今に至ります。そして『韓国語ジャーナル』も2020年に復刊を果たし、以後年1回のサイクルで発行されています。一度休刊になった雑誌を復刊させるのは、創刊するよりはるかに難しいと思います。これは本当にすごいことで、復刊後、年度版としてすでに3年出し続けている編集長には心から賛辞を贈りたいです。そっちがあまり売れるとこっちのものが売れなくなりそうなので微妙な思いもありますが、なにより学習者にとって、選択肢が増えるということは望ましいことではないでしょうか。

余談ですが、『韓国語ジャーナル』が10周年を迎えた際に記念イベントが開かれ、私も招かれたので行ってきました。すると、創刊に最後の最後まで反対した社長が「どうやら『韓流が来ている』ということで、私がこの雑誌をやってみたらどうかと、やらせてみたところ大ヒットしました」とあいさつしたのには、心底驚かされました。でも、仮にあのとき「ゼロ回答」だったら、今こうしてこの通信を書いている自分はいませんし、HANAという出版社もありませんから、条件付きでもやらせてくれた社長には恩を感じています。

通信380「用言の見出し語が活用形になっている単語集」ペ・ジョンリョル

【週刊ハンガンネット通信】第380号 (2022年2月21日発行)

用言の見出し語が活用形になっている単語集
HANA  ペ・ジョンリョル
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単語集などで、見出し語に動詞や形容詞などの用言を示す際には、ほとんどの場合、基本形(辞書形)を掲載すると思います。ただし弊社で昨年出版した『hanaの韓国語単語 超入門編』という本では少し違う形を取りました。それは何かというと、用言の見出し語をヘヨ体現在形にしたのです。たとえば「가다」や「먹다」ではなく、「가요」「먹어요」を見出し語にしたわけです。

その狙いは、本のレベルが「超入門編」ということで、片言でもカタカナ発音でもすぐに口に出して使える形で読者に用言を覚えてもらおうということに尽きます。すぐに使えるためには「カダ」「モクタ」よりまず「カヨ」「モゴヨ」を覚えよということになります。

独学用教材はハムニダ体よりヘヨ体を先に学ぶものが多く、入門レベルの学習者はヘヨ体を見慣れているはずなので、ヘヨ体の見出し語に大きな違和感はないはずです。さらに基本形を意識しないのなら、変則活用は気になりません。また「カヨ」「モゴヨ」からは、「カッソヨ(갔어요=行きました)」「モゴッソヨ(먹었어요=食べました)」などの過去形を直接作りやすい。韓国の友達(同級生)たちと親しく話したい中高生や大学生にとっても、「カヨ」「モゴヨ」からヨを取って「カ(가=行くよ)」「モゴ(먹어=食べるよ)」などパンマルをすぐつくることができます。とはいえ、いずれ基本形に向き合う必要はあるので、本には基本形も小さく書いてあります。

独学書は飽きずに学んでもらえる工夫が必要ですし、この本は学習の入り口の本ということで、上記のような工夫を行ってみましたが、この試みがうまくいったかは分かりません。「見出し語がヘヨ体で書いてあるのが気に入りました」というネット書店のレビュー(若干1名)があったことはうれしく思いました。

読者の選択肢を広げるためのこのような単語集もありますが、韓国語の専門出版社としては、最初は遠回りでも長く使える知識をきちんと学んだ方が結局は近道で、学習者には早い段階から体系的な文法知識を身に付けてほしいというのが基本的な立場です。弊社には上記の本の他にもいくつかの単語集がありますが、それらすべて用言は基本形が見出し語です。