【週刊ハンガンネット通信】第447号 (2023年7月3日発行)
外国語が突然聞き取れるようになる瞬間
伊藤耕一
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マレーシアに来て1年半が経ちました。
私がマレー語の勉強を始めたのは、マレーシアに行って欲しいと言われた翌週、2020年9月頃でしたので、そこから数えると、2年9ヶ月ほどになります。
テキストが欲しいと思い、長野県内の大きめの書店を訪れて探しましたが、インドネシア語のテキストは何冊もある一方、マレー語のテキストは1冊しかなく、選ぶこともなくそれを買い求めました。
これは後から知ることになるのですが、インドネシア語とマレー語は基本語彙は共通であるものの、インドネシアはオランダ語の語彙を受け入れ、マレーシアは英語の語彙を受け入れたため、植民地になった後に語彙や言い回しの違いが鮮明となり、意思疎通が難しい場面が出てきているとのことです。
またある方が「マレー語は抑揚の幅が小さく、インドネシア語はより抑揚の幅が大きい。」とおっしゃることを聞いたことがあります。
適切な例えかどうかは分かりませんが、青森弁で話す人と鹿児島弁で話す人が、共通語を使わずにお互いの方言で話すようなイメージなのかなと想像します。
話を元に戻しますが、2年9ヶ月と1年半のいずれの期間を考えるのかは横に置いて、1ヶ月ほど前に、待ちに待った「突然聞き取れる瞬間」が訪れました。
マレー語もやはり、この瞬間は突然に訪れました。例えば買い物に行ってのやり取りで、マレー語で話されても、何を言っているのかは理解できるようになり、その場で、聞き返したいと思うことが激減した感じです。
その瞬間を確信した一つの場面はコーヒーショップでのやり取りで、「砂糖は入れますか」「持ち帰りますか」「少し離れて待ってください」「現金でしか支払いできません」といった会話がスッと理解できた時でした。
それまでは「Yes, please.」「No, thank you.」「OK.」という返答を、分からない時は適当に言っていたので、時々砂糖入りのコーヒーが出されることもあったのですが、最近は完ぺきにブラックコーヒーを注文できるようになりました。
確信したもう一つの場面は、会社の研修をホテルの会議室でやることになり、その予約に出向いた時です。
実際のやり取りは同行した同僚がしてくれるのですが、そのやり取りもほぼ理解できました。
A:少し大きめのA室と小さめのB室があるのですが、どちらが良いですか?
B:実際に見て確認したいので、案内してください。
A:会議室は3階なので、エレベータの前で少しお待ちください。ご案内します。
A:A室は机を8つ並べられるので、16人ほど入れます。B室は机6つほどなので、12人ほどですが、いかがでしょうか。どちらもプロジェクターとマイクはご用意できます。
B:A室の方が良さそうですね。
A:休憩時には飲み物と軽食をご自由にお召し上がりください。外の共通スペースに用意します。昼食は4階の部屋にご用意します。
このような内容でしたが、全ては聞き取れないものの、要所要所の数字と単語は理解できたので、感想を求められても即答できました。
その日は家に帰ってから、どうして聞き取れたのか考えてみました。
1つ目は、その方のマレー語の発音が良く、ゆっくり話してくれたことです。
知っている単語はほぼ聞き取れ、知っている単語に挟まれた知らない単語は頭の中で識別できて、理解しようとせずに飛ばしていたように思います。
おそらく、知っている単語同士を結び付けて、知らない単語を類推していたのではないかと思います。
つまり、今までは聞き取りに全集中していて余裕がなかったのが、聞き取れる単語への集中が不要になって、知らない単語を類推する余裕が頭の中にできたのではないかと思います。
2つ目は、話そうとする文章を頭の中で作文できるようになったことだと思います。
単文ではあり、語彙力の範囲内ではありますが、どの品詞の語彙をこの文章に当てはめるかを、覚えた語彙群から引っ張り出す作業ができるようになってきました。
分からない単語がある時は英語で代用すれば、ほぼ通じることも分かってきました。
聞き取りはその逆の作業ですが、聞き取った単語がどの品詞で何の意味なのかを、知っている語彙群と照合するような作業が瞬時にできるようになったのではないかと思います。
前者は相手に依存せざるを得ませんが、後者は作文力を鍛えることで自分で高めることができるのではないかというのが私の仮説です。
「作文力が上がれば聞き取り力も上がるのではないか。」と考えるに至ったので、これからはマレー語の作文に集中的に取り組んでみようと思います。
以前の通信で「話す>聞く>読む>書く」が能力の順番と書きましたが、最も弱い「書く」を鍛えると「聞く」に良い影響が及ぶのではないかと考えました。
まるで人体実験のようになってきましたが、実践を通じてこの仮説を検証してみたいと思います。
