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【週刊ハンガンネット通信】第576号(2026年4月6日発行)
「昨年度の韓国語学習書の販売傾向」 株式会社HANA ペ・ジョンリョル
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新年度が始まりました。4月から新たにMLに加入された方が多くいらっしゃるので、少しだけ説明をいたします。
本通信は、韓国語教育に携わっている方を中心に、韓国や韓国語、さらには言語に関わりのある8〜10人ほどの筆者が週替わりで執筆しています。新年度第1号目のハンガン通信がたまたま私の順番になってしまいましたが、私は韓国語教育や教授は専門外ですので、韓国語の専門出版社の立場から駄文を綴らせていただきます。
さて、私の会社HANAも3月決算のため、同じく新年度を迎えました。昨年度の実績が確定するのは少し先ですが、一昨年とほぼ同じくらいの売上になりそうです。「成長がなかった」ということになりますが、昨年度は育休などで人員が大きく減ったので、悪条件の中、社員たちはかなり頑張ったと思います。
日本の出版は右肩下がりを続けていますので、現状維持と言えるだけでも良い方なのかもしれません。出版業界の関係者の話を聞くと、K文学や韓国語の分野は元気があるけど、目も当てられない状況のところも少なくないとのこと。昨今の状況を受けて資材はさらに値上がりするでしょうし、本を日本全国の書店に届けるシステム自体が危うくなっています。私たちも将来を楽観できません。
今回は、昨年度の韓国語学習書の販売傾向について自社の実績を基に見ていきたい思います。
何と言ってもTOPIKの対策書がよく売れました。受験者数が増えていることの反映でしょう。若い受験者が多いようですね。毎回TOPIKを受検しているHANA社員(50代男性)が、以前も女性に囲まれてアウェーだったが、最近は「若い」女性ばかりでもはや居場所がないと言っております。
小社のTOPIKの対策書はすでに定番化して大学での採用実績が良い本が着実に売れていることに加えて、以前から受験者の間で評判の良かった原書を翻訳出版できたことが大きかったです。かなり値段の張る本ですが、高くても必要な本は売れるということを実感しました。
次に売れたのが入門書です。入門レベルは一番需要が多く品数も多い領域で、各社からどんどん新刊が出されていますが、今後もずっと需要があると思います。問題はその中でいかに選ばれるかです。小社は零細版元で書店への営業が弱いのですが、幸いなことに書店さんにも「売れる」と認知される本が揃い、店頭でも良い扱いをしていただいています。
入門書の場合、買ってそのまま「本棚の肥やし」になる率が高いのではないかと思います。この「関門」を越えた人だけが初級学習者となり、単語集や検定対策、文法書など次のレベルの本を手に取るので、ここから先は本の売れ部数がぐっと減ります。本来HANAの強みでもあるのが、このレベルや中級・上級学習者向けの本なのですが、ここ数年は新刊を出しても、最初は売れても、その後なかなか売れ伸びないと感じています。文法書も売れないです。これらの本は、長い時間をかけて「元を取る」、全体のラインナップを構成するために揃えるといった考えで、割り切って出すしかないのかもしれません。
単語集は、小社に関しては検定レベル準拠のものが手堅い印象です。他社もamazonなどのランキングの上位に上がる単語集はやはりTOPIK対応のものが目立ちます。もっとも、アイディアが際立っている単語集で、検定に関係なく売れているものもあります。みんな単語を覚えるのには苦労しているんだなと実感します。
なお、ハングル能力検定試験が今年度から改訂されます。級ごとの単語の入れ替えがそれなりにあったので、以前のハン検基準で級別対応していた単語集は今後順次改訂が行われると思います(現在HANAでも進行中です)。
韓国語学習書の中心的な読者層は、40代から60代までの女性です。20年近く韓国語の出版をやっていますが、この年齢層はほぼ変わらず、時間の経過とともに高くなることがありませんでした。つまり常に人が入れ替わっているといえます。
一方で若い学習者も増えていますが、この層は無料で情報や知識を得ることに慣れていて本にお金を使わないといわれています。しかしTOPIK受験のために対策書はどうしても必要なのでしょう。POSのデータを見ても、TOPIKの対策書の購買者は他の本と比べて明らかに若年層が多いです。
この若年層をどうやって自社の読者に取り込んでいくかが、今後の経営上の大きな課題です。若年層との最も有効なタッチポイント(顧客接点)がYouTubeやTikTok、Instagramなどのショート動画ですが、平均年齢がそこそこ高いHANAにとっては苦手な分野で「束手無策」でした。しかし、この4月からフルタイムで新卒のアルバイト社員(しかも韓国語専攻)が入社したので、その若い感性に大いに期待したいと思います。
最後に、意外なことに韓国で出版産業はここ10年間売上が拡大しています。欧米の国々でも微増か現状維持のところが多く、日本以外の国で衰退しているという話を聞いたことがありません。
韓国ではここ数年MZ世代を中心に、紙の本を読むのがヒップ(Hip=かっこいい)と考える「텍스트힙(テキストヒップ)」というトレンドもあります。KPOPだけでなく、「本を読む人はかっこいい」という、この若者のKカルチャーもぜひ日本で流行ってほしいですね。
