【週刊ハンガンネット通信】第488号(2024年5月21日発行)
「済州語と私」
ペ・ジョンリョル
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30年ほど前、東京の朝鮮高校で教師をしていたときに担任を受け持ったクラスに済州島出身の一世の男子生徒がいました。済州島で生まれ育ちましたが、両親をなくし村の人たちにしばらく育てられた後で、中学生のときに親戚を頼って妹と一緒に東京に移住しました。そして親戚のつてで、朝鮮学校に編入してきたそうです。親戚の支援のもと、きょうだい二人で生活しており、兄は朝寝坊で学校をさぼるので、たびたび私が車で起こしに行ったりしていました。
きょうだい同士で話すときは済州語でした。「済州語でした」と書きましたが、聞き取れない言葉なのでそう推察するしかなく、でも済州語でしかないだろうということで、これが私にとって初めて済州語を聞いた経験です。
その後、カラオケで「감수광」という曲の済州語の歌詞を知り、映画でも何度か済州語に触れる機会があり、おぼろげながら済州語の一部の語尾や単語を知ることになりました。
私の故郷は慶尚道で、済州島にはほとんど直接の縁がなかったのですが、おばが10年ほど前に済州島に移住してペンション経営を始めたことで、2018年、初めてこの島を訪れました。済州語は今ではほとんど使われていないということは知っていましたが、あちこちで注意して耳をそばだてていると、それらしき言葉を時々耳にすることができました。でも話の内容はわからない。すると職業柄か「済州語の入門書を作れないか」という考えがだんだんと湧いてきました。
以前、『話してみよう!釜山語』という本を試行錯誤しながら作った経験があるので、入門書を作ることはできます。でも商売としては成り立ちません。さらに具体的なあてがわけでなく、そのままになっていました。
ところが今年、済州島出身で韓国語教師のパパ友ができたのですが、なんと彼は済州語ネイティブで言語学専攻だとのこと。試しに弊社の釜山語の本を参考に原稿を書いてもらったところ、結構な内容と量のものをいただくことができました。済州語企画が少し現実味を帯びてきました。
実は6月に発売される『hana Vol. 52』で済州島を特集します。そこで済州語入門のページも作ってみました。誌面の都合上、基本の文法や語彙、フレーズなど、ごく簡単な内容しか載せられませんが、興味のある方はぜひご覧いただければと思います。
手元にある原稿は「hana」記事の数倍の分量があり、さらに内容を充実させて音声を補完することで、それなりの本を作れると判断しています。あとは資金をどうするかですね。
教え子の同窓会をきっかけに、前述した教え子にもたまに会うようになったので、この本で勉強して、一度済州語で驚かせてみたいです。
