【週刊ハンガンネット通信】第453号 (2023年8月14日発行)
「学習の評価について 」
田附和久
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私は、高等学校と一般市民対象の教室、それぞれで長く韓国語教育に携わってきました。同じ韓国語教育といっても、高校と一般対象の語学教室とでは多くの違いがありますが、もっとも大きく異なるのは、学習の評価に関する点です。
現在私は一般を対象とした教室では、定期試験等は実施しておらず、成績表を渡すこともしていませんが、学校では必ず学期末ごとに成績評価を行い、それを成績表の形で学校を通して本人に伝えなくてはなりません。学校の成績は、受講者のその後の進路、人生に大きな影響を与えるため、客観性、公平性が厳しく問われます。疑義が生じたときには、成績を算出した根拠をきちんと示さなくてはなりません。
高校の成績というと定期試験の結果に基づいた5段階もしくは10段階の評価・評定を思い起こす方が多いと思いますが、2022年度の学習指導要領改訂に伴い、日本全国の高校では昨年度入学生から全ての科目において「観点別学習状況の評価」(観点別評価)というものが導入されるようになりました(小・中学校ではすでに以前から導入されています)。これは、「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「主体的に学習に取り組む態度」の3観点別にそれぞれA・B・Cの3段階で評価し、それをもとに1~5の評定をつけるという評価法です。
この新しい観点別評価の背景には、従来の知識偏重の教育ではなく、知識及び技能の習得と、思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視した「主体的・対話的で深い学び」を目指すという新学習指導要領の基本方針があります。新学習指導要領では、知・徳・体にわたる「生きる力」を育むために、全ての教科が、①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の3つの柱で再整理され、観点別評価の3観点もこれに基づいて設定されています。
観点別評価が基本方針として目指しているのは、①児童生徒の学習改善につながるものにしていくこと、②教師の指導改善につながるものにしていくこと、③これまで慣行として行われてきたことでも、必要性・妥当性が認められないものは見直していくこと、の3点です。企業で働いていらっしゃる方には古くから親しまれているPDCAサイクル(Plan
計画、Do 実行、Check 評価、Action 改善 の循環プロセス)が、近年では学校教育の現場でも強く意識されるようになっています。
ここまで長々と理念的な話を書きましたが、実際のところ、観点別評価の導入によって高校の教育現場がどのように変わったかといえば、正直な話、まだ評価法が確立せず、かなり多くの学校で混乱が見られているのが現状であろうと思われます。
いくら理念が立派でも(理念が立派であるだけに)、それを現実に実践しようとすると、多くの準備が必要となります。従来であれば、普段の小テストや授業態度等から算出される平常点と期末試験の点数との総合によって比較的機械的に成績を出すことができましたが、観点別評価を実施するためにはそれだけでは足りず、思考力、判断力、表現力を評価できるような課題や、主体的に学習に取り組む姿勢を評価する方法等をきちんと考えておかなくてはなりません。私が担当している韓国語の授業でも、通常の期末試験のほかに、おぼえた単語や表現を用い、思考力、判断力、表現力を発揮して発表を行ってもらう課題(例えば、ソウル旅行計画を作成して発表する等)を出題していますが、初学者の段階でそれだけの発表を行えるようにするためには、あらかじめ様々な仕掛けを用意しなくてはなりません。正直な話、授業準備の時間がいくらあっても足りないほどです。それでもまだ外国語は、こうした課題を作成しやすい科目であるように思います。体育や音楽等の実技中心科目の先生方は相当苦労されていることでしょう。一方で、教師の過重労働が問題となり学校でも働き方改革が叫ばれる中、多くの先生方がこれまで以上に時間のやりくりに困っているのが大半の現場の実状であるようです。
さて、冒頭で、私は一般対象の教室では現在定期試験実施に基づく学習評価は行っていないと書きましたが、一般対象の授業であっても学習評価自体はきちんと行い、その評価を受講者に伝えるべきだと考えています。正しい評価活動を通してこそ、学習者は自らの到達度や足りない点を理解して今後の学習改善につなげられるようになり、また教師も自らの指導の足りない点や弱い点をより正確に把握できるようになり、授業改善のためのPDCAサイクルが回り始めるようになるでしょう。
評価方法には工夫が必要です。大人の皆さんは、学校で行ってきたような試験の実施は嫌がる方が少なくありません。私も、可能な限り普段の授業のやり取り等を通して評価を行い、その結果を上手に受講者と共有する方法を模索しているのが現状です。
難しいけれどとても大切な学習評価を、皆さんは普段の授業においてどのように実施していらっしゃいますか。ぜひ皆さんの学習評価に対するお考えやご経験も紹介いただけるとうれしいです。
